コロナ禍で増えた在籍出向。その背景やメリット、成功事例を紹介

コロナ禍で増えた在籍出向。その背景やメリット、成功事例を紹介

在籍出向には、雇用維持以外にもさまざまなメリットがあります。コロナ禍で増えた在籍出向のその後を検証するとともに、具体的な成果に結びついている事例をご紹介します。

目次[非表示]

  1. 1.コロナ禍で増えた在籍出向。その背景やメリット、成功事例を紹介
  2. 2.在籍出向とは、一定期間のみ出向先で勤務する働き方
  3. 3.コロナ禍で在籍出向が増加した背景
  4. 4.在籍出向を利用するメリット
    1. 4.1.出向元のメリット
      1. 4.1.1.・一時的に人件費を圧縮して経営を安定化させられる
      2. 4.1.2.・人材の成長を支援できる
      3. 4.1.3.・組織の成長が期待できる
      4. 4.1.4.・条件を満たせば補助金が支給される
    2. 4.2.出向先企業のメリット
      1. 4.2.1.・即戦力人材で人員補強できる
      2. 4.2.2.・採用や育成のためのコストが削減できる
      3. 4.2.3.・既存従業員の育成につながる
    3. 4.3.出向者のメリット
      1. 4.3.1.・雇用が維持され、働く場ができる
      2. 4.3.2.・スキルアップできる
      3. 4.3.3.・人脈が増える
  5. 5.コロナ禍で増えた在籍出向の現状
    1. 5.1.異業種間における在籍出向の例
  6. 6.在籍出向後、具体的な成果に結びついている事例
    1. 6.1.スーパーマーケットA社の事例:スキルの相乗効果で顧客満足度がアップ
      1. 6.1.1.・自社の職場環境を見直すことができた
      2. 6.1.2.・顧客満足度が向上した
    2. 6.2.航空業B社の事例:地域の活性化につながる新商品を提案
    3. 6.3.国内空港旅客サービス業D社の事例:学生の教育に従事した経験を、若手の育成に活かす
    4. 6.4.販売、飲食サービス業F社の事例:出向者のアイディアをもとに新商品を開発・販売
      1. 6.4.1.・自社を知る良い機会になった
      2. 6.4.2.・スイーツを使った新メニューの開発、販売が決定
    5. 6.5.飲食サービス業H社の事例:出向先企業の従業員の職場定着に好影響
  7. 7.人材育成や新事業創出にもつながる在籍出向

コロナ禍で増えた在籍出向。その背景やメリット、成功事例を紹介

コロナ禍で急激な需要の減少に見舞われた業界では、従業員の雇用を維持するために「在籍出向」を活用する例が増加しました。アフターコロナと呼ばれる社会になり、それらの効果の検証が行われる中で、在籍出向には雇用維持以外にもさまざまなメリットがあることがわかってきています。

ここでは、コロナ禍で増えた在籍出向のその後を検証。具体的な成果に結びついている事例も併せてご紹介します。

【参照】マイナビキャリアサーチLab「コロナ禍で注目される「従業員シェア(雇用シェア)」の新たな可能性」|マイナビ(2021年5月)
https://career-research.mynavi.jp/column/20210525_9607/

在籍出向とは、一定期間のみ出向先で勤務する働き方

在籍出向とは、「出向元」となる現在の雇用先に籍を置いたまま、「出向先」の別企業で勤務する働き方です。

一般的に出向というと、契約上は現在の雇用先と何らかの関係が維持されていても、実際には出向先へ異動したままの状態になることを思い浮かべる方が多いかもしれません。在籍出向は、そうした従来の出向のイメージとは一線を画すものです。

在籍出向では、出向者は出向中も出向元との雇用関係が維持されるため、あらかじめ両社で定めた期間を満了した後は、出向元企業に戻って働くことが約束されています。

用語集で見る:在籍出向

【おすすめ参考記事】

  在籍出向が企業と人材を守る?健康経営に役立つ働き方を解説|ステップ – 企業と人を健康でつなぐ コロナ禍の影響で、新しい働き方として在籍出向が注目されてきています。在籍出向の仕組みや転籍との違いのほか、在籍出向が健康経営に役立つ理由について解説します。 株式会社マイナビ

コロナ禍で在籍出向が増加した背景

そもそも在籍出向は、1980年代から製造業を中心に活用されてきた背景があります。

製造業は国の経済状況や社会情勢の影響を受けやすく、優秀で働く意欲も高い人が余剰人員となって仕事を失うケースがありました。そこで、雇用を維持するために同業種間で人員をシェアする在籍出向が行われてきたのです。不況による失業者の増加を防ぐべく、政府もこれを後押ししていました。

