他社留学とは?経営課題解決にもつながる注目の人材育成法を解説
先が読めない今の時代に、人と企業の両方が強くなれる人材育成法として注目を集めているのが、他社留学です。他社留学の概要や効果などについて解説します。
目次[非表示]
- 1.他社留学とは?経営課題解決にもつながる注目の人材育成法を解説
- 1.1.他社留学は経営課題解決にもつながる人材育成法
- 1.2.他社留学の仕組み
- 2.他社留学のニーズが増加する背景
- 2.1.市場の成熟の極まり
- 2.2.人材の流動性の高まり
- 3.他社留学で期待できる効果
- 3.1.送り手企業が得られる効果
- 3.1.1.・従業員の成長が期待できる
- 3.1.2.・役職年齢層の活性化ができる
- 3.1.3.・新たなビジネス展開の可能性が高まる
- 3.1.4.・自社の魅力を再認識してもらえる
- 3.2.受け手企業が得られる効果
- 3.2.1.・組織の活性化につながる
- 3.2.2.・他社のノウハウを獲得できる
- 3.2.3.・企業の価値が向上できる
- 3.3.留学する従業員が得られる効果
- 3.3.1.・自己成長が望める
- 3.3.2.・留学終了後も人脈が活かせる
- 4.他社留学を始める前に確認しておきたい事項
- 4.1.雇用契約の確認をする
- 4.2.留学する従業員と同意を得る
- 5.他社留学の受け手に多い企業の具体例を紹介
- 5.1.産業開発ベンチャー企業
- 5.2.全国展開する医療法人
- 5.3.総合コンサルティングファーム
- 5.4.老舗カルチャースクール
- 6.他社留学で、企業と従業員の価値をともに向上させよう
他社留学とは?経営課題解決にもつながる注目の人材育成法を解説
現代は、定年まで1つの企業に勤め上げる旧来の働き方から、企業に依存せず、個の力で勝負する働き方へとシフトしているといっていいでしょう。副業やフリーランスといった働き方の多様化のほか、新型コロナウイルス感染症拡大の不安などが、不確実な時代を生き抜くビジネスパーソンの背中を押しているといえるかもしれません。その一方で、企業は優秀な人材の流出という課題に直面しています。
このような状況下で、人だけでなく企業も強さを増すことのできる人材育成法として注目を集めているのが、他社留学です。ここでは、他社留学の概要とその効果について解説します。
他社留学は経営課題解決にもつながる人材育成法
他社留学は、従業員が現職から籍を移さずに、企業間の契約にもとづいて他社で働くという人材育成法です。あらかじめ定めた留学期間が満了すれば元の職場に戻り、学びを深めていく形が留学に似ていることから、他社留学と呼ばれます。
一定期間、他社で就業する機会を従業員に提供することで、企業側は優秀な人材を手放すことなく、自社の枠にとらわれないタイプの従業員や、自社の経営課題を解決できる人材を育成できるメリットがあります。一方、従業員側は、新たな仕事や環境を経験したいという欲求を、転職をせずとも満たすことができます。
他社留学の仕組み
他社留学の仕組みは、人材を送り出す企業(送り手企業)と、人材を受け入れる企業(受け手企業)とが研修契約を結ぶことによって成り立ちます。
研修契約期間中に、従業員と雇用契約を結んでいるのは送り手企業で、受け手企業と契約を結ぶことはありません。契約期間が満了すれば、従業員は送り手企業に戻って働きます。
図:他社留学の送り手企業と受け手企業の関係
他社留学のニーズが増加する背景
まずは、他社留学がなぜ注目を集めているのか、また実際に導入する企業が増えているのかについて、その背景から見ていきましょう。
市場の成熟の極まり
国内製品やサービスが一通り普及した今、多くのマーケットが成熟期を迎えています。人口の減少傾向もあり、今後爆発的な売上拡大も期待できない状況で、世の中は激しく変化し、企業は経営やマーケティング戦略の見直しに迫られています。
その一方で、特に成熟したマーケットにいる企業は、ビジネスの仕組みや考え方が完成されていることが多く、新しい戦略を立案することに向いていません。従業員は、これまでは既存のレールの上を歩いていれば特に支障がなく、柔軟な発想力を求められる経験をしてこなかったのです。
