薬局薬剤師がSOMPOケアの介護現場へ!企業間留学で得られた収穫とは?
「社外での経験を積むことで従業員が成長できる」「自社にはない知見を有する人材からノウハウを学べる」「人材交流により組織が活性化する」など、企業間留学に期待できるメリットは多岐にわたります。今回ご紹介するのは、愛知県内で薬局運営を中心に事業展開する有限会社マルシェから、2人の薬剤師がSOMPOケア株式会社の介護施設に企業間留学したケース。前半では「留学」実現に尽力した経営者や管理者、後半では実際に「留学生」となった当事者に登場していただき、お話を伺いました。
文/中澤 仁美(ナレッジリング) 取材・編集/ステップ編集部 |
【冒頭写真】 【お話を伺った方々】 |
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綿密な事前調整で「初留学」の不安を払拭
細井さん:以前からマイナビさんには薬剤師採用でお世話になっているのですが、新規事業として「マイナビ企業間留学」が始まったと知り、興味を引かれました。日ごろの業務では関わりを持てないような企業さんで自社の従業員が学べるということで、ぜひ挑戦させたいと思ったのです。私どもは今後、介護事業への進出を視野に入れているため、介護施設への「留学」を希望。この領域で名高いSOMPOケア株式会社を紹介していただきました。
青木さん:当社も介護職採用でマイナビさんとつながりがあり、その流れで企業間留学について提案され、「留学生」をお引き受けすることにしました。「さまざまな介護現場を知りたい」というニーズが高かったので、SOMPOケアの中でも異なる特徴を持つ2つのブランドからそれぞれ施設を選定。コロナ禍のため当初の想定より期間を短縮し、薬剤師お2人に1か月間ずつ現場を体験していただくことになりました。
細井さん:他社と人材交流するのは初めてで、正直なところ不安もありました。しかし、青木さんにわざわざ東京から何度もお越しいただいて話を詰め、マイナビ側ご担当者にも綿密に調整を図っていただいたので、そうした気持ちは霧消していきました。さらに、優秀かつ経験豊富な管理者さんがいる施設を選んでいただき、最終的には「皆さんにお任せして大丈夫」と確信するに至りました。「留学」を打診した薬剤師たちも、「ぜひ挑戦したいです!」と前向きな返事をくれて頼もしかったです。
門池さん:「留学先」となる私たちも、当初はどのような経験になるか、明確には想像できていませんでした。しかし、人材交流の意味合いが強く、お互いに勉強し合うイメージだと分かるにつれて、「魅力的な取り組みだな」と感じるようになりました。「企業間留学」というと堅苦しく、大変そうな印象を受けがちですが、ある意味では重く受け止めすぎないほうがいいのかもしれませんね。
大江さん:現場で取り組んでいただくことの詳細については、青木さんが作成した大まかな共通スケジュールをひな型として、「留学生」本人と直接話しながら詰めていきました。ベースとなる計画を踏まえつつも、個々のニーズを取り入れて柔軟に対応できたと思います。最初の1週間は動画研修(当社キャリア採用者と同様の内容)を受講し、当社の理念や介護職としての行動指針などを学んでから現場に入ってもらいました。
薬剤師と介護職が理解を深め合う最高の結果に
大江さん:「そんぽの家 植田一本松」(介護付き有料老人ホーム)を近藤さんが訪れたのは、2022年の2月初頭。節分会の当日が初日だったので、近藤さんは鬼の衣装を着て参加し、ご利用者さまやスタッフと楽しい時間を過ごしてもらいました。ちょうどイベントがあったので、すぐに打ち解けられてタイミングがよかったですね。もちろん、近藤さん自身の努力も大きかったことは言うまでもありません。
門池さん:スケジュールの関係上、「ラヴィーレ熱田」(介護付き有料老人ホーム)では齊藤さんの初日が夜勤になりました。いきなり慣れない時間帯の勤務、しかも長時間に及ぶので大変だろうと思ったのですが、かえってお互いに素を見せ合う機会になったようで、こちらも早い段階からスタッフと打ち解けている様子でした。
大江さん:ホーム長、ケアマネジャー、看護師、介護職など、さまざまな職種のスタッフに付くかたちで、現場を見学してもらいました。また、見るだけでなく、積極的に服薬援助に関わってもらったり、ご利用者さまの意向を尊重しながら簡単な身体介護(移動・移乗の介助など)をしてもらったりすることもありました。
門池さん:お2人に共通していたのは、介護現場のことのみならず、社内のITシステムや教育制度なども積極的に学んでいたこと。休憩時間も惜しんで研修動画を視聴したり、管理職に質問したりする姿が印象に残っています。
細井さん:介護の仕事について学んで薬剤師としてレベルアップすること、一企業人として刺激を受けて新規事業に生かすことなどを期待して2人を送り出しましたが、期待通りの学びを得て帰ってきてくれたと思います。「留学」の間に1回、終了時にも1回、本人と振り返りの機会を持ちましたが、2人ともいきいきとして意欲にあふれた顔つきでした。
