「健康経営銘柄」選定企業 花王株式会社に聞く「社内外に、力強い健康づくりのムーブメントを」(後編)
撮影/角田 大樹 (株式会社BrightEN photo) |
世の中に「健康経営」という言葉が根付く以前から、時代に先駆けて健康への取り組みに注力してきた花王株式会社。2024年にも健康経営銘柄として選定され(9度目)、健康経営に優れた上場企業として広く知られています。 データの可視化や自社の知見を生かしたプロジェクトなど特色ある活動を長年展開し、今や社外にもその活動の範囲を広げています。同社の社員はもちろん、他企業や地域をも元気にする能動的な健康経営とは、一体どのようなものなのでしょうか。後編となる今回は、花王が健康経営の取り組みをスタートしたきっかけや、自社内の取り組みにおけるポイントについて、同社で健康開発推進部長を務める守谷祐子さんに伺いました。
守谷祐子(もりや・ゆうこ) 人財戦略部門 健康開発推進部長/GENKIプロジェクト リーダー/花王健康保険組合 常務理事 明治大学卒業後、法律系出版社総務部の勤務を経て、2002年花王に入社。 |
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好事例を発信し、健康の輪を広げることを宣言
前編でもお伝えした通り、私たちは花王ならではの知見を健康ソリューションとして確立し、社員や家族へ積極的に還元してきました。こうした活動は、2017年には通称「GENKIプロジェクト」として正式に社内で位置付けられ、さらに社外への発信も強める方向性で発展してきました。単に健康関連の商品やサービスを販売しようとしたわけではありません。根底にあったのは、「健康経営」という言葉が一般化する前から健康づくりに取り組んできた当社の好事例を発信し、健康の輪を日本中に広げていきたいという思い。2022年3月には新たな「花王グループ健康宣言」の中で、地域、職域、生活者にも健康づくりの取り組みを広げていく旨を明記しました。
実際に社外向けのアプローチを初めてみたところ、想像以上の反響がありました。サービスを開始した2017年から2019年にかけては特に引き合いが多く、私たちも驚いたほどです。残念ながらコロナ禍によって一時的な停滞はありましたが、その間もオンラインやレンタルで実施できるよう柔軟に施策を展開。最近では状況も落ち着いてきたので、対面型のイベントなどを含めて勢いが盛り返してきています。
花王の健康ソリューションに関心を抱き、ご連絡を頂くのは、自治体や企業で健康施策などを担当されている皆さんからです。現在、展開している主なプログラムは、「生活習慣測定」「スマート和食」「ホコタッチ」「歩行基礎力測定」の4種類(それぞれの詳細は前編を参照)。ピンポイントで指定のプログラムを提供する場合もあれば、事情を伺いながらニーズを把握し、プログラムの展開法についてご提案する場合もあります。
さまざまな自治体や企業の皆さんとお話しする機会がありますが、健康施策に関して悩みを抱えているケースは決して少なくありません。特に企業では、「健康経営という言葉があることは分かったが、何をすべきか見当もつかない」「経営者の理解を得るのに苦労している」「セミナーを実施しても参加者が一向に増えない」といった声を多く聞くので、困ったことがあれば、ぜひ花王のGENKIプロジェクトに気軽にお問い合わせください。
守谷祐子さんがリーダーを務める花王のGENKIプロジェクトは
以下のリンクからご覧ください!
※バナーをクリックすると、花王株式会社 みんなの GENKI プロジェクトページに遷移します
歩行力改善プログラムを導入した福島県桑折町では……
健康施策を進める上では、地域や職場の現状を把握し、その課題に応じた設計をすることが肝心です。GENKIプロジェクトにおけるプログラムも、健康状態の定期観測として開催することもあれば、健康診断前のキャンペーン、あるいは特定保健指導の成果を高めるサポートとして行うこともあります。やみくもに実施するよりも、より効果が見込めるタイミングを図ると理想的です。
どのプロジェクトにも多くの問い合わせがありますが、最も人気が高いのは、花王が開発した加速度センサー内蔵の歩行計「ホコタッチ」を用いる歩行力改善プログラムです。まずは歩行基礎力測定会を開催し、圧力シートの上を歩いてもらうことで、参加者の歩き方の癖をチェック。それをご本人と共有した上で、日常的にホコタッチを装着し、課題を意識しながら歩いてもらいます。数カ月後、あらためて歩行基礎力測定会を開いて変化を確認するのですが、歩き方が本当に改善されているケースが多く見られます。
歩行力改善プログラムを導入し、上手に活用いただいた自治体の一つが、福島県桑折町です。東日本大震災で大きな被害を受けた同町では、生活習慣の変化を余儀なくされたことから、メタボリックシンドロームなどの健康指標が悪化する傾向にありました。さらに、ようやく復興の目途が立ってきた矢先、今度はコロナ禍に見舞われることになり、全国や県の平均と比べても運動不足の人が多い状態が続いていたそうです。