レガシー企業と呼ばれるような日本の歴史ある大企業の多くも、戦後から高度成長期にかけて飛躍した企業であり、優秀な人材を多く抱えながらも、新規事業を生み出せないジレンマに陥っています。
そのように、停滞した社内に風穴を開け、新規の企画や事業開発につながる手法として期待されているのが他社留学なのです。
人材の流動性の高まり
個人の価値観の多様化、国による働き方改革の推進、新型コロナウイルス感染症拡大によるテレワークの普及などで、働き方の選択肢は着実に増えています。今のような不確実な社会において、正社員の雇用と収入の安定も揺らぎ、個人で勉強会やビジネススクールに参加したり、副業やフリーランスなど新しい働き方に目を向けたりする人も増えてきました。
そのようにして、従業員が個別に知見を深めることは、社内の底上げや活性化につながる面もあり、企業にとっては喜ばしいことです。その一方で、副業やフリーランスで成果を出した従業員が、企業に所属する意義を失い、独立する可能性が高まるという意味では、懸念材料でもあるでしょう。
他社留学は、副業やフリーランスとは異なり、あくまで企業に所属しながら学ぶ意欲を満たすことができるので、転職の懸念を払拭する点でも有効に働きます。
他社留学で期待できる効果
ここからは、実際に他社留学を行った際に期待できる効果について、送り手、受け手それぞれの企業と、留学する従業員の立場からご紹介します。
送り手企業が得られる効果
・従業員の成長が期待できる
定期的に社内の研修や勉強会を開き、従業員のスキル向上を図る企業は少なくありません。社内研修は、企業内ですぐに活かせる技術や知見を習得できる点や、従業員同士の連帯感を高められる点ではメリットとなりますが、どうしても内向きになりがちで、発想も固定されがちです。
その点、他社留学ならば、社外でまったく新しい経験を積むことができます。固定観念にとらわれない新しい視点を得ることができ、従業員が飛躍的に成長する可能性も高まります。
・役職年齢層の活性化ができる
終身雇用が当たり前だったバブル期に大量採用され、長年同じ仕事を続けてきたミドル層・シニア層は、それ以降の世代に比べると、変化の激しい時代への順応力が乏しい傾向もあります。他社留学の活用によって役職年齢層にも刺激となる効果が期待できるでしょう。
・新たなビジネス展開の可能性が高まる
他社留学を経験した従業員は、再び自社に戻ってきたタイミングで、留学で得た学びを還元します。例えば、勉強会などで講師として活躍する場を与えると、積極的にノウハウを広めてくれるでしょう。そうして、一人の従業員の学びが社内に広く浸透することで、新たなビジネスが加速度的に進む可能性が高まるのです。
・自社の魅力を再認識してもらえる
他社留学が人材の流出につながるのではないかと懸念する企業や担当者は、少なくないと思います。しかし、従業員の立場からすれば、在職中に通常の仕事をこなしながら転職活動を行うのは、大変なものです。自社の安定した雇用環境を維持しながら、他社で学べることは従業員にとっても大きなメリットなのは間違いありません。他社留学により、自社のすばらしさや強みを再認識し、自社への思いが高まるとポジティブに捉えるべきでしょう。
受け手企業が得られる効果
・組織の活性化につながる
他社留学では、採用コストをかけずに優秀な人材の受け入れが可能です。また、自社では採用できないタイプの人材が加わると、組織は活性化するものです。
・他社のノウハウを獲得できる
送り手の企業と同じく、留学した従業員を通じて他社のノウハウを獲得できるのも、他社留学のメリットのひとつです。それにより、結果的に事業の成長につながるようなアイディアが生まれることが期待できます。
・企業の価値が向上できる
企業間留学は、まだまだ新しい取り組みです。率先して取り組むことにより、企業のブランディング向上や採用への好影響につながるでしょう。
留学する従業員が得られる効果
・自己成長が望める