門池さん:逆に、私たちが学ぶ部分も多かったですよ。そもそも薬剤師が来てくれるということで、うちのスタッフの多くは「薬のことをいろいろ聞きたい!」と楽しみにしていたんです。普段から当施設を薬剤師が訪れることはあるものの、管理者や看護師との会話が中心。介護職が直接コミュニケーションをとる機会は貴重なため、初日から質問攻めだったようですが、丁寧に教えてもらって感謝しています。
大江さん:うちの施設でも同様です。高齢者は、便秘や不眠、疼痛などの悩みを抱えていることが多く、これらは薬剤とも大いに関連性があります。今回、こうした点を薬剤師から学べたことで、介護職のモチベーションも大いに高まった気がします。コロナ禍が落ち着いたら近藤さんを招いて勉強会を開きたいという声も多く、今後もそうした交流を続けられたらうれしいです。
「留学先」になじませ、学びを最大化する環境づくり
大江さん:未知の職場に入って、まったく知らない人たちの中で学ぶ――。もし、自分がその立場だとすれば、かなりの思い切りが必要だと思います。だからこそ、打ち解けやすい場を設けたり、楽しんで学べるような環境を整えたりすることが本当に大切です。また、「これを学びなさい」と押し付けるのではなく、自主性を引き出す働きかけもしなければなりません。
門池さん:本当にそうですね。私の場合は、事前に施設内で「留学」の意図をしっかりと共有した上で、スタッフと「留学生」が直接関わるようにすることを意識していました。ホーム長である私が間に入りすぎると、自然な交流を妨げることになりかねないですから。もちろん、最初の数日間で本人のコミュニケーション能力を見極め、「この人なら大丈夫」と思えたからこそできたことです。
青木さん:そうした意味では、近藤さんと齊藤さんが「何を学びたいか」を明確にしてくれていたこと、そして自らご利用者さまやスタッフと打ち解けようとする姿勢があったことが、今回の「留学」が成功したカギだったのかもしれませんね。
細井さん:「とりあえず誰か行かせればいい」という感覚では、期待通りの果実を得られない可能性が高いと思います。お互いの貴重な時間や労力を使うわけですから、メリットを最大化するための準備は必須ですね。少なくとも、送り手となる企業がしっかりと人選を行い、目標設定を促すことは欠かせないと思います。
青木さん:今回の経験で、企業間留学の魅力を実感することができました。サービス業、IT機器メーカー、教育関連など、より幅広い領域の方々が介護施設への「留学」を検討するようになり、お互いに学び合える機会が増えていけば最高ですね。
初めての夜勤に看取り……介護現場だからこそ学べたこと
〈当事者の目線から〉
【お話を伺った方々】 近藤良輔さん(有限会社マルシェ バニラ薬局薬剤師)→留学先:そんぽの家 植田一本松 齊藤肇さん(有限会社マルシェ バニラ薬局薬剤師)→留学先:ラヴィーレ熱田 |
齊藤さん:私は日ごろ、バニラ薬局高師店(愛知県豊橋市)で薬剤師として働いています。介護施設を訪問(週1回)して薬剤のお届けや管理をしているのですが、その際にスタッフの皆さんと関わる時間はわずかなもの。どんな思いでどんな仕事をしているかを知る機会はなかったので、今回の話を聞いたときは「ぜひ行かせてください!」と即答しました。
近藤さん:私は在宅調剤センターで働いており、介護施設に出入りする機会は多いのですが、あくまで「薬剤師の視点」しか持たない人間でした。SOMPOケアへの「留学」は他職種の視点から薬局を見ることができる絶好のチャンスだと思い、私も参加を即決しました。今後、自社でも介護施設を運営する見通しなので、経営的な側面でも収穫が多いのではないかと期待が膨らみました。
齊藤さん:1週間の動画研修を経て、私の現場経験は夜勤から始まりました。事前に睡眠を取るタイミングの調整が難しくて正直ヘトヘトでしたが、学ぶことも多かったです。例えば、私を受け入れてくださった「ラヴィーレ熱田」では70人以上の高齢者が入居し、夜間は2人のスタッフが皆さんを見守っています。少人数でも対応できるように業務が効率化され、特にデジタルツールを上手に活用する仕組みには驚きました。
近藤さん:私が「そんぽの家 植田一本松」に入った初日は、節分会で鬼の役目を担当しました。自分が主体的にご利用者さまと関わって楽しんでいただくという立場がとても新鮮だったと同時に、こうしたレクリエーションでの様子を通して健康状態がうかがえる部分もあると気付きました。介護施設のイベントは月1回程度あることが多いので、そうしたタイミングで定期的に薬局が関わることで、健康管理や服薬状況の改善につなげることもできるように思います。
