ビジネスケアラーとは?要因と必要な対応について解説
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少子化と人口減少が続いている日本では、「ビジネスケアラー」が増加しています。
ビジネスケアラーの増加は、当事者だけでなく勤務先の企業、ひいては日本社会にとっても損失につながると考えられており、大きな課題となっています。
本記事では、ビジネスケアラーの意味や背景にある課題などについて解説。課題を解決するために当事者に求められること、企業に必要な取り組みも紹介します。
目次[非表示]
- 1.ビジネスケアラーとは仕事をしながら介護をする人のこと
- 2.ビジネスケアラーが増えている要因
- 3.ビジネスケアラーが抱える課題
- 3.1.両立の大変さで疲弊する
- 3.2.仕事への意欲が低下する
- 3.3.離職率が高まる
- 4.仕事と介護を両立するために大切なこと
- 4.1.介護離職を極力避ける
- 4.2.自分自身をケアする
- 4.3.適切な準備をしておく
- 4.4.介護サービスの利用
- 5.ビジネスケアラーのために企業にできること
- 6.ビジネスケアラーを支援して、企業の成長につなげよう
ビジネスケアラーとは仕事をしながら介護をする人のこと
ビジネスケアラーとは、仕事(ビジネス)をしながら介護(ケア)をする人のことです。仕事と介護の両立を求められるため、当事者は非常に厳しい立場にあります。
問題は、当事者のみにとどまりません。日本は生産年齢人口の減少が続いており、ビジネスケアラーが増加傾向にあります。ビジネスケアラーの数は2030年にピークになり、約318万人になると推計されています。介護が必要になったために生産性が低下したり、離職したりすることによる日本全体における経済的損失の推計は、2030年時点で約9兆円です。
こうした問題を受け、経済産業省は企業による従業員の仕事と介護の両立支援を促すガイドラインの策定に取り組んでいます。また、上場企業の中から健康経営の優れた取り組みをしている企業を選定する「健康経営銘柄」の大規模法人部門の認定要件に、ビジネスケアラー施策に関する項目を追加しました。
ビジネスケアラーの当事者にとって、介護に伴う肉体的・精神的な負担は大きく、仕事との両立は容易ではありません。ビジネスケアラーへの支援は、日本にとって喫緊の課題となっています。
【参考】経済産業省「ビジネスケアラー支援に向けて「企業経営と介護両立支援に関する検討会」を開催します」|経済産業省(2023年11月)
https://www.meti.go.jp/press/2023/11/20231106001/20231106001.html
【参考】「健康経営銘柄2023選定基準及び健康経営優良法人2023(大規模法人部門)認定要件」|経済産業省
https://kenko-keiei.jp/wp-content/themes/kenko_keiei_cms/files/2023%E8%AA%8D%E5%AE%9A%E8%A6%81%E4%BB%B6%EF%BC%88%E5%A4%A7%E8%A6%8F%E6%A8%A1%EF%BC%89.pdf
ビジネスケアラーが増えている要因
ビジネスケアラーが増えている要因は、複数指摘されています。主な要因は下記のとおりです。
超高齢社会
ビジネスケアラーが増えている要因のひとつは、超高齢社会です。超高齢社会とは、65歳以上の高齢者の割合が全人口の21%を超えた社会を指します。日本はすでに超高齢社会の状態ですが、2025年になるといわゆる「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となり、医療・介護などの問題がさらに増えると考えられています。
このような社会全体の高齢化が、ビジネスケアラー増加の要因にもなっているのです。
【参考】内閣府「令和5年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況」|内閣府(2023年6月)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf
共働き世帯の増加
共働き世帯が増えていることも、ビジネスケアラー増加の要因となっています。近年、夫婦が共働きであることは一般化しています。以前は専業主婦が親を介護するケースが多くありましたが、夫婦のどちらかが家事に専念する家庭は少なくなりました。
介護をする際には仕事との両立が求められるようになり、ビジネスケアラー増加の要因となっています。
【参考】内閣府男女共同参画局「令和4年版男女共同参画白書 特集 人生100年時代における結婚と家族~家族の姿の変化と課題にどう向き合うか~」|内閣府男女共同参画局(2022年6月)
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/pdf/r04_tokusyu.pdf
独身者の増加
独身者の増加も、ビジネスケアラーが増える要因となっています。日本ではこの40年程で未婚率と離婚率が大幅に高まっており、独身者が増加している状態です。
独身者は、親が要介護になっても力を合わせるパートナーがいません。このことが、ビジネスケアラーの増加にもつながっているのです。
【参考】内閣府男女共同参画局「令和4年版男女共同参画白書 特集 人生100年時代における結婚と家族~家族の姿の変化と課題にどう向き合うか~」|内閣府男女共同参画局(2022年6月)
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/pdf/r04_tokusyu.pdf
ビジネスケアラーが抱える課題
ビジネスケアラーはさまざまな課題を抱えています。主な課題は下記のとおりです。
両立の大変さで疲弊する
ビジネスケアラーは仕事と介護を両立しなくてはなりません。そのため、仕事以外の時間である帰宅後や休日などの時間を介護に費やすことになります。
どちらか一方でも多くのエネルギーが必要ですが、その両方を担わなくてはならず、ビジネスケアラーはその大変さで疲弊してしまうことがあります。
仕事への意欲が低下する