コロナ禍においては、こうした仕組みを同業種だけでなく異業種にまで発展させ、事業を縮小せざるをえない企業から、人手不足に悩む企業への出向事例が増加しました。

2020年の初め頃から、外出自粛や緊急事態宣言の影響で旅行需要が激減し、苦しい経営状況に陥った航空業界や旅行業界による在籍出向が増えたのは代表的な例です。

これらの業界では、これまでどおり従業員を出社させても担当してもらう仕事がないため、一部の従業員を休業させ、政府が支給する「雇用調整助成金」(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)を活用して雇用を維持していました。(2023年3月31日までの休業をもって受付終了しました。)

しかし、何も仕事をせずに給与だけを得ても、愛社精神が高い人や、仕事に意義を感じている人、仕事が好きな人は、「休んでいるのに給与をもらっていいのか」「会社に貢献したいのにもどかしい」といった迷いや葛藤が生まれ、精神的につらい状況に陥りかねません。

かといって、従業員をリストラすれば、再び経営が軌道に乗った際、もう一度コストをかけて人員を採用しなくてはならなくなります。人材不足の中、現在雇用している優秀な従業員と同じだけのレベルの人材を確保することは容易ではないでしょう。

そこで、経営が厳しいあいだは他社で働いてもらい、社会情勢や経営状態が安定した際に戻ってきてもらう「在籍出向」を選択する企業が増加したのです。

【参照】ニッセイ基礎研究所「コロナ禍で注目浴びる在籍型出向-高年齢者の安定した雇用確保のために活用を-」|ニッセイ基礎研究所(2021年8月)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=68400?pno=2&site=nli

在籍出向を利用するメリット

ここで、在籍出向を利用するメリットを整理しておきましょう。在籍出向は、「出向元」「出向先」「出向者」、三者にそれぞれメリットがある働き方です。

出向元のメリット

在籍出向に取り組む出向元には、どのようなメリットがあるのでしょうか。下記で詳しく見ていきましょう。

・一時的に人件費を圧縮して経営を安定化させられる

業績悪化によって事業縮小を決断した企業にとって、人件費は経営を圧迫する大きな課題です。かといって安易にリストラを行うと、経営状況が回復した後の自社の首を絞めることになりかねません。
その点、在籍出向であれば、雇用契約を維持したまましばらく社員の働く場所を変えることができ、当該社員の人件費は出向先が支給することになるので、一時的に人件費を圧縮して経営の安定化を図ることが可能です。

・人材の成長を支援できる

出向者は、出向先での経験から新たな学びや気づきを得ます。同一の企業にいるあいだ、どうしても画一的になりがちな思考や視点にも変化が生まれ、成長を支援することができるでしょう。

・組織の成長が期待できる

大手企業で長く貢献してくれているベテラン従業員をスタートアップ企業へ、スタートアップ企業に在籍している期待の若手を大手企業にといったように、従業員の働く環境を大きく変えられる点も在籍出向のメリットのひとつです。

社内異動では実現できない環境の中で、自社にない文化や考え方を従業員に身につけて帰ってきてもらえば、出向元の従業員も大きな刺激を受けるでしょう。新たな事業のアイディアが生まれるなど、組織が飛躍するきっかけも生まれやすくなります。

・条件を満たせば補助金が支給される

新型コロナウイルスの感染拡大時、従業員を休業させていた企業に「雇用調整助成金」が支給されました。これは新型コロナウイルス感染症の影響によって事業活動を縮小する際、従業員の雇用維持を図る目的で雇用調整(休業)を実施する事業主に休業手当などの一部を助成するものです。事業主が従業員を出向させることで雇用を維持した場合も、雇用調整助成金の支給対象となります。(2023年3月31日までの休業をもって受付終了しました。)

また、コロナ禍の影響によって事業活動を縮小する際、従業員の雇用維持を図る目的で在籍出向を行う場合に、出向元と出向先の双方に対して出向者の賃金と経費の一部を助成する「産業雇用安定助成金」も支給されるようになりました。出向期間終了後は出向元で働くことが前提となっているなど、在籍出向の基本的な要件を満たすことが支給条件となっています。

