産休・産前産後休暇とは?取得までの流れやお金の疑問を解説
妊娠・出産は、人生における一大イベントのひとつです。ただ、働く女性の中には、妊娠・出産とキャリアとの両立に不安を覚える方もいるかもしれません。
企業にとっては出産を契機とした離職を防ぐためにも見直しておきたいのが、福利厚生制度です。特に、体調とメンタルが不安定になる可能性もある出産前後にしっかり休んでもらう上でも、産休・産前産後休暇(産前産後休業)や、それらにまつわる休暇は、従業員の満足度向上に効果を発揮するはずです。
そこで本記事では、産休・産前産後休暇について紹介。産休・産前産後休暇取得に必要な対応や、産休・産前産後休暇中の給与の取り扱いも併せて解説します。
目次[非表示]
- 1.産休は、出産・育児を行うための産前産後休業制度
- 2.産休を取得できる条件と期間
- 3.従業員が産休を取得する際に行うべきこと
- 4.出産に伴って受け取ることができる手当
- 4.1.出産育児一時金
- 4.2.出産手当金
- 4.3.出生時育児休業給付金
- 4.4.妊婦健診費の助成
- 5.妊娠・出産時における医療費の取り扱い
- 5.1.医療費控除
- 5.2.出産・子育て応援交付金
- 6.産休をバックアップする企業の事例
- 7.産休にまつわる整備の充実で、従業員のエンゲージメント向上を
産休は、出産・育児を行うための産前産後休業制度
産休は、労働基準法第65条で規定されている、出産・育児のための休暇です。女性と胎児の心身の健康を守るために作られた制度であるため、勤続年数や雇用形態にかかわらず、働きながら出産に臨むすべての女性に取得する権利があります。
世間でよく使われている言葉である「産休」の正式名称は「産前産後休業」です。産休は、「産前休業」と「産後休業」の意味を含んだ総称であり、それぞれの休暇には、目的や期間、任意・義務の違いがあります。
まずは、産前休業と産後休業の概要について見ていきましょう。
産前休業
産前休業は、母体の心と体、および赤ちゃんを迎えるための物理的な準備を行うための期間として、産前に取れる休みのことです。取得は任意であり、取得を希望する場合は事前の申請が必要です。つまり、産前休業の本人が申請をしなければ、出産の直前まで働いても構いません。
産前休業を取得する場合、出産予定日の6週間前(42日間前)が産前休業期間となります。なお、出産予定日よりも早く出産した場合、産前休業の期間が短くなりますが、予定日より遅れて出産した場合は出産日まで産前休業を取ることができます。
【参照】働く女性の心とからだの応援サイト 妊娠出産・母性健康管理サポート「母健連絡カードについて」|厚生労働省
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/renraku_card/
産後休業
産後休業は、出産を終えた母体の保護を目的とした休みのことです。妊娠・出産によって女性の体にかかる負担は大きく、体力の回復には時間がかかります。
昔から、出産を終えた女性の回復が遅れることを「産後の肥立ちが悪い」といい、後々の育児や体調への影響が出ないよう、産後は十分に体を休めることが望ましいとされてきました。
産後休暇は、働く女性の健康を考え、体調が元に戻ってから仕事に復帰できるようにすることが目的であるため、取得は義務です。出産をした女性は出産の翌日から8週間は、原則として就業することはできません。
ただし、産後6週間が過ぎて女性が「働きたい」と希望した場合、医師が「業務に就いても支障がない」と認めれば就業可能です。
なお、産前・産後休業として法律で定められている期間、および期間満了後の30日間は、労働基準法第19条により雇用主による解雇が禁じられています。
【参照】厚生労働省「労働基準法のあらまし(妊産婦等)」|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000796040.pdf
【参照】厚生労働省「適切な労務管理のポイント」|厚生労働省(2016年3月)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/roumukanrinopointo.pdf
産休を取得できる条件と期間
産休は、働くすべての女性に取得する権利がある制度です。就業期間や雇用形態に関係なく、企業と雇用契約を結んで働いているすべての母親が産休を取得することができます。
転職してきてすぐに妊娠した場合や、正社員以外のパート社員、派遣社員、契約社員、アルバイトといった雇用形態でも、取得できることは覚えておきましょう。
ただし、派遣社員は就業先ではなく派遣会社と雇用契約を結んでいるため、派遣会社に申請や相談をするよう促してください。
なお、産前休業を取得できる期間は、単胎児か多胎児かのほか、早産リスクがあるか否かといったことによっても変わってきます。
前述のとおり、産前休業は原則として、出産予定日の6週間前(42日間前)から取得が可能です。出産予定日は、最終月経開始日を0週0日としたときの40週0日目、つまり280日目とするのが一般的なので、できるだけ長く産前休業を取りたい場合は「妊娠34週」から取得することができます。また、双子以上の場合は期間が延長され、14週間前(98日間前)から取得が可能です。
産前の体調が良く、できるだけ長く働き続けたい場合は、34週以降出産の前日まで勤務しても構いません。しかし、産後休業は出産翌日から8週間(56日間)となっており、産後6週間は休業することが義務となっています。
【参照】働く女性の心とからだの応援サイト 妊娠出産・母性健康管理サポート「産前・産後休業を取るときは」|厚生労働省
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/ninshin/sanzen_sango.html
従業員が産休を取得する際に行うべきこと
産休は、従業員が仕事への不安を抱くことなく出産を迎えられるために用意された休業です。妊娠をした従業員がスムーズに産休を取得できるよう、産休取得の際に行うべきことは、社内で共有しておきましょう。
