ヘルスツーリズムとは?健康経営に役立つ新たな施策を詳しく解説
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ヘルスツーリズムとは?健康経営に役立つ新たな施策を詳しく解説
旅に出ると、心身両面の調子が良くなると感じる人は多いのではないでしょうか。実際、観光庁が実施した旅行の効用の調査結果では、旅行によって日常生活や社会参加の意欲が高まったり、身体機能や歩行レベルの維持・改善が見られたりすることが分かっています。また、旅行で地域の観光資源が活用されると、地域経済の活性化へとつながります。
「ヘルスツーリズム」は、こうした旅行の効用と地域の眠れる観光資源を積極的に結び付けることで、健康寿命の延伸と観光需要向上の両方が期待できるとして注目されている取り組みです。日本よりヘルスツーリズムの歴史が長い欧州を中心に世界的な認知度も高まっていることから、コロナ禍後のインバウンド需要を取り込む施策としても目立つようになりました。
今回は、健康経営にも役立つヘルスツーリズムについて、概要や歴史、具体的な施策を解説。日本におけるヘルスツーリズムの現況やプログラム例、具体的な事例も併せて紹介します。
【参照】観光庁「旅行による効用の検証結果のとりまとめ」|国土交通省(2014年2月)
https://www.mlit.go.jp/common/001032360.pdf
ヘルスツーリズムとは、旅によって健康増進・維持・回復・疾病予防に寄与する活動
ヘルスツーリズムの定義はさまざまですが、旅によって健康増進・維持・回復・疾病予防に寄与する活動を指すと捉えていいでしょう。旅をきっかけとして、旅行後も健康的な行動を持続することにより、豊かな日常生活を過ごせるようになることを目指します。
2017年に閣議決定された「観光立国推進基本計画」は、ヘルスツーリズムについて「自然豊かな地域を訪れ、そこにある自然、温泉や身体に優しい料理を味わい、心身ともに癒やされ健康を回復・増進・保持する新しい観光形態であり、医療に近いものからレジャーに近いものまでさまざまなものが含まれる」と説明しています。
また、NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構は、ヘルスツーリズムを「健康・未病・病気の方、また老人・成人から子供まで全ての人々に対し、科学的根拠に基づく健康増進(EBH:Evidence Based Health)を理念に、旅をきっかけに健康増進・維持・回復・疾病予防に寄与する」ものと定義し、健康と観光の融合に取り組んでいます。
【参照】独立行政法人経済産業研究所「心身を癒すヘルスツーリズムの可能性」|独立行政法人経済産業研究所(2021年)
https://www.rieti.go.jp/users/sekiguchi-yoichi/nett_114.pdf
【出典】NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構「ヘルスツーリズムとは」|NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構
https://www.npo-healthtourism.or.jp/about/
ヘルスツーリズムの歴史
ヘルスツーリズムの概念自体は、古くからあります。海外では、古代ギリシア時代から日常を離れた観光施設で保養が行われていました。やがて、温泉や海に医学的な効果があることが分かり、上流階級を中心に健康回復・増進のための設備が導入され、観光の発達につながり始めたのです。
こうした「健康のための観光」が、ヘルスツーリズムという言葉で最初に表現されたのは、1973年の官設観光機関国際同盟(IUOTO:International Union of Official Travel Organizations)が発表した報告書のタイトルです。その後、日本では2007年には観光立国推進基本法が施行され、地域に眠っている食資源や自然を活用する「ニューツーリズム」のひとつとして知られるようになりました。
【参照】総合観光研究「ヘルスツーリズム(Health tourism)の概念に関する考察」|総合観光学会(2004年11月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sogokanko/03/0/03_17/_pdf/-char/ja
ヘルスツーリズムの分類
ヘルスツーリズムは、健康の維持や増進を目的とした「疾病予防」領域と、病気の早期発見・早期治療を目的とした「メディカルツーリズム(医療インバウンド)」に大別されます。ここでは、それぞれの活動内容について見ていきましょう。
【出典】NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構「ヘルスツーリズムとは」より加工|NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構
https://www.npo-healthtourism.or.jp/about/
疾病予防
疾病予防に分類されるのは、大きく分けて3つです。それぞれどのような活動を行うのか見ていきましょう。