出向先企業のメリット

出向人材を受け入れる出向先企業には、どのようなメリットがあるのでしょうか。主に、下記3つのメリットがあります。

・即戦力人材で人員補強できる

在籍出向は、出向元企業と出向先企業で定めた期間の満了とともに、出向者が出向元企業に戻ることを前提としています。そのため、出向元企業が選定する人材は、「他社で学んで、より成長してほしい」「経営が厳しい中でも、手放すのは惜しい」と考える優秀な人材であることが多いでしょう。

出向先企業は、経験や知識が豊富な人材や、ポテンシャルが高く出向先にもさまざまな影響を与えてくれる人材で人手不足を補うことができます。

・採用や育成のためのコストが削減できる

在籍出向は企業間の契約によって雇用をシェアする仕組みのため、採用活動のコストがかかりません。また、出向者は出向元企業ですでに十分な教育を受けているケースが多く、出向先企業では自社の業務の流れや基本的なルールを教えるだけで済むこととなり、一般的な採用に比べて教育コストの削減ができます。

・既存従業員の育成につながる

他社での豊富な知見と経験を持つ人材が企業に加われば、出向先の従業員も良い刺激を受けるでしょう。自社の常識とは異なる考え方が社内に持ち込まれることで、従業員の視点が変わり、新たな事業を生み出せる可能性もあります。

出向者のメリット

在籍出向は、出向者にもメリットのある仕組みです。どのようなメリットがあるのか、下記で詳しくご紹介します。

・雇用が維持され、働く場ができる

コロナ禍のように経営状態が悪化して在籍企業が休業する場合でも、出向者は在籍出向であれば雇用が維持され、いずれ出向元企業に戻る約束のもとで新たな仕事の場を得ることができます。リストラの懸念がなくなれば、安心して出向先での仕事に邁進し、将来につながる良い経験を積むことができるでしょう。

・スキルアップできる

在籍出向の活用は、経営悪化を原因とするものばかりではありません。従業員に他社で経験を積んでもらうために在籍出向を決める場合もあります。

同業種、異業種を問わず、現在の雇用先とは異なる環境に身を置くことでスキルアップできることは、出向者にとっての大きなメリットです。出向元企業に経験を持ち帰り、在職の従業員の成長につなげることができれば、マネジメント層などへのステップアップにもつながるでしょう。

・人脈が増える

ビジネスにおいては、人脈は非常に重要です。出向元企業に戻って新たな事業にチャレンジする際など、出向先企業で構築した人脈が活きる可能性もあるでしょう。出向元企業にとどまったままでは実現できない人間関係の広がりができることも、在籍出向のメリットです。

コロナ禍で増えた在籍出向の現状

ここからは、コロナ禍で増えた在籍出向の現状を見ていきましょう。

コロナ禍で事業が縮小した企業における雇用維持の手段として期待された在籍出向は、公的機関や企業のマッチング支援、国の助成制度などが後押しとなり、2021年2月からの1年間で1万440人が利用しました。

利用者数は助成制度の予算を組んだ際に想定された人数の4分の1にとどまっているものの、認知度は確実に高まっており、雇用維持の観点では一定の成果を出しているといえます。

また、厚生労働省が公表した「産業雇用安定助成金 出向実施計画届受理状況」を見ると、中小企業間での出向が43%、大企業間での出向が22%、中小企業から大企業への出向が19%、大企業から中小企業への出向が15%と、企業規模にかかわらず在籍出向が活用されていることがわかります。

出向元としては、コロナ禍で需要が減るなどの影響を受けた運輸業、郵便業、宿泊業、飲食サービス業などが目立ちました。出向元と出向先の組み合わせでは、製造業から製造業への同業種間が最も多いものの、全体では異業種への出向の割合が62.9%と、全体の半数以上を占める結果となっています。

なお、異業種間における在籍出向の組み合わせは、下記のような例があります。

異業種間における在籍出向の例

  • 運輸業から医療、福祉業
  • 広告業での営業サポートから農業、林業
  • 旅行代理店業から情報通信業

【参照】厚生労働省職業安定局 雇用開発企画課 労働移動支援室「雇用を守る在籍型出向、活用広がる」|厚生労働省(2022年2月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11654000/000902822.pdf

【参照】第一生命研究所「コロナ禍で活用される在籍型出向」|第一生命(2022年3月)
https://www.dlri.co.jp/files/ld/183829.pdf

在籍出向後、具体的な成果に結びついている事例

続いては、コロナ禍で実際に在籍出向を選択した企業の実例をご紹介します。在籍出向で得られる成果について、具体的に見ていきましょう。

スーパーマーケットA社の事例:スキルの相乗効果で顧客満足度がアップ

食料品や住居関連商品・酒類などを販売するスーパーマーケットの運営を手掛けるA社。コロナ禍では、緊急事態宣言や外出自粛要請などを受けて、食料品をはじめとした生活必需品の需要が高まり、普段以上に多くのお客様が訪れたといいます。