妊娠が確定したら、会社に早めに報告をする
企業の担当者は、従業員が妊娠したことがわかったら、なるべく早く会社に報告するよう事前に周知しておきましょう。
妊娠中は、つわりで体調が不安定になったり、精神的な不安感が強くなったりと、心身に思わぬ変化が生じる可能性があります。
男女雇用機会均等法では、妊娠中および出産後の女性労働者が、医師等から指導を受けた場合、必要に応じて勤務時間の変更や勤務の軽減等の措置を講じるよう定めています。妊婦自身が無理せず働くためにも、また、周囲への影響を最小限に抑えるためにも、できるだけ早く妊娠について報告できる環境づくりが肝要です。
その際、産後の復帰とその際の業務内容について従業員へヒアリングしておくことも、スムーズな職場復帰を支えるために必要な連絡事項です。
出産予定日をもとに休暇取得を申請する
出産予定日は最終生理日から割り出すことができますが、月経不順や排卵の遅れがあると大きくずれることもあります。病院で胎児の大きさを測る超音波検査をすると、妊娠12週までには出産予定日が確定するでしょう。
出産予定日がわかったら、従業員は上長や人事部に休業取得を申請することになります。会社所定の産前産後休業申請書などに必要事項を記入し・会社に提出してもらいます。申請書には産休期間などを明記し、お互いに認識の相違が生まれないようにするとより安心です。
出産に伴って受け取ることができる手当
労働基準法において、産休・育休中の事業者による給与の支払い義務は定めていません。その上、住民税は前年の所得に応じて発生するため、納付の義務があります。何かと物入りな産前産後はお金のことが気になる人も多いでしょう。
しかし、これから出産を考えている、もしくは出産を控えている方に向けて、高額になることも多い出産費用をカバーするさまざまな給付金や助成制度が設けられています。企業の担当者は、これらの手当もあらかじめ把握しておき、スムーズな申請を実施して、従業員の自己負担額を減らすよう、ぜひアドバイスしてください。なお、ここで紹介する出産育児一時金や出産手当金、出生時育児休業給付金は非課税であり、所得税や住民税などの税金はかかりません。
出産育児一時金
出産育児一時金は、被保険者およびその被扶養者が出産した際に、公的医療保険制度から一定の金額が支払われる制度です。支給額は公的病院における差額ベッド代等を除いた出産費用等を基準として定められており、2023年4月より42万円から50万円に引き上げられました。
ただし、産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産した場合や、産科医療補償制度に加入の医療機関での出産で、妊娠週数22週未満で出産した場合は、支給額が異なります。
■出産育児一時金の分類
2023年4月1日以降の出産の場合 |
2022年1月1日~2023年3月31日の出産の場合 |
2021年12月31日以前の出産の場合 |
|
産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週以降に出産した場合 |
1児につき50万円 |
1児につき42万円 |
1児につき42万円 |
産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産した場合 |
1児につき48万8,000円 |
1児につき40万 8,000円 |
1児につき40万4,000円 |
産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠、週数22週未満で出産した場合 |
【参照】厚生労働省「出産育児一時金の支給額・支払方法について」|厚生労働省(2023年6月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/shussan/index.html
【参照】全国健康保険協会「出産育児一時金について」|全国健康保険協会
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r310/#q3
出産手当金
出産手当金は、公的医療保険に加入している人が産前産後休業を取得した際に支給される手当です。
出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までで、給与の支払いを受けなかった期間が対象です。
<出産手当金の1日あたりの支給額>
出産手当金の1日あたりの支給額=支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額(※)÷30日×2/3
※支給開始日以前の期間が12ヵ月に満たない場合は、「支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額」「標準報酬月額の平均額30万円」のいずれか低い額を使用して計算
標準報酬月額は、毎年4~6月の給与の支給平均額によって決まりますが、標準報酬月額は都道府県ごとに定められています。自分の標準報酬月額がいくらになるかは、下記をご参照ください。
【参照】全国健康保険協会「令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」|全国健康保険協会(2024年)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r6/ippan/r60213tokyo.pdf
【参照】全国健康保険協会「出産手当金について」|全国健康保険協会
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r311/
【参照】全国健康保険協会「標準報酬月額・標準賞与額とは?」|全国健康保険協会
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3160/sbb3165/1962-231/
