企業間のレンタル移籍とは?企業間留学と併せてメリットを解説
従業員が自社に在籍したまま他社で業務経験を積み、個人と企業双方にメリットをもたらす「レンタル移籍」と「企業間留学」。それぞれのメリットと注意点を解説します。
目次[非表示]
- 1.企業間のレンタル移籍とは?企業間留学と併せてメリットを解説
- 2.レンタル移籍は「人材を出す側」「人材を受け入れる側」の双方にメリットがある
- 3.レンタル移籍の仕組み
- 4.レンタル移籍で生まれる送り手企業のメリット
- 4.1.人材育成につながる
- 4.2.自社へのロイヤルティが高まる
- 5.レンタル移籍で生まれる受け手企業のメリット
- 5.1.優秀な人材を確保できる
- 5.2.他企業のノウハウを取り込める
- 6.レンタル移籍と同様の効果が期待できる「企業間留学」
- 6.1.送り手企業のメリット
- 6.2.受け手企業のメリット
- 6.3.留学する従業員のメリット
- 7.レンタル移籍や企業間留学を行う際の注意点
- 7.1.対象となる従業員の意向をしっかり確認する
- 7.2.移籍中のフォローを怠らない
- 7.3.移籍者、留学者の経験が生きるよう、迎え入れる体制を作っておく
- 7.4.ほかの従業員にも移籍者、留学者に期待していることを説明する
- 8.従業員フォローを重視して、レンタル移籍や企業間留学を成功させよう
企業間のレンタル移籍とは?企業間留学と併せてメリットを解説
新卒で入社した会社に、定年まで働き続ける。終身雇用を前提として組織に貢献するこうした考え方は、価値観の多様化や、個人と企業の関係性の変化に伴って影を潜めつつあります。
代わって台頭してきたのが、「いろいろな仕事を経験したい」「やりがいのある仕事でスキルを高めたい」といった、「個」を重視する働き方です。経験づくり、人脈づくりを仕事の主な目的とする人も増える中、企業にはそうした気持ちに寄り添いながら、自社へのエンゲージメントを高める環境づくりが求められています。
ここでは、そんな新しい環境づくりに寄与する「レンタル移籍」や「企業間留学」について解説します。従業員が自社に在籍したまま他社で業務経験を積み、個人と企業の双方にメリットをもたらす新しい働き方とはどのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。
レンタル移籍は「人材を出す側」「人材を受け入れる側」の双方にメリットがある
一般的にレンタル移籍と呼ばれているのは、従業員に対して一定期間他社で就業する機会を提供し、自社とは異なる環境の中で学びを得て戻ってきてもらうシステムです。
ビジネスシーンでは耳慣れない用語ですが、プロサッカーのオフシーズンによく聞く「レンタル移籍(期限つき移籍)」を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。
レンタル移籍が決まったプロサッカー選手は、現在の所属クラブとの契約を維持したまま他クラブに移籍します。ファンは、移籍先のクラブでプレーする選手を見ることになりますが、それが永遠に続くわけではありません。
所属しているクラブとは異なる戦術のもとで新たな戦い方を学んだり、移籍先の若手を指導したりした選手は、最初に定めた移籍期間を満了すると元のクラブに戻ります。すると、その選手は移籍先で身につけた技術や戦術を所属クラブに還元し、戦力アップに貢献します。
一方、選手を受け入れたクラブ側も、その選手がチームメンバーに与えた刺激やノウハウを活かして、チーム力を高めることができるのがこのシステムのポイントです。
レンタル移籍は、「人材を出す側」「人材を受け入れる側」の双方にメリットがある、Win-WInの取り組みだといえるでしょう。
レンタル移籍の仕組み
レンタル移籍は、送り手企業と受け手企業のあいだで「研修契約」を結び、研修制度の一環として人材の交流を図るものです。そのため、給与は在籍している企業(送り手企業)から支払われることが通例です。
また、移籍する従業員は、在籍する企業とのあいだで移籍中に行う仕事について取り決めをし、「業務設計書」等を交わした上で移籍するのが一般的です。
なお、レンタル移籍と在籍出向の違いはどこにあるのか疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
在籍出向は、出向元企業との雇用関係を維持したまま、出向先企業とも雇用関係を結び、出向先で勤務する働き方です。つまり、出向元・出向先の双方と労働契約を結んでいる状態のため、企業のどちらが給与の支払いをしても構いません。一般的には、双方の企業で負担し合うことが多いでしょう。
ですから、レンタル移籍と在籍出向は、雇用形態と給与の支払いに違いがあるといえるのです。
レンタル移籍で生まれる送り手企業のメリット
ここからは、人材を出す送り手企業と、人材を受け入れる受け手企業、双方の立場から、レンタル移籍を行うメリットについて解説します。
まずは、送り手企業のメリットから紹介をしていきましょう。
人材育成につながる
