ワーク・エンゲイジメントとは?意味やメリット、高め方を解説
「ワーク・エンゲイジメント」という言葉が注目されています。
近年、企業と従業員の関係が大きく変わり、働き方やキャリアの築き方も変化しています。そうした中で、ワーク・エンゲイジメントを重視する企業が増えているのです。
本記事では、ワーク・エンゲイジメントの意味や関連する言葉、多くの企業が注目する理由などについて解説。ワーク・エンゲイジメントを高めるメリットや方法なども紹介します。
目次[非表示]
- 1.ワーク・エンゲイジメントとは仕事に関する心理状態を表す概念
- 2.ワーク・エンゲイジメントの3要素
- 3.ワーク・エンゲイジメントに関連する言葉
- 4.ワーク・エンゲイジメントが注目される理由
- 5.ワーク・エンゲイジメントを高めるメリット
- 5.1.メンタルヘルスの向上
- 5.2.コミットメントの醸成
- 5.3.離職率の低下
- 5.4.社内の活性化
- 5.5.パフォーマンスの向上
- 5.6.顧客満足度の向上
- 6.ワーク・エンゲイジメントが下がる要因
- 6.1.ネガティブな環境
- 6.2.コミュニケーションが希薄
- 6.3.組織の複雑化
- 7.ワーク・エンゲイジメントの測り方
- 8.ワーク・エンゲイジメントを高める方法
- 9.従業員のワーク・エンゲイジメントを高め、事業を前進させよう
ワーク・エンゲイジメントとは仕事に関する心理状態を表す概念
ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に関する心理状態を表す概念です。オランダのユトレヒト大学の心理学教授・シャウフェリ氏が定義しました。ワーク・エンゲイジメントが高い人は、仕事に意欲的で満足している状態といえます。働きがいを感じていると言い換えることもできるでしょう。
この言葉は、仕事に意欲的で満足している状態が一時的である場合はあてはまらず、同じ状態が仕事全体に対して持続的である場合を指すといわれています。
ワーク・エンゲイジメントに近い言葉に「従業員エンゲイジメント」があります。従業員エンゲイジメントとは、従業員の勤務先への愛着や帰属意識、貢献意欲などのことです。これに対し、ワーク・エンゲイジメントは仕事そのものに対する意欲や満足を指すため、場面に応じて使い分けが必要になります。
ワーク・エンゲイジメントの3要素
ワーク・エンゲイジメントは、具体的には仕事に対する3つの要素で構成されています。ワーク・エンゲイジメントの3要素は下記のとおりです。
活力
活力とは、業務に取り組む中で生まれるエネルギーです。活力が高まると精神力も向上し、仕事の継続力も高まると考えられています。また、仕事のミスやストレスなどがあっても、活力があれば回復でき、乗り越えていく傾向があります。
熱意
熱意は、仕事に意義を感じ、深く関与しようとする姿勢です。熱意があると、仕事に誇りを持ち、挑戦意欲もわいてきます。また、新たな業務知識を熱心に習得し、業務の改善や効率化などにも積極的に取り組む傾向があります。
没頭
没頭は、仕事にのめり込み、幸福を感じている状態です。没頭していると、当事者は業務の時間が早く過ぎていると感じます。業務への高い集中力の維持、ミスの低減、品質の向上などにもつながると考えられています。
【参考】厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」|厚生労働省(2019年)
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1.pdf
ワーク・エンゲイジメントに関連する言葉
従業員のメンタルの状態を表す言葉は、ワーク・エンゲイジメントのほかにも複数あります。ワーク・エンゲイジメントを理解するために、関連する言葉についても理解しておきましょう。
ワーカホリズム
ワーカホリズムは、過度に一生懸命に、強迫的に働く傾向のことです。これに対して、ワーク・エンゲイジメントとは、仕事への積極的な姿勢を示す一方で、「楽しく仕事に取り組む」といった前向きな状態を指す言葉です。ワーカホリズムには「仕事をしなくてはならない」といった否定的な観念が伴うこともあります。
【参考】厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」|厚生労働省(2019年)
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1.pdf
職場満足感
職場満足感は、組織や職場環境、自分に与えられた役割などに対する満足感を意味します。
ただし、職場への満足感が高いとはいえ、仕事への意欲があまり高くない場合も含むと考えられており、そこがワーク・エンゲイジメントと異なる点です。
バーンアウト
バーンアウトは「燃え尽き症候群」とも呼ばれる心理状態です。献身的に仕事をしたにもかかわらず期待した結果を得られず、疲弊して意欲を喪失してしまうことを指します。
ワーク・エンゲイジメントとは、ほとんど正反対の意味を持つ言葉といえるでしょう。
【参考】厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」|厚生労働省(2019年)