こうした状況の中、同町は2020年に医・学・産・民・官が一体となったコンソーシアム「こおり健康楽会」を設立して運動不足の解消へ本格的に取り組むことになり、その一環としてウォーキングに着目。花王の歩行力改善プログラムを知った担当者様からご連絡があり、さっそく取り入れていただくことになりました。参加者に歩行力の現状を知ってもらい、課題を意識しながら運動して成果を確かめる――。こうした一連の流れで自身の変化が「見える化」され、モチベーションアップにつながったようです。同町ではこのプログラムを4年間継続しており、参加者の加齢に伴う歩行力の低下を抑えるなど、着実に成果を上げています。
健康経営推進の「羅針盤」、健康白書を作成しよう
先に述べた健康ソリューションのプログラムとは別に、2023年から開始したのが、健康白書の作成支援です。皆さんはご存じかと思いますが、健康白書とは、自社の社員の健康状態や健康経営の進捗などをまとめたもの。花王では2009年から作成を開始して以降、健康づくりの基礎資料として毎年作り続けています。健康白書には、健康課題の把握や施策の継続的な改善、社内外への発信など数多くの意義があり、健康経営度調査においても評価の対象になります。しかし、「自社でまとめるのは難しそう」と躊躇してしまうケースも少なくないことから、花王では『健康白書作成Guidebook』を作成。今後は、セミナーやワークショップを開催し、このガイドブックを活用して、企業の皆さんの健康経営をご支援していきます。
花王の『健康白書作成Guidebook』
『健康白書作成Guidebook』では、健康白書の基本構成(社長メッセージ、健康中期計画、目標数値、組織と体制、今年度の取り組みと評価、来年度の重点課題、来年度健康づくり計画)、完成モデル、作成における留意点とチェックポイントなどを記載。白書を仕上げるための手順が分かりやすく示されている他、完成モデルに基づいた記入用紙もあり、気軽に着手しやすいガイドブックになっています。まずは6~7ページ程度の簡易的なものを、「健康づくりの年報」だとイメージしながら作ってみるといいのではないでしょうか。
実際に健康白書の作成に取り組んだ企業の皆さんからは、「白書構成の項目ごとに記入例を参考に作成できたので、健康経営初心者としては進めやすかった」「自社の現状や課題が整理でき、国内外への関係会社へも発信できて、健康経営の基盤強化が図れた」「作成した資料に対してフォローや改善案などを教えてもらえるので助かった」といったうれしい声がたくさん届いています。中には、健康経営優良法人認定制度のランクが上がったケースもありました。健康白書は健康経営推進の「羅針盤」となるため、ぜひ多くの企業で挑戦してもらえればと思います。
「4月7日」を一つの軸に、健康経営の裾野を広げたい
花王が健康づくりを社外に発信し始めて、およそ10年が経過しました。GENKIプロジェクトに携わってきた担当者として感じるのは、健康経営に取り組む企業は年々増加しており、社会の関心も増しているということ。私たちが提供する健康ソリューションは「敷居が低く取り組みやすい」ことが意識されているため、多くの自治体や企業で気軽に導入しやすく、成果にもつながりやすいのではないでしょうか。特定の組織でなければ実施できないような難解なものではなく、日本全体を本当に元気にできるような「ハードルの低い施策」を提案することが重要だと感じています。
そうした活動の一環として、近年注力しているのが「健康の日」の普及です。当社では2022年から、世界保健デーである4月7日を「花王グループ健康の日」と定め、社員とその家族に向けた健康増進、そして世界の人々の暮らしと健康を支えることをメッセージとして発信しています。毎年、社内で健康宣言をシェアするなど、同日に特別な健康キャンペーンを実施してきました。2024年には、「健康でいてくれてありがとうと大切な人に伝える活動」を展開する予定です。
花王では世界保健デーである4月7日を「花王グループ健康の日」と定めている。
【参考】花王グループ健康の日のサイト
https://www.kao.co.jp/genki/healthday/
日本ではあまり注目されていない世界保健デーですが、WHO(世界保健機関)設立を記念して設けられた大切な日であり、海外ではさまざまなイベントが行われているそうです。健康づくりの施策を展開する以上、この記念日を生かさないのはもったいない! ぜひ皆さんの企業でも、「4月7日」に関連付けて活動を始めてみませんか。例えば、社長に撮影やメッセージの提供を依頼したり、健康イベントを開催したりするにも、「世界保健デーなので……」と理由があれば話が通りやすくなります。世界共通の記念日なので、海外のグループ企業などとも連携して物事を進めやすいはず。将来的には、多くの自治体や企業と共に健康を発信する日として、大いに盛り上げていきたいと考えています。
健康経営について「コストばかりかさんで意味がない」と考えている方も、まだまだ珍しくないかもしれません。しかし、それは大いなる誤解です。狙いを持って取り組みを続ければ、確実に結果が出ることを私たちは実感してきました。社外の皆さんとも手を取り合いながら、健康経営の裾野を広げるために、これからも情熱的に活動を展開していきたいと思います。
花王株式会社が取り組む「健康の日」 |