レンタル移籍は、人材育成の役割を果たします。レンタル移籍をする従業員は、次のような経験を通して大きく成長し、中長期的に所属先企業の発展に貢献できる人材になることが期待できます。
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経験や知見が通用しない環境で、自分の力を試す経験
レンタル移籍をすると、働く場所も、いっしょに働く仲間も変わります。レンタル移籍となる従業員は、慣れ親しんだ環境とはまったく異なる環境下で働くため、これまでの常識を一度リセットしなくてはなりません。
特に、移籍先で未経験の業務に就く場合や、名の知れた大企業からベンチャー企業に移籍した場合などは、これまでの経験や知見が通用しづらい中でのスタートとなります。ルーティーンや馴れ合いのない状況で真摯に仕事に取り組んだ従業員は、自分の強みや弱みにあらためて気づき、人間的にも一回り成長して帰ってくるはずです。
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「0」から「1」を生み出す経験
移籍先がスタートアップ企業の場合、「0」から「1」を生み出す提案や実行力が求められることもあります。過去の成功法則に則って仕事をするスタイルが定着している企業で働いていると、正解のない中で思考錯誤した経験が少ない人も多いでしょう。
しかし、移籍先でこうした経験を積むと、過去の成功例を鵜呑みにせず、現状に合った最適解をみずから考える癖が身につくといった期待ができます。
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マルチタスクの経験
ベンチャー企業や立ち上がったばかりの新規事業部は、少数精鋭で構成されているケースが多いです。多岐にわたる業務を、一人がマルチタスクでこなさなくてはならないことも珍しくありません。レンタル移籍をした従業員は、自然と業務を処理するスピードがアップし、考え方の幅も広がります。
また、自分が経験してきた業務以外の仕事も身につけると、チームメンバーの業務内容や進捗具合も具体的に理解できるようになり、課題解決力が高まると考えられます。
自社へのロイヤルティが高まる
レンタル移籍で他社に勤務すると、内部にいるときはわからなかった自社の良さが見えてくることがあります。組織風土や、上司と部下の関係性、仕事の進め方などを客観的に見直すことで、「会社に戻ったらこんな風に働こう」「あんな改革をしてみよう」といった、新しい視点も生まれるかもしれません。
レンタル移籍を経験した従業員は、自社へのロイヤルティが高まり、仕事に対するモチベーションのアップにも期待が持てます。
レンタル移籍で生まれる受け手企業のメリット
続いては、人材を受け入れる受け手企業のメリットを見ていきましょう。メリットとなるのは、優秀な人材と他企業のノウハウを獲得できることです。
優秀な人材を確保できる
人材の送り手企業は、移籍期間満了後の活躍が期待でき、なおかつ自社の顔として恥ずかしくない人材をレンタル移籍の対象者として選出する傾向があります。そのため、基本的には即戦力として十分活躍できるだけの知識と豊富な経験があり、さらには伸びしろもある人材が選出されることになるでしょう。レンタル移籍は本人との合意にもとづいているため、仕事に対するモチベーションの高さも期待できます。
通常、こうした優秀な人材を中途で採用しようとすれば、相応の手間とコストがかかります。期待どおりの人材が市場に少ないことに加えて、ようやく採用をしても会社に定着せず、採用活動が長期にわたることも考えられるからです。
しかし、レンタル移籍であれば、受け手企業は採用活動をせずに優秀な人材にジョインしてもらえる上、一定期間は必ず働いてくれる保証があるので安心です。
他企業のノウハウを取り込める
「大企業からベンチャーへ」「業界で大成功を遂げている企業から新たな事業の立ち上げメンバーに」など、レンタル移籍の形はさまざまです。共通しているのは、レンタル移籍の受け入れによって、自社にないノウハウや知見を取り入れられることでしょう。
同じ業界からの受け入れであっても、「こんなやり方があったのか」「こうすれば良かったのか」といった新たな発見は、必ずあるはずです。成功している企業、勢いのある企業とのあいだでのレンタル移籍が実現すれば、自社の飛躍のきっかけとなるヒントが得られるかもしれません。
レンタル移籍と同様の効果が期待できる「企業間留学」
レンタル移籍と同様の仕組みで、送り手企業と受け手企業の双方に高い効果をもたらす手法に、マイナビが提供する「マイナビ企業間留学」があります。
マイナビ企業間留学とは、従業員を他社に送り出して成長を促したい企業と、他社の優秀な従業員の受け入れを希望する企業をつなぎ、意欲ある人材に成長機会を与える人材育成サービスです。
図:企業間留学
レンタル移籍と企業間留学は、送り手企業と受け手企業はもちろん、移籍する従業員にとってもメリットがある仕組みです。
それらのメリットはどのようなものなのか、更に詳しく見ていきましょう。
送り手企業のメリット