出生時育児休業給付金
出生時育児休業給付金は、雇用保険の被保険者が、子の出生後8週間の期間内に合計4週間分(28日)を限度として、産後パパ育休を取得した場合に受給できる給付金です。
出生時育児休業給付金の金額の計算方法は、下記のとおりです。
<出生時育児休業給付金の計算式>
出生時育児休業給付金=休業開始時賃金日額×休業期間の日数(上限28日)×67%(※)
※詳細は【参照】のP4をご参照ください。
【参照】厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」|厚生労働省(2023年8月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001126859.pdf
妊婦健診費の助成
妊娠中の定期健診は、母体と胎児を守るために欠かせないものです。しかし、妊婦健診は保険適用外で、全額自己負担しなければなりません。そこで、各自治体は妊婦健診費用の一部を助成する取り組みをしています。
例として東京都では、市区町村の窓口に妊娠の届け出をすると、母子手帳とともに妊婦健診を公費の補助で受けられる受診券が配布されます。
【参照】東京都福祉局「妊娠がわかったら」|東京都
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/kenkou/syussan.html
妊娠・出産時における医療費の取り扱い
妊娠・出産時は医療機関にかかることが増えるため、医療費が気になる従業員もいるでしょう。妊娠・出産時における医療費の取り扱いについても情報共有をしておくことが大切です。
医療費控除
妊娠・出産時における定期検診や検査などの費用、通院費用、不妊治療の費用などは、医療費控除の対象です。費用を払った際は確定申告を行い、医療費控除を申請して還付金を受け取りましょう。
【参照】国税庁「医療費控除の対象となる出産費用の具体例」|国税庁(2023年4月)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1124.htm
出産・子育て応援交付金
出産・子育て応援交付金とは、妊娠届出や出生届出を行った妊婦等に対し、出産育児関連用品の購入費助成や子育て支援サービスの利用負担軽減を図る経済的支援(計10万円相当)を行う事業のための交付金です。各自治体がこの交付金を使い、さまざまな支援を行っています。
例として、東京都の支援は下記のとおりです。
<東京都の出産・子育て応援交付金>
・妊娠時:対象となる妊婦1人あたり5万円相当
・出産後:対象となる児童1人あたり10万円相当
【参照】東京都福祉局「東京都出産・子育て応援事業~赤ちゃんファースト~」|東京都
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/tokyo_shussankosodateouen.html
産休をバックアップする企業の事例
昨今は、企業が率先して育児と仕事との両立を支援する取り組みが増えています。最後に、産休をバックアップする仕組みを導入している企業の事例をご紹介します。
ナイルの事例:産育休の前に取得できる妊休制度の導入
ナイル株式会社は、法定休業でカバーできない妊娠前後をカバーする制度を導入しています。不妊治療やつわり、妊婦健診、パートナーの通院付き添い、第一子の世話などに、月2日間まで時間単位で休暇を取得できます。
【参照】NYLE ARROWS「妊娠前~出産直後まで支援!パートナーや業務フォローする社員も対象にした「妊休パッケージ」とは」|ナイル株式会社(2024年5月)
https://r-blog.nyle.co.jp/archives/2024/05/08/ninkyu-takano/
たまゆらの事例:両立支援の充実で妊娠による退職者ゼロ
株式会社たまゆらは、介護休業の上限日数を法定よりも7日多く100日とし、子の看護休暇も法定日数の上限を超える日数で有給扱いとしました。また、育児短時間勤務制度の対象を就学前まで拡充するなどの取り組みで、出産を理由とする退職をゼロに抑えています。
【参照】厚生労働省「取組状況別 企業事例の紹介」|厚生労働省(2023年)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/best_practice/pdf/bp-4.pdf
三州製菓の事例:産休がとりやすい一人三役の推進
三州製菓株式会は、産休・育休などの休業取得可能日数の上限増よりも、休業が取得しやすい環境づくりに注力しました。具体的には、一人の従業員が複数の担当者の業務を行えるようにする「一人三役」を2008年頃より推進。従業員自身が習得したい他領域の業務を指定し、その担当者に弟子入りする形式を取って各々のスキルの幅を拡大してきました。この制度の影響により、子供の発熱などで急に休まざるをえない担当者がいても、スムーズに業務分担ができています。
【参照】厚生労働省「取組状況別 企業事例の紹介」|厚生労働省(2023年)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/best_practice/pdf/bp-4.pdf
産休にまつわる整備の充実で、従業員のエンゲージメント向上を
産休、および産休にまつわる制度を充実させると、従業員のエンゲージメントの向上が期待できます。会社主導で、さまざまな手当や給付金などについて従業員に周知しておくと、従業員がより休暇を取りやすくなる社風となるでしょう。ぜひ、休暇を取りやすい環境づくりと合わせて、自社に合った休暇の制度設計を進めてみてはいかがでしょうか。
「マイナビ健康経営」は、人と組織の「ウェルネス(健康)」をさまざまなサービスでサポートしています。休暇制度に関する課題をはじめ、従業員の心身の健康維持をお考えの際には、お気軽に悩みをお聞かせください。
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