A社は、スタッフの検温や手指消毒の励行といった基本的な感染症対策を行いながら営業を続けていたものの、直接お客様と接するスタッフの心理的負荷が大きく、接客の質が低下することに悩んでいました。

当初は自社での人員増強を検討していましたが、小売店は応募が集まりにくい傾向や、定着率が低いという課題もあり、採用活動にかかるコストを考えるとなかなか通常の採用には手を出しにくかったそうです。

そこで導入したのが在籍出向です。導入後は、必要な人材を確保してスタッフの負荷を軽減できただけでなく、下記のような2つの大きな効果があったそうです。

・自社の職場環境を見直すことができた

A社は、他社の大切な人材を迎え入れるにあたり、自社の環境を見直して改善点を洗い出し、顧客に寄り添った接客の仕方と売り場を実現しました。

具体的には、お客様の目線に立った接客をするための売り場づくりや、従業員一人ひとりの役割の理解の推進などを行ったそうです。

・顧客満足度が向上した

異業種からの出向者のスキルはA社にないものだったため、これまでにない方法でお客様のニーズに対応することもできました。既存のスタッフも良い刺激を受け、売り場全体の活性化につながったそうです。

また、一方的にA社側がスキルやノウハウの提供を受けるだけでなく、出向者にA社のノウハウを持ち帰ってもらうことで、出向元企業も自社にないものを得られた点は在籍出向ならではのメリットでした。

航空業B社の事例:地域の活性化につながる新商品を提案

コロナ禍で需要が激減した業界のひとつに、航空業界があります。航空業のB社では、旅客が減少したことで運航に必要な人員も減ったため、人件費の確保が難しくなったことや、仕事に対するモチベーションが高いにもかかわらず休業を余儀なくされている人に、働く場を与えることを目的として在籍出向を採用しました。

B社の客室乗務員は約8,000人で、日本人が約87%を占め、13%は海外各国の基地に所属しています。コロナ禍での出向は2020年9月からスタートし、延べ1,500人が官公庁などに出向しました。

このうち、2021年4月1日から2022年2月28日まで官公庁に出向したCさんは、日本在住の外国人向けに新型コロナウイルス感染症の情報を伝えるSNSを開設するなど、ゼロから1を生み出す仕事に数多く従事。客室業務員としての仕事にも反映できる、情報の伝え方などを学んだといいます。

B社では、在籍出向を経験した従業員が得たノウハウを乗務に活かすほか、客室乗務員が全国に移住して地域の魅力を伝えたり、乗務と並行して観光地や名産品の情報を発信したりする活動に力を入れています。新たな取り組みとして、地元の企業との協力による新商品の開発なども実施されたそうです。

この事例は、在籍出向によって従業員のモチベーション維持と異業種での学びが叶うだけでなく、出向先から持ち帰ったノウハウを新たな事業の創出につなげられる可能性を示しています。出向者の成長だけでなく、自社の成長にもつながる点が在籍出向のメリットです。

国内空港旅客サービス業D社の事例:学生の教育に従事した経験を、若手の育成に活かす

国内の空港旅客サービス業D社で、利用客からの問い合わせ対応や新人教育に従事していたEさんは、コロナ禍による航空会社の減便・運休によって出勤数が半分になりました。そこで、会社から募集があった1年間の出向に応募。出向先は、接客業などを教育する専門学校でした。「学校で教育に携わった経験は、会社での若手教育にも役立つ」と考えての応募だったそうです。

D社は、現在の雇用先に近い職種で、現職の能力向上につながることを条件に出向先を選定しました。コロナ禍によって需要が落ち込んでいる期間、約100人が自動車販売会社や家電量販店などに出向しました。もちろん、景気回復後は自社に戻ってもらうことが前提であり、さまざまな異業種で得た経験を結集させてアフターコロナの需要に応えていく予定です。

このように、出向先が異業種であっても、業務に何らかの共通項が見いだせる業種や企業を出向先として選定することで、出向希望者は募りやすくなります。出向者自身も、「何を身につけるために出向するのか」「なぜこの企業なのか」を十分理解した上で出向するため、将来を見据えて効率的に学ぶことができます。

