企業間留学の目的やメリットをご紹介
2020年は新型コロナウイルス感染症が猛威をふるい、多くの企業が従業員の心身の健康への関心を高めたことでしょう。従業員が健康であれば、企業の業績もアップすると考える「健康経営」への注目度も上がっています。
同年秋、株式会社マイナビは健康経営の一環として「企業間留学」というサービスを始めました。従業員を他社に「留学」させて、知見を広げてもらう人材育成サービスです。
越境学習をテーマにした「企業間留学」のサービス設計に携わったマイナビの担当者に、組織や業種の垣根を超えた交流が、人材育成にとってどのような効果が期待されるのか聞きました。
取材・執筆・編集/ステップ編集部 |
目次[非表示]
- 1.企業のエンゲージメント、社員のモチベーションを高める
- 2.医療法人から行政まで 幅広い業態とマッチングできる
- 2.1.─送り手企業と受け手企業をマッチングさせるサービスは、他社にもあると思いますが、マイナビならではのポイントはどんなところですか?
- 2.2.─課題に合わせて、例えば医療機関と一般企業でマッチングした企業間留学もできるということですね。送り手企業と受け手企業とでは、それぞれどんなメリットが期待できるのでしょうか?
- 2.3.─企業間留学を利用する場合、費用負担はどのように分担するのですか?
- 2.4.─企業間留学を実際に行う場合の大まかなスケジュールを教えてください。
- 2.5.─社員を他社に送ったり、他社の社員を受け入れたりすることに抵抗がある企業もあると思います。現場では、どんなことが懸念点として挙がっていますか?
- 3.キャリア選択や人事戦略の自由度を上げ社会を活性化
企業のエンゲージメント、社員のモチベーションを高める
─企業間留学とは、一言で言うとどういうものですか?
企業間留学は、社員を他社に送り出したい企業と他社の社員を受け入れたい企業とをつなぐサービスで、一言で言うと「新しい体験を従業員に与えるもの」です。
時代の変化に合わせるために、ほとんどの企業は新しいことへの挑戦が求められています。そういったことに慣れている企業もあれば、そうではない企業もあります。
そこで、どんな企業でも新しい知識や経験、ノウハウを得られるような機会を提供したいと考えました。
実際、人材育成や社内活性化といった目的でサービスの利用を検討くださるケースが多いですね。新しいことをやるといっても、何から始めたらいいか分からない場合、実際に新しい取り組みを行っている企業に「留学」して学ぶことが効率的だと思います。
マイナビ企業間留学の仕組み
─最近、組織の多様性(ダイバーシティ)が推進されています。他社の人材と交流する企業間留学は、そういう意味でも関心を集めそうですね。
そうですね。企業にとってはエンゲージメント(仕事の熱意度)が高められ、働く人にとってはモチベーションが高められるサービスだと考えています。
調査データ※にも表れていますが、今の若い世代は、「一つの環境で一つの仕事をずっとやっていく」―とは考えておらず、いろんな仕事を経験したいという人が多いのです。
実はこのサービスを考えたのは、副業やパラレルキャリアに着目したことがきっかけでした。本業の他に仕事を持つ場合、以前は収入を増やすことを目的とする「副業」が多かったのですが、今は経験や人脈づくりといった成長機会を目的にしたポジティブな理由の「パラレルキャリア」も増えています。
この点に注目し、働く人の新しいキャリア観に合う人事戦略が新しいサービスになるのではないかと考えました。働く人の気持ちに寄り添い、企業の業績向上にもつなげていけると思っています。
医療法人から行政まで 幅広い業態とマッチングできる
─送り手企業と受け手企業をマッチングさせるサービスは、他社にもあると思いますが、マイナビならではのポイントはどんなところですか?
マイナビの一番の強みは、全国に拠点を持ち、医療法人から民間企業、特定法人、行政までと幅広い業態と取引をしているところです。これは、人材紹介会社としては珍しく、マッチングのレパートリーやネットワークの広さが他社とは違います。
マッチングのバリエーションが増えれば増えるほど、解決できる課題が増えます。長年、新卒から中途採用まで人事課題の解決にも携わってきているので、おそらく提案できないケースはないと思います。
─課題に合わせて、例えば医療機関と一般企業でマッチングした企業間留学もできるということですね。送り手企業と受け手企業とでは、それぞれどんなメリットが期待できるのでしょうか?