他社の仕事や文化にふれることで、従業員の視野は確実に広がります。他社の知見やスキルを習得できますし、元の組織での働き方が通用しないケースも出てくるはずです。それに対して、トライ&エラーを繰り返すことで、みずからの仕事の効率化などにつながります。
・留学終了後も人脈が活かせる
他社留学で得た人脈は、留学先でだけでなく、元の組織に戻ってからも活かせます。留学終了後も関係を保つことで、互いに仕事の受発注をしたり、企業の枠を超えた共同プロジェクトを立ち上げたりと、新たなビジネスにつなげることが可能です。
他社留学を始める前に確認しておきたい事項
他社留学を行う前には、留学する従業員と確認をとっておくべきことがあります。他社留学を行う従業員が決まったら、まずは下記について本人にしっかり確認をしておくべきでしょう。
雇用契約の確認をする
他社留学は、あくまでも送り手となる企業に籍を置いたまま、受け手の企業とは雇用契約は結ばずに、研修という形で仕事に就きます。そのため、送り手と受け手の企業間の契約も研修契約となり、従業員は一定期間での帰社が前提となることを、最初に確認しておきましょう。
留学する従業員と同意を得る
何の説明もなく留学に選ばれた場合、すべての従業員が納得して留学するとは限りません。帰社を前提とした他社留学の仕組みはもちろん、会社が期待していることを丁寧に説明し、従業員の理解を得た上で、留学を進めることが大切です。
他社留学の受け手に多い企業の具体例を紹介
他社留学に取り組みやすい企業には、どのような特徴があるのでしょうか。ここからは、他社留学の受け手となることの多い企業の例を見ていきましょう。
産業開発ベンチャー企業
大手外資系コンサルティングファーム出身者が中心となって設立したスタートアップで、途上国の産業開発を手掛けている産業開発ベンチャー企業。ベンチャーらしく、一人ひとりが裁量権を持って事業開発に取り組んでおり、これまでは保守的な会社が多い傾向にあった産業開発の業界に、新風を吹き込んでいます。
このような企業には、意思決定までに時間がかかることが多い大企業や、成長が停滞する老舗企業などからの留学が有効です。留学後の従業員は、瞬発力や変化への対応力を磨くことができるでしょう。
全国展開する医療法人
全国で幅広く施設を展開する医療法人では、新たな形での医療複合施設開設に向け、医療業界に限定しない幅広い知見を求めて、他社留学の受け入れを希望しています。
このような企業への留学は、自社の従業員がこれまでに培ってきた経験をどこまで活かせるかを、転職せずに試せる大きなチャンスです。留学後の従業員は、発信力や提案力の向上が期待できます。
総合コンサルティングファーム
事業承継やM&Aに強い国内大手の経営コンサルティングファームでは、多様なクライアントの経営課題解決に関わるため、各領域の専門知識が吸収できる形での他社留学の受け入れを望んでいます。
留学した従業員は、所属する業界の経験や知見をもとに、クライアントの課題解決を進めることになるでしょう。その経験により、自社に帰った後は、自社の経営課題を具体的に見つけ出し、解決へと導くことのできる人材になることが期待できます。
老舗カルチャースクール
多くの会員を抱える老舗カルチャースクールは、コロナ禍を受け、対面のみの教室運営からの脱却を図り、新規事業を強化していきたいと考えています。ジャンルを問わず、生徒を引きつける柔軟でおもしろいアイディアが求められる環境なので、留学する従業員は発想力が鍛えられ、新規企画や事業開発のような経験を豊富に積むことが可能です。
他社留学で、企業と従業員の価値をともに向上させよう
コロナ禍の影響で、社会には不透明感が増しています。そうした先行きが見えにくい環境下で、企業のさらなる成長を実現するには、他社留学のような新たな形で組織の活性化を図ることが大切です。
送り手企業、受け手企業、留学する従業員の3者にメリットがもたらされ、成長できる他社留学を実践し、さらなる生産性向上を目指しましょう。
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