企業間留学は、人材の成長を促します。従業員が成長をして戻ってきた際は、その人物を起点として社内が活性化し、企業全体の成長につながることが期待できます。企業間留学でシナジーのある企業と巡り合えれば、その後の事業展開にも良い効果が期待できるでしょう。
また、学ぶ意欲が高く、やりがいを求めて外に目を向ける優秀な従業員を企業間留学で送り出すことで、当人の離職を防ぎつつ、仕事に対する満足度とモチベーションを高められることも大きなメリットです。
受け手企業のメリット
企業間留学を取り入れると、自社では採用するのが難しい、能力の高い即戦力人材も確保できる可能性があります。優秀な人材を登用すると、在籍しているほかの従業員も刺激を受け、組織全体が活性化するでしょう。
事業や社内の雰囲気に停滞感が広がっていると感じていたら、ポジティブな刺激を生む企業間留学を一考してもいいかもしれません。
留学する従業員のメリット
企業間留学によって従業員は、現職との雇用関係を維持したまま、自社ではできない新しいチャレンジをし、経験値を高めたり、人脈を広げたりすることができます。
また、これまでの経験が通用しない新しい環境下に身を置くことで、自分の強みや弱みを客観的に把握でき、その気づきを企業間留学以降のキャリア形成に活かせる点もメリットです。
レンタル移籍や企業間留学を行う際の注意点
レンタル移籍や企業間留学を行う際には、どのような点に気をつけるべきなのでしょうか。ここでは、レンタル移籍や企業間留学を行う際の注意点を詳しくご紹介します。
対象となる従業員の意向をしっかり確認する
レンタル移籍も企業間留学も、対象となる従業員の在籍企業は変わりません。異なる環境で経験を積むことができ、長期的にはキャリアプランにも好影響を与えることから、企業は良かれと思って対象者を選定することがあります。
しかし、キャリアに対する考え方は、従業員によって異なります。仕事に熱心で、高い成果を出していても、現場の仕事にやりがいを感じていてキャリアアップを希望していなかったり、現在の環境や人間関係が仕事のモチベーションになっていたりすることもあるでしょう。
また、勤務する職場が変わることで、家事・育児との両立に少なからず影響が及ぶケースも想定されます。
企業は、必ず対象となる従業員と個別にミーティングの機会を設け、レンタル移籍や企業間留学の目的とメリットを丁寧に説明するとともに、本人の意向を必ず確認するようにしてください。
移籍中のフォローを怠らない
移籍期間が終われば在籍している企業に戻ることができるといっても、慣れない仕事と環境の中で過ごす従業員には不安もあるはずです。企業が「移籍させた後は、帰ってきてくれるのを待つだけ」という姿勢では、移籍した従業員は見捨てられたように感じ、企業に対する帰属意識や忠誠心が低下するかもしれません。
移籍や留学を無事に終えたものの、従業員のロイヤルティが低下した状態になっており、十分に能力が発揮できなくなっては移籍させた意義も薄れます。企業は、移籍や留学の期間中も従業員に対してこまめにコミュニケーションをとり、フォローを怠らないようにしてください。
全社で行うイベントや会議、部活動への参加を促すなど、「働く場所は違っても、大切な従業員であることに変わりはない」というメッセージを伝え続けることが大切です。
移籍者、留学者の経験が生きるよう、迎え入れる体制を作っておく
人材を送り出す企業にとって、移籍者や留学者が移籍先で得た知見や技術を発揮し、事業の発展や創出に貢献して、初めてレンタル移籍や企業間留学は成功したといえます。企業は、従業員との定期的なコミュニケーションを通じて、移籍者や留学者がどんな経験を積んでいるのかを確認し、どうすればその知見を最大限活かすことができるか検討しましょう。
担当してもらうミッションが新規事業創出であれ、既存事業のグロースであれ、移籍者、留学者の役職や仕事内容、裁量の幅などは細かく決めておく必要があります。
ほかの従業員にも移籍者、留学者に期待していることを説明する
移籍者、留学者とともに業務を行う従業員に対しても、情報共有は忘れないようにしてください。移籍者、留学者と業務上の接点が生じる従業員には、移籍者、留学者の立場や期待される役割についての説明をしておきましょう。
移籍者、留学者が孤独な状況にならないよう、好意的に連携できる体制を構築しておくことも重要です。
従業員フォローを重視して、レンタル移籍や企業間留学を成功させよう
レンタル移籍や企業間留学は、人材育成の新しい手法として注目されてきています。レンタル移籍や企業間留学のメリットを十分に享受するには、対象となる従業員はもちろん、移籍者や留学者が組織に復帰した際に関わりを持つ従業員への丁寧な説明も欠かせません。レンタル移籍や企業間留学を導入する際は、移籍前から移籍中、移籍後まで、常に従業員へのフォローに力を入れることを忘れないでください。
人材育成の側面としてはもちろん、「個を重視する」働き方を求めている従業員の自社へのエンゲージメントを高める環境づくりの一環として、レンタル移籍や企業間留学を成功させましょう。
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