販売、飲食サービス業F社の事例:出向者のアイディアをもとに新商品を開発・販売

コロナ禍によってみやげ物の需要が落ち込んだことから余剰人員が出て、補助金を活用して一部の従業員を休業させていたF社。このままでは、従業員のモチベーションを保てなくなるのではないかという懸念があり、自社に活かせるノウハウがありそうな出向先への在籍出向を従業員へ提案しました。

出向先の候補は、フルーツを主体とした飲食業、洋菓子販売などを行うG社です。F社の社長は従業員に、自社にはないデザートづくりのノウハウを身につけてほしいことを伝えたところ、対象となる従業員全員が出向を希望し、同業種間での出向が実現しました。

この在籍出向によって得られた効果は、下記の2つです。

・自社を知る良い機会になった

同業種であっても業態が異なる他社に入って実際に働くことで、自社の見直すべき点、良い点が明確に見え、業務の改善や拡大につながった。

・スイーツを使った新メニューの開発、販売が決定

F社では出向者の提案を受け、出向先監修の新メニューを開発・販売することが決定。そのための新部門の立ち上げが予定されており、出向者が戻った後は商品開発部門のリーダーになることが決まっている。

この事例は、在籍出向によって自社にない強みやノウハウを取り入れ、それを事業の成長につなげた好例となっています。出向先においても、監修という形でメニュー開発に関わる新しい事業の方向性を獲得できたことは、在籍出向受け入れの大きな収穫であるといえるでしょう。

飲食サービス業H社の事例:出向先企業の従業員の職場定着に好影響

最後にご紹介するのは、コロナ禍の影響によって一時的に事業活動の縮小を迫られた飲食サービス業H社から、物流センターI社の構内作業への出向の事例です。

H社は、雇用調整助成金を活用して一部の従業員を休業させ、事業が再開できるタイミングを待っていたものの、コロナ禍の予想外の長期化で休業中の従業員のモチベーション低下が危惧されていました。そこで、繁忙期の人員募集に応募者が集まらず悩んでいたI社に、自社の従業員29名を3ヵ月間在籍出向させることに。

慢性的な人手不足に悩むI社では、繁忙期になると残業が多くなり、既存従業員に負担がかかる傾向がありましたが、在籍出向によって人員補強が叶ったことで労働環境が改善。出向者を迎え入れるために労働環境の見直しも進み、今後の従業員の職場定着率も高まることが予想されています。

H社からの出向者のうち、管理職として勤務していた従業員は、出向先で周囲の人と連携しながら業務を完結させることの重要性をあらためて認識したと報告。夜型から朝型に生活が変わって健康的になったという従業員もおり、異業種間ならではの気づきがあったようです。

【参照】公益財団法人産業雇用安定センター「マッチング事例のご紹介」|公益財団法人産業雇用安定センター
https://www.sangyokoyo.or.jp/lp/zaiseki/case.html#case-matching-1

【参照】Aviation Wire「JAL、出向CAが活動報告「客観的に見直す機会になった」|Aviation Wire(2022年4月)
https://www.aviationwire.jp/archives/249338

【参照】東京新聞「在籍型出向 広がる選択 コロナ禍中の企業雇用 異業種間3倍増 スキル獲得の好機にも」|東京新聞(2021年6月)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/111824

【参照】厚生労働省「在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック(第2版)」|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000739527.pdf

人材育成や新事業創出にもつながる在籍出向

在籍出向は、出向元企業だけでなく出向先企業、さらには出向する従業員にもメリットがある働き方です。特に、繁忙期と閑散期の差が大きく、繁忙期限定では思うように人材が集まらず採用難に苦しむ業界にとっては、期間を限定して人員を補強できる在籍出向は有用な仕組みです。

コロナ禍で増えた在籍出向は、そもそもの目的だった雇用維持のみならず、さまざまな効果を発揮しています。今後は、人材育成や新事業創出など、コロナ禍では副次的効果とされた部分をメインの目的として在籍出向に取り組む企業も増えていくとみられます。

企業のさらなる成長を考えている際にはぜひ、在籍出向の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

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<監修者>
丁海煌(ちょん・へふぁん)/1988年4月3日生まれ。弁護士/弁護士法人オルビス所属/弁護士登録後、一般民事事件、家事事件、刑事事件等の多種多様な訴訟業務に携わる。2020年からは韓国ソウルの大手ローファームにて、日韓企業間のМ&Aや契約書諮問、人事労務に携わり、2022年2月に日本帰国。現在、韓国での知見を活かし、日本企業の韓国進出や韓国企業の日本進出のリーガルサポートや、企業の人事労務問題などを手掛けている。


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