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1.pdf
ES
ESはEmployee Satisfactionの頭文字を取った言葉で、「従業員満足度」を意味します。業務の内容や環境、人間関係などに対する従業員の満足度を測る指標となります。ESを高める施策は組織力の向上につながる可能性が高いですが、新しいアイディアの創出や改善を生み出すとは限らず、その点はワーク・エンゲイジメントとの区別が必要です。
ワーク・エンゲイジメントが注目される理由
ワーク・エンゲイジメントは、厚生労働省が2019年に発表した「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」で取り上げられ、注目されるようになりました。分析が行われた背景には、現在も続いている「労働人口の減少」「人材の流動化」といった動きがあります。
これらの動きに対し、多くの企業が副業を解禁するなどの対応を行い、転職市場は活況を呈しています。また、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けてテレワークが普及しました。
働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、健康経営なども求められるようになり、企業と従業員は継続的な関係を維持するのが以前よりも難しくなっています。
そうした中、多くの企業が従業員エンゲイジメントを高めることに力を注いでいます。ワーク・エンゲイジメントは従業エンゲイジメントとは意味が異なりますが、ワーク・エンゲイジメントを実現できる環境がある企業なら従業員エンゲイジメントの向上も期待できるため、ワーク・エンゲイジメントへの注目度が高まっているのです。
【参考】厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」|厚生労働省(2019年)
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1.pdf
ワーク・エンゲイジメントを高めるメリット
ワーク・エンゲイジメントを高めることには、複数のメリットがあります。主なメリットは下記のとおりです。
メンタルヘルスの向上
ワーク・エンゲイジメントを高めることのメリットのひとつは、メンタルヘルスの向上です。ワーク・エンゲイジメントが高い人は精神的なストレスが少ない傾向があり、心に余裕を持って働けていると考えられています。
ストレスが少なくなれば、体調不良や休職の低減を期待できます。また、ウェルビーイングを重視している企業として、良いイメージを醸成することも可能です。
コミットメントの醸成
コミットメントの醸成が図れることも、ワーク・エンゲイジメントを高めるメリットです。
ワーク・エンゲイジメントが高まると、仕事に対してだけでなく、同僚や組織に対しても前向きな気持ちが生まれます。組織への貢献意欲も自然に育まれ、実際に貢献度も高くなると考えられています。
離職率の低下
ワーク・エンゲイジメントを高めると、企業として離職防止の効果を期待できます。
仕事に対し意欲的で満足感が得られていれば、長く勤めたいという気持ちも生まれてきます。これにより、採用コストの抑制、人材育成を中長期的に計画できるなど、さまざまな面でプラスになります。
社内の活性化
社内の活性化につながることも、ワーク・エンゲイジメントを高めるメリットです。
ワーク・エンゲイジメントが高くなれば、ほかの従業員も刺激され、チーム一丸となって業務に取り組みやすくなります。それがチームの好成績につながり、さらに社内が活性化するという好循環を生みます。
パフォーマンスの向上
従業員のパフォーマンスの向上を期待できることも、ワーク・エンゲイジメントを高めるメリットです。
ワーク・エンゲイジメントが高まれば、新しい業務知識や技術を習得する意欲が生まれます。
新たな知識や技術が身に付くとパフォーマンスが高まり、質の高い仕事や重要な仕事も任せられるようになるでしょう。
顧客満足度の向上
ワーク・エンゲイジメントを高めることは、顧客満足度の向上にもつながります。ワーク・エンゲイジメントの高い従業員は、同僚だけでなく顧客にも自然と好印象や安心感を与えるからです。
ほかのメリットに比べて間接的ですが、企業にとっては大きなプラス要素となります。
ワーク・エンゲイジメントが下がる要因
ワーク・エンゲイジメントが下がってしまうことには、いくつかの要因があると考えられています。主な要因は下記のとおりです。
ネガティブな環境
ワーク・エンゲイジメントが下がる要因のひとつは、ネガティブな環境です。周囲の従業員がマイナス思考だと、ワーク・エンゲイジメントは上がりにくいと考えられています。
また、企業理念やビジョンが浸透していないと、仕事の意味や達成感も感じにくくなり、結果としてワーク・エンゲイジメントも下がってしまうといわれています。
コミュニケーションが希薄
コミュニケーションが希薄であることも、ワーク・エンゲイジメントが下がる要因のひとつです。上司や部下などとのコミュニケーションが少ないと、疑問やミスの相談がしにくく、ますますコミュニケーションのハードルが高くなります。そのような状態では、仕事への意欲や満足感も生まれにくいでしょう。