介護との両立に疲れ、仕事への意欲が低下してしまうことも課題です。
介護は一般的に短期では終わらず、長期に取り組むことになります。そのような生活に疲れてしまうと、仕事への意欲を維持するのも困難です。
離職率が高まる
ビジネスケアラーは両立の難しさから離職してしまうことがあるため、ビジネスケアラーの増加には離職率の上昇につながるという課題があります。介護休業制度を導入している企業はありますが、取得率はまだ低いといわれています。
また、ビジネスケアラーの中には、「周囲に気を使わせたくない」などの思いから、介護をしていることを相談しない人もいるのです。
しかし、そうした状態が続いて仕事の責務や負担が大きくなると両立が難しくなり、結果として離職してしまうことがあります。
介護離職は本人だけでなく、企業にとっても損失です。介護による離職率の上昇に、対策が求められています。
【参考】経済産業省「第1回 企業経営と介護両立支援に関する検討」|経済産業省(2023年11月)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/06_jimukyoku.pdf
仕事と介護を両立するために大切なこと
ビジネスケアラーが仕事と介護を両立するためには、下記のようなことを意識して実行するのが大切だと考えられています。今後、介護の問題に直面したときのための参考にしてみてはいかがでしょうか。
介護離職を極力避ける
仕事と介護を両立させるために、「介護休業」「介護休暇」「所定労働時間の短縮等の措置」などの制度を利用して、介護離職は極力避けましょう。
また、自分自身の生活を支えるだけでなく、介護用品の購入などの出費があることから、収入の維持も重要です。将来の介護に備えて、貯蓄しておくこともおすすめします。
自分自身をケアする
自分自身をケアすることも、仕事と介護の両立のためには欠かせません。
介護に時間と労力をかけすぎてしまい、自分自身が疲弊してしまうと両立が困難になります。適度に休み、悩みがあれば周囲に相談することが大切です。自治体の相談窓口なども受け付けていますので、必要に応じて活用することをおすすめします。
適切な準備をしておく
介護が必要になったときのために、適切な準備をしておくことも重要です。
いつ介護が必要になるのかを予測するのは難しいですが、基本的には年齢が高まるにつれて介護に従事することになるケースも増えます。ビジネスケアラーになるときに備え、貯蓄や介護に関する知識の習得などをしておくことをおすすめします。
介護サービスの利用
仕事と介護を両立させるには、適度に介護サービスを利用することも大切です。
仕事をしながら一人で介護も行うことは、肉体的にも精神的にも大きな負担になります。現在は多くの介護サービスがあり、地域包括支援センターなどに無料で相談することも可能です。
一人で抱え込まず、周囲に相談したり適切な支援を受けたりすることも重要です。
ビジネスケアラーのために企業にできること
ビジネスケアラーが仕事と介護を両立するためには、企業による支援も欠かせません。企業がビジネスケアラーのためにできるのは、下記のようなことです。
制度と環境の整備
ビジネスケアラーのために企業にできることのひとつは、仕事と介護を両立できる制度と環境の整備です。介護に関する制度の整備はもちろん、柔軟な働き方ができるよう就業規則を見直すことも重要になってくるでしょう。
両立が困難であるためにビジネスケアラーが介護離職をすれば、企業にとって損失につながる可能性があります。仕事と介護を無理なく両立できる制度と環境を整備して介護離職を減らすことができれば、損失の軽減にもつながるかもしれません。
情報の共有
介護に関する情報の共有も、企業がビジネスケアラーのためにできることのひとつです。
ビジネスパーソンの多くは、介護に関する知識を学ぶ機会があまりないため、ビジネスケアラーになって仕事と両立させていくのは困難です。そうした事態を避けるためにも、企業としては制度の整備だけでなく、介護に関する情報共有の機会を設けるなどの対策を講じることが大切です。
支援制度の周知はもちろん、経験者の声を社内報などで届けるといった取り組みを行うと効果的かもしれません。
悩み相談窓口の設置
悩み相談窓口の設置は、ビジネスケアラー当事者のケアや介護離職を避ける上でも重要です。
ビジネスケアラーの中には、「迷惑をかけたくない」「介護で仕事量が減ると評価が下がるかもしれない」といった理由で、ビジネスケアラーであることや介護の悩みを打ち明けない人がいます。その結果、疲弊したり介護離職したりしてしまうケースもあります。こうした事態を避けるために、悩みを相談できる窓口を設置することが大切です。自分の気持ちを話せる場所があることは、ビジネスケアラー自身のケアにつながります。
ビジネスケアラーを支援して、企業の成長につなげよう
仕事をしながら介護にも従事するビジネスケアラーは増え続けています。超高齢社会の日本にとっては、介護離職などを避けるために、ビジネスケアラーへの支援は喫緊の課題です。
ビジネスケアラーが仕事と介護を両立するには、介護離職を極力避けて収入を維持し、必要な知識を身に付けるといった準備・対策が必要といえるでしょう。
一方、企業としてはビジネスケアラーが働きやすい環境づくりを行うことが欠かせません。介護に関する情報の共有や、悩み相談窓口の設置といった取り組みが求められます。
ビジネスケアラーへの適切な支援を行えば、介護離職などによる損失を防ぐことが可能です。本記事を参考に、ビジネスケアラーへの支援を企業の成長につなげてみてはいかがでしょうか。
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<監修者> 丁海煌(ちょん・へふぁん)/1988年4月3日生まれ。弁護士/弁護士法人オルビス所属/弁護士登録後、一般民事事件、家事事件、刑事事件等の多種多様な訴訟業務に携わる。2020年からは韓国ソウルの大手ローファームにて、日韓企業間のM&Aや契約書諮問、人事労務に携わり、2022年2月に日本帰国。現在、韓国での知見を活かし、日本企業の韓国進出や韓国企業の日本進出のリーガルサポートや、企業の人事労務問題などを手掛けている。 |