送り手企業のメリットは、シナジー(相乗効果)を創出したい特定の企業に直接リーチできるところです。20代後半から30代のリーダー候補の社員に「期待感を伝えるツール」としても有効だと考えています。
「期待しているぞ」と言葉をかけるだけでは、本人にどれくらい伝わっているのかは分かりませんよね。そんな時には、ぜひ企業間留学を利用してください。
「あなたに期待しているから、さまざまな経験をしてもらうために会社のお金で『留学』してもらう」と、留学という「行動」と共に伝えられたらどうでしょう。より会社側の期待感が伝わるんじゃないでしょうか。
受け手企業にとっては、費用負担なく人材を受け入れられるところです。マッチングの最終段階で、どういう人を受け入れるのかしっかりお伝えするので、その人が培ってきた知識や経験の生かし方を考えてほしいと思います。
また、自分たちの仕事や職場に外部の視点が入ることは、既存社員にとっても気づきや成長があるはずです。例えば、金融機関の方が人材紹介業者に留学する場合、単に新規開拓や成約を求めるのではなく、金融機関で働いてきた人の求人や転職支援のポイントを一緒に考えてもらう、といった業務がイメージされます。
─企業間留学を利用する場合、費用負担はどのように分担するのですか?
費用が発生するのは、送り手企業だけです。受け手企業は一切費用がかかりません。これは「出向」とは違うポイントですね。
出向の場合は、労働力と見なすので、受け入れ企業も出向社員と労働契約を結ぶ必要があります。企業間留学ではより自由なマッチングを実現するために、受け手企業にとっては労働力ではないという点を重視してサービスを設計しました。
─企業間留学を実際に行う場合の大まかなスケジュールを教えてください。
3カ月間の留学の場合、私たちは前後約2カ月ずつ関わることになります。実施前はマッチングから受け手企業との擦り合わせ、実施後は、留学者が所属企業へ提出する報告書の作成や外部への情報発信の支援も行います。
留学期間は「3カ月」を基本にしていますが、1カ月ほどの短期留学か、半年から1年の長期留学のどちらかになるケースが多いようです。そこは柔軟に、2社間の意向を確認しながら仲介しています。
サービスの流れとしては、まず送り手側に企業間留学の内容を紹介し、関心があれば、抱えている課題をヒアリングして、その課題解決ができそうな企業をいくつかピックアップし、プランを作成して提案します。
留学したい企業が決まれば、受け手企業に打診し、互いにシナジーの創出が見込めるとなったら、マイナビを含めた三社で擦り合わせし、実施するという流れです。
─社員を他社に送ったり、他社の社員を受け入れたりすることに抵抗がある企業もあると思います。現場では、どんなことが懸念点として挙がっていますか?
「留学に行った社員が(他の業種に興味を持ち)辞めてしまったらどうするのか」といった声を聞くことはあります。
人材を社外に出す以上そういったリスクはありますが、留学から戻ってきた後のミッションをきちんと伝えて送り出せば、危惧するような事態にはならないと思います。リスクよりも得られるものの方が大きいから社員に投資をしたい、というお話をしてくださる企業の方が多いのが実情です。
受け手企業は、社外の人が入ってくることへの社員の抵抗感に不安を抱くかもしれません。
でも、派遣社員や外部委託の方がいる企業は多く、ほとんどの会社で自社以外の人に仕事を任せた経験があるはずです。
また、受け手企業の情報を持ち帰られてしまうリスクも考えられますが、機密情報に関わる業務には携わらせないという業務範囲の設定で回避できると考えています。そういう業務内容の設定にもマイナビが介入し、リスクを減らしていきます。
キャリア選択や人事戦略の自由度を上げ社会を活性化
─現在、どういう企業からのお問い合わせが多いですか?
送り手側ですと、かなり幅広い業種からお問い合わせいただきます。特に安定的だけれども変化が少ないような老舗企業が多いと感じます。受け手企業側はさらに業種の幅が広く、大手企業からスタートアップ企業まで、あとは管理部門に人が少ないという企業も多いですね。
─事業の多角化を進める企業が増える中、企業間留学はどんどん広がっていくサービスだと感じます。今後の展望を教えてください。
こういうサービスを利用しなくても社員の循環ができていたり、新しい流れが入ってきたりする仕組みが既にできている企業もあると思います。個人的にはそういう体制が整っている企業と整っていない企業の二極化が進んでいると感じています。
企業間留学は、その差を埋めていくようなサービスにしたいと思います。一人一人のキャリア選択や、会社の人事戦略の自由度を上げて、世の中を活性化していくための一つのツールになったらうれしいです。