組織の複雑化
組織の複雑化は、ワーク・エンゲイジメントの低下を招きやすいと考えられています。企業は多くの場合、大規模化すると組織が複雑化し、意思決定のスピードが低下し社内手続きも煩雑化します。その結果、従業員は力を発揮しにくくなり、ワーク・エンゲイジメントが下がってしまうのです。
ワーク・エンゲイジメントの測り方
ワーク・エンゲイジメントの測り方は、主に下記の3つです。ワーク・エンゲイジメントを測定する際は活用してみてください。
MBI-GS
MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)は、元々バーンアウトの危険性を測定する方法ですが、ワーク・エンゲイジメントの測定も可能です。
MBI-GSでは、「疲労感」「冷笑的態度」「職務効力感」を測る16の質問に回答してもらいます。その結果、数値が高ければバーンアウトの危険性がありますが、低ければワーク・エンゲイジメントは高いと考えることができます。
OLBI
OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)はMBI-GSと同様、バーンアウトの危険性を測定する方法です。
「疲弊」「冷笑的態度」に関する質問に答えてもらい、数値が大きいとバーンアウトの危険性が高く、低ければワーク・エンゲイジメントが高いと考えられています。
UWES
UWES(Utrecht Work Engagement Scale)はMBI-GSやOLBIと異なり、ワーク・エンゲイジメントを直接測定する方法です。
ワーク・エンゲイジメントの要素である「活力」「熱意」「没頭」を測る17の質問に答えてもらい、ワーク・エンゲイジメントを測定します。ほかの方法と比べても高い安定性があると考えられ、最も広く活用されている測定方法です。
【参考】厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」|厚生労働省(2019年)
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1.pdf
【参考】株式会社ニッセイ基礎研究所 健康経営に関する取り組み効果の可視化に向けた動向~ワーク・エンゲイジメントと生産性(1) │株式会社ニッセイ基礎研究所(2022年7月26日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=71892?pno=2&site=nli
ワーク・エンゲイジメントを高める方法
ワーク・エンゲイジメントを高める方法は、「仕事の資源」「個人の資源」を充実させることだといわれています。下記を参考に、ワーク・エンゲイジメントの向上に取り組んでみましょう。
仕事の資源
仕事の資源とは、ワーク・エンゲイジメントの向上につながる仕事上の要因のことです。具体的には、仕事の負担増を緩和する「上司のサポート」、モチベーションの向上に寄与する「裁量権の付与」「適切なフィードバック」「ミッションの多様性」などがあります。これらが充実すればするほど、ワーク・エンゲイジメントも高まるといわれています。
個人の資源
個人の資源は、ワーク・エンゲイジメントの向上につながる個人の内的要因です。具体的には、目標達成の能力を信じる「自己効力感」や、意欲の向上につながる「自尊心」「ポジティブ思考」などが該当します。
個人の資源を充実させるには、担当する仕事を「自分の仕事」と思えるようマインドセットすることはもちろん、企業側も従業員の主体性を促すと効果的だと考えられています。
【参考】厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」|厚生労働省(2019年)
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1.pdf
従業員のワーク・エンゲイジメントを高め、事業を前進させよう
ワーク・エンゲイジメントは、仕事に関する心理状態を表す概念を指し、労働人口の減少や人材の流動化が進む中、多くの企業が注目しています。
ワーク・エンゲイジメントが高まると、メンタルヘルスやパフォーマンスが向上するといったメリットがあります。従業員間のコミュニケーションが希薄であったり、組織が複雑化したりするとワーク・エンゲイジメントは低下してしまうと考えられているため、注意が必要です。
上司と部下、従業員同士が活発にコミュニケーションをとり、主体性が尊重されている職場では、従業員のワーク・エンゲイジメントが高まりやすいと考えられています。従業員のワーク・エンゲイジメントを高め、事業を前進させましょう。
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<監修者> 丁海煌(ちょん・へふぁん)/1988年4月3日生まれ。弁護士/弁護士法人オルビス所属/弁護士登録後、一般民事事件、家事事件、刑事事件等の多種多様な訴訟業務に携わる。2020年からは韓国ソウルの大手ローファームにて、日韓企業間のM&Aや契約書諮問、人事労務に携わり、2022年2月に日本帰国。現在、韓国での知見を活かし、日本企業の韓国進出や韓国企業の日本進出のリーガルサポートや、企業の人事労務問題などを手掛けている。 |