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ヘルスプロモーション
ヘルスプロモーションは、世界保健機関(WHO)が1986年に示した新しい考え方で、「人々がみずからの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス」と定義されています。また、「健康は単に生きる目的としてではなく、毎日の生活のための資源であること、単なる肉体的な能力以上の積極的な概念である」とも述べられています。
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特定疾患の予防
特定疾患の予防とは、生活習慣病の発症につながるメタボリックシンドロームをはじめ、特定疾患を予防するための活動です。糖尿病が疑われる人などに対し、宿泊施設や地元観光資源を活用して保健指導を行う「宿泊型新保健指導(スマート・ライフ・ステイ)プログラム」などがあります。
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ウェルネスツーリズム
ウェルネスツーリズムとは、旅先で行われるスパ、ヨガ、フィットネス、瞑想、ヘルシー食、レクリエーションなど、心身の健康に気付くきっかけを提供する旅行の総称です。
【参照】文部科学省「ボランティア活動を推進する社会的気運醸成に関する調査研究報告書」|文部科学省(2004年3月)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/houshi/detail/1369172.htm
【参照】厚生労働省「宿泊型新保健指導(スマート・ライフ・ステイ)プログラム」|厚生労働省(2015年)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/sls/index.html
メディカルツーリズム(医療インバウンド)
メディカルツーリズムは、自国より医療水準の高い国での検診、治療、手術などを目的とした観光です。日本においては、訪日外国人に対する先進医療の提供が主となります。
具体的には、病気を早期に発見するための健康診断や検診、病気やケガの治療・手術のほか、ケガや病気の後、日常生活に復帰するためのリハビリテーションなどがあります。
日本におけるヘルスツーリズムの現況
自然豊かな景勝地や名所旧跡、天然記念物等の文化財、温泉、地域ごとに特色が異なる食文化など、小さな国土の中にさまざまな観光資源がある日本は、ヘルスツーリズムを実行しやすい国だといえます。
また、健康志向の高まりや地方創生への期待などもあって、市区町村などの自治体に加えてホテル・旅館などの観光関連事業者、温泉組合、観光協会、医薬品・化粧品などのメーカー、介護福祉事業者などもヘルスツーリズムの企画・実施・推進に乗り出すようになりました。
数あるヘルスツーリズムプログラムの中から、安心して消費者に選んでもらうには、科学的根拠に基づく効果や信頼性の客観的な評価が必要です。そこで、経済産業省が主導して立ち上げた「ヘルスツーリズム認証制度」では、「安心・安全への配慮」「楽しみ・喜びといった情緒的価値の提供」「健康への気づきの促進」の3つの観点からプログラムを評価し、品質を可視化しています。
ヘルスツーリズム認証制度の申請受付は年3回で、審査方法は文書審査方式で行われます。審査に通過すれば申請受付から3カ月程度で認証を受けることも可能です。
【参照】ヘルスツーリズム認証委員会「ヘルスツーリズム認証とは」|ヘルスツーリズム認証委員会
https://htq.npo-healthtourism.or.jp/about/
ヘルスツーリズムのプログラム例
NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構によると、ヘルスツーリズムのプログラムは「スポーツ・アクティビティ」「リラクゼーション」「ヘルシーフ―ド栄養」の4つに大きく分類できます。単体ではなく、「ウォーキングをしてから地域の健康的な食事を食べる」「温泉施設で健康相談もできる」といったように、複数の組み合わせで行われることが多いでしょう。
ここでは、数あるプログラムの中から、具体的なプログラム例を6つご紹介します。
健康ウォーキング・サイクリング
ウォーキングやサイクリングはヘルスツーリズムにおいても、スポーツ・アクティビティのひとつとなっています。気候や地形が普段とは異なる環境に身を置き、潮風を感じながら海沿いの道を歩くといった、地域ごとの風土を楽しめるプログラムが多数あります。
森林浴
森林浴は、都会の喧騒を離れ、森林浴による癒やしを堪能するプログラムです。自然の音を感じながらゆっくり過ごすほか、ヨガレッスンや散策が組み込まれているものもあります。
温泉浴
温泉浴は、日本古来の湯治のように、ゆっくりと温泉に浸かって心身の疲れを癒やすヘルスツーリズムです。健康診断や食事相談、地元のおいしい食材を使った食事がセットになったプログラムも多く提供されています。
水中運動