齊藤さん:もちろん、日常的なケアの現場も大変勉強になりました。薬剤師は正確に薬剤をお渡しすることに注力しがちなので、「その先」に何があるかを自分の目で見られたことは非常に大きいです。例えば、高齢者は大きな錠剤が飲みづらいことは知っていましたが、実際にむせる場面を見て「ここまで大変なのか」と実感することができました。また、薬剤の種類や量、服薬の方法などが、介護職の業務負担に影響することもよく分かりました。
近藤さん:最も印象に残っているのは、ご利用者さまの看取りに関わらせていただいたことです。最初のうちは普通にお話しできていたものの、日を追うごとに意識レベルが下がっていき、最後には点滴を受けたまま寝たきりの状態になっていく――。人生の最期が近づいてくるプロセスを、初めて間近で見ることになりました。医療従事者として知見が深まったと同時に、何もできない自分に無力感を覚えたところもあり、「薬剤師はどうあるべきか?」と再考するきっかけになりました。
より多くの収穫を持ち帰り、自社で活用するために
近藤さん:まずは自身が大きく成長できるという意味で、企業間留学にはメリットしかないと思います。現場の仕事からだけでなく、SOMPOケアならではの完成されたITシステムや教育制度からもさまざまな学びを得ました。自社で介護施設を展開する際、応用できる点がたくさんあったと思います。また、バニラ薬局が提供しているサービスについてフィードバックを頂けたことも収穫の一つで、「レベルの高いサービスですね」といったうれしい言葉が自信やモチベーションアップにつながり、「自分たちのやってきたことは正しかったんだ」と薬局全体が活気づきました。
齊藤さん:「メリットばかり」というのは私も同感です。企業間留学において、やる気にあふれたコミュニケーション能力の高い方が多くを学べるのは当然ですが、いつもおとなしく率先して前に出ないようなタイプにあえて体験してもらうことにも意味がある気がします。大きな刺激を受けることで新たな側面が見えてきたり、意外な能力が発掘されたりするきっかけになり、組織全体の活性化につながるのではないでしょうか。
近藤さん:残念だったのは、コロナ禍のため「留学」期間が予定より短くなってしまったこと。短期間だと、どうしても「お客様扱い」が抜け切らないところがあります。3日に1日くらいに頻度を押さえながらでもいいので、数か月間程度かけて「留学先」に慣れていき、チームメイトのような存在になることができれば、より深い学びを得られると思います。
齊藤さん:双方が人材を出し合い、交換留学のようにしてみるのも面白そうです。プロジェクトを組むようなイメージで定期的な意見交換の場を設け、お互いの組織に何らかのアウトプットができたら、より素晴らしい取り組みになるかもしれませんね。まだまだ開拓の余地がある企業間留学ですから、これからも多くの職種間で広がり続けることを期待しています。
<マイナビ営業からのコメント>
マイナビ営業の千賀と申します。今回は伴走支援担当の伊藤とともに、SOMPOケア社とマルシェ社の方々の企業間留学を担当させていただきました。
今回の件が企業間留学成功事例となったのは、ひとえに新しい知識と機会の吸収のため、一歩踏み出してご相談くださった両社のおかげですが、ここではマイナビがお手伝いさせていただいた部分について具体的にお伝えさせていただきます。
マイナビが提供する企業間留学サービスの特徴は、留学前~留学後まで我々スタッフがフルサポートで伴走する事です。今回も留学開始の約半年前から準備をはじめ、留学が終了してからも約2か月にわたりプロジェクトを進めて参りました。
マイナビでは製造・IT企業など一般企業のみならず、医療法人を始めとしたメディカル系企業様とも幅広くお取引をいただいております。今回の事例のように業界の垣根を越えたボーダレスなマッチングが叶うことも特徴の一つです。留学構想段階でのマッチングの際は、十数社の留学先候補をご提示し、細井専務と膝を付き合わせ協議してきました。
業務の貴重な時間を割き、留学していただくわけなので緻密にカリキュラムを作成いたしました。具体的には、キャリアコンサルティングの観点から留学生自身が描く仕事像や現職での課題を抽出、「この留学で得るべき物」を具体的に言語化しました。
企業間留学は、単なる職業体験ではなく、留学後に経験とスキルを留学元企業に持ち帰り、現職に還元することが成果となります。どの企業様に留学いただくかといったマッチング要素も重要ですが、留学前から留学生自身そして留学元企業様のビジネスフェーズやお持ちの課題を理解してこそのプランニングだと捉えています。
大切な従業員様を留学に出すことを決意くださった細井専務。留学のお受入れに際し、全面的にご協力いただいたSOMPOケアの関係者様に改めて厚く御礼申し上げます。
企業を背負って立つ次期リーダーの育成や、事業環境が目まぐるしく変わっていく中で絶え間なく自社にない新しいノウハウを吸収していく方法として、マイナビ企業間留学はひとつのソリューションとなるのではないかと思います。