水中運動は、ホテルやスポーツ施設などのプールを使って、インストラクターによる水中アクティビティの指導を受けるプログラムです。海にまつわる自然療法である「タラソテラピー」の水中運動がメンタルヘルスに好影響を与えることから、沖縄を中心に取り入れる施設も増加しています。
食事
観光先で採れる食材で作った健康メニューを味わう食事プログラムも、ヘルスツーリズムにおいて人気です。ダイエットに効果的な食事や、特定の疾患に対応した食事など、プログラム内容もバラエティに富んでいます。
食事プログラムは、温泉浴や森林浴などとセットで提供されることが多いでしょう。
健康相談
温浴施設などで、看護師や保健師などに健康相談ができるのが、健康相談の代表的なプログラムです。食事のプログラムと併せて栄養指導を受けたり、ウォーキングや水中運動の結果をもとに運動指導を受けたりする場合もあります。
【出典】NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構「ヘルスツーリズムとは」|NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構
https://www.npo-healthtourism.or.jp/about/
【参照】令和元年度島根県ヘルスケア産業推進協議会第3回分科会「新たなヘルスツーリズムの方向性」| NPO法人熊野で健康ラボ(2019年11月)
https://www.pref.shimane.lg.jp/industry/syoko/sangyo/chiiki/healthcare/healthcarebunnkakai/R1dai3kaibunkakai.data/kumanodekenkourabo.pdf
ヘルスツーリズム企画の事例
ヘルスツーリズム企画は、どのように人々に楽しまれているのか、具体的な事例も気になるところです。
ここでは、ヘルスツーリズム認証プログラムの中から、健康経営に役立つ施策として取り入れやすい事例を3つご紹介します。どれも、ウォーキングにプラスαのプログラムが盛り込まれており、年齢・性別問わず楽しめる事例です。
事例1:DAZAI健康トレイル青森ひばの神木コース
青森県五所川原市の地域資源を活用し、官民連携で健康づくりと観光振興に取り組む「かなぎ元気村」は、「運動×栄養×休養」の3要素で実施するプログラムを推進しています。中でも人気のプログラムは「DAZAI健康トレイル青森ひばの神木コース」です。
このプログラムでは、日本三大美林のひとつ「青森ひば林」や、産業遺産「津軽森林鉄道軌道跡」のほか、地元の文豪・太宰治の生家を巡り、森林浴をしながら奥津軽の歴史や文化を知ることができます。ウォーキングの途中、ドイツ発祥の自然療法「クナイプ療法」の体験も可能です。
【参照】ヘルスツーリズム認証委員会「認証プログラムDAZAI健康トレイル青森ひばの神木コース」|ヘルスツーリズム認証委員会
https://htq.npo-healthtourism.or.jp/member/tohoku/2022055103.html
事例2:クアオルトバランス膳・早朝ウォーキング
「クアオルトバランス膳・早朝ウォーキング」は、ヘルスツーリズムに積極的な地域として、第4回ヘルスツーリズム大賞を受賞した山形県上山市で行われているプログラムです。
歴史ある温泉地「かみのやま温泉」の時代屋に宿泊し、適切な野菜摂取量と最適な塩の量を体感できる食事や温泉入浴のほか、クナイプ方式水療法をはじめとした運動プログラムと組み合わせた早朝ウォーキングが体験できます。
【参照】ヘルスツーリズム認証委員会「認証プログラムクアオルトバランス膳・早朝ウォーキング」|ヘルスツーリズム認証委員会
https://htq.npo-healthtourism.or.jp/member/tohoku/2062073302.html
事例3:秋田犬と散歩(健康ウオーキング)
「秋田犬と散歩(健康ウオーキング)」は、秋田県三種町の日帰りプログラムです。健康的な歩き方やストレッチの指導を受けた後、秋田犬と散歩するセラピー的なウォーキングを行います。
軽度の寒冷の中で静かに横たわる「横臥外気浴」のほか、「ミニ瞑想」「ミニヨガ」などの体験もあり、四季を感じながら地域の歴史・文化にもふれられ、ストレス解消に最適です。
【参照】ヘルスツーリズム認証委員会「認証プログラム秋田犬と散歩(健康ウオーキング)」|ヘルスツーリズム認証委員会
https://htq.npo-healthtourism.or.jp/member/tohoku/2053481101.html
ヘルスツーリズムは、従業員のウェルビーイングにつながる注目の施策です
健康経営を実践するにあたって、従業員の心と身体の健康と、前向きで満たされた精神的な健康を両立することはとても重要です。普段とは異なる環境で健康への気づきを得て、日常生活のストレスを解消できるヘルスツーリズムは、従業員のウェルビーイングをサポートする有用な取り組みだといえるでしょう。
「マイナビ健康経営」は、人と組織の「ウェルネス(健康)」をバリエーション豊かなサービスでサポートしています。ヘルスツーリズムを活用した健康経営推進など、従業員の健康向上をお考えの際には、お気軽にお問い合わせください。
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