「健康経営セミナー」開催レポート(後編) 実務担当者だから分かる健康経営の取り組み方とは?

実務担当者だから分かる健康経営の取り組み方とは?

「健康経営セミナー」開催レポート(後編)

2024年3月12日、全国健康保険協会広島支部主催、株式会社マイナビの「マイナビ健康経営」との初コラボによる「健康経営セミナー」がオンラインで開催されました。そのレポートの前編では基調講演の内容をお届けしましたが、後編となる本記事では健康経営に取り組む上での具体的な工夫や本音が飛び交ったパネルディスカッションと質疑応答の様子をダイジェストでご紹介します。

【パネリスト】
平野治(NPO法人健康経営研究会 副理事長)
熊倉利和(IKIGAI WORKS株式会社 代表取締役)
大本英与(株式会社ファーストクリエート)
油藤正博(株式会社ファーストクリエート)
有田恭彰 (リライアンス・セキュリティー株式会社)

[健康経営に取り組む広島県の企業]

  • 株式会社ファーストクリエート(広島県福山市)
    創立70年を超える総合建設業の松原組を母体に、幅広い事業を展開するグループ企業。建設業の他にも飲食店や障害者サービス施設の運営などを行っており、地元の経済を支えながら新しい価値を生み出している。「健康経営優良法人」に認定。

  • リライアンス・セキュリティー株式会社(広島県広島市)
    施設や交通の警備、身辺警備、セキュリティーコンサルティングなどを総合的に手がける警備会社。200人を超える従業員の健康管理を徹底し、3年連続で「健康経営優良法人ブライト500」を取得。

株式会社ファーストクリエート大本様、油藤様、リライアンス・セキュリティー株式会社有田様


パネルディスカッション

テーマ1:健康経営を始める上で一番大切なことは?

平野:健康経営では、自社をよく知り、その特性を生かすことが肝心です。企業によって必要なことが大きく違うので、「当社の特徴は?」「外部からどのように見えている?」など、さまざまな視点を持って社内で対話を重ねるといいでしょう。

大本:建設業の特性上、創業当初より従業員の安全を重視し、それを守るためにマンパワーを割いてきました。長年地道に取り組んできたことが、今の健康経営の土台になっていると感じます。
 
油藤:一般的な方法論に帰結するのではなく、会社の状況や社会環境の変化に合わせて従業員への思いを具現化することを、これまで意識してきたように感じています。
 
有田:常に心がけているのは、従業員一人ひとりの健康をしっかりとサポートすること。お客さまのニーズに応えて警備の仕事を全うするためには、従業員の健康状態を整えておくことが大前提だからです。

テーマ2:健康経営に着手できている企業と着手できていない企業の違いは?

有田:トップの本気度ではないでしょうか。経営者が「○○しよう!」と音頭を取り、熱を伝えられるかどうかが、その先を大きく左右します。担当者がいくら懸命に取り組んでも、そこが欠けているとなかなかうまく進みません。
 
熊倉:トップの姿勢は非常に重要な要素ですね。その思いや考えが明確に示されていれば、それに応えようと従業員も気合いが入るものです。

テーマ3:明日からできる健康経営とは?

大本:身近な相手を思いやることだと思います。例えば、部署内に困っている人がいたら積極的に手を差し伸べる。差し伸べられた側は素直に手を取り、次は自分が助ける側に回る――。こうした相互扶助の雰囲気があれば、健康経営はスムーズに進むでしょう。助け合いの精神にはコストがかかりませんし、今すぐにでも始められます。
 
有田:経営層を納得させるためのアプローチを行うという意味では、担当者が本気で提案することが重要です。取り組みの目的や期待できる成果をしっかりと伝え続ければ、きっと熱意が伝わるはずです。
 
平野:健康経営の取り組みがうまくいってない企業は、従業員のエンゲージメントが低下しているように見えます。ある企業では、社内の活気を高めるために、経営者と従業員が互いに感謝し合う活動を始めていました。コミュニケーションが充実すると、相手への理解が深まり、職場の活性化につながるものです。
 
熊倉:健康経営に関心が低い従業員を巻き込むためには、「自社らしさ」について現場の声を集め、その実現に向けて可能な部分から手を付けるといいでしょう。「大変そう」「コストがかかる」といった「できない理由」からいったん離れ、「どうすれば同僚や部下と一緒に楽しく仕事ができるか?」「どうすればワクワク感や働きがいを感じられる職場になるか?」といった視点から、社内全体で考えてみてください。

テーマ4:健康経営の落とし穴は?

平野:「健康」の定義をどのように捉えるかにより、健康経営への取り組み方は大きく変わります。身体的・精神的な健康に着目しがちですが、WHO(世界保健機関)の定義には社会的な健康も含まれています。社会との関係性にも目を向けると、健康経営を理解しやすくなるでしょう。
 
有田:従業員の健康や幸せを実現するために始めたはずが、いつの間にか健康経営関連の認定取得が目的になってしまうことがあります。認定を取得すれば社内の理解が進むという利点もありますが、一人ひとりの健康を大切にするという本来の目的を見失わないようにしたいものです。
 
大本:まったくその通りで、当社も「従業員の安全や健康を守りたい」という思いが出発点にあり、認定は結果として得られたものです。仮に「認定を取るために健康診断の受診率を上げよう!」とメッセージを打ち出したとしても、社内全体を動かすのは難しいでしょう。
 
油藤:認定自体に本質的な意義があるわけではなく、優秀な従業員が定着し、企業が持続的に発展できることが何よりのメリットです。とはいえ、健康経営の担当者になると、認定取得のための申請書作成にばかり気を取られてしまいがち。「この項目を埋めるために○○をしなければ」という主客転倒的な動きにならないよう注意したいですね。
 
熊倉:ただ、取得要件をチェック表として活用すること自体は有効だと思います。できていること/いないことを整理すれば、おのずと課題が見えてきますからね。当社(IKIGAI WORKS株式会社)が発行する『ブライト500白書2023』(※1)も、健康経営に取り組むための参考書としてぜひご活用ください。もう一つ大切なのが、健康経営に関わる業務を続けやすい状態にすること。担当者が代わる場合に備えて引き継ぎ資料を作成したり、質問しやすい環境をつくったりと、体制を整えておくといいでしょう。

※1 『ブライト500白書』:ブライト500認定企業とそれ以外の企業を比較分析した報告書で、無料ダウンロード可能。2024年度版は2024年8月に発行予定。
https://kenkoukeiei-media.com/articles/bright2022

  健康経営の指南書『ブライト500白書2022』無料発行!事例,分析,今後の展開など今、知っておきたい情報満載 – 健康経営の広場 https://kenkoukeiei-media.com/articles/bright2022


健康経営に悩む参加者からは続々と質問が

参加者から寄せられた質問とパネリストの回答を、ピックアップしてご紹介します。

――健康診断の受診率を上げるために、従業員を巻き込む工夫があれば教えてください。

大本:当社では、取り組みたい内容を自社のルールに落とし込み、「ルールが変わったので、こう動きましょう」と明言するかたちで推し進めました。事前に全員の賛同を得るのはなかなか難しいです。
 
有田:健康診断を受けていない従業員には一人ひとり声かけし、それでも実行されない場合は受診の必要性や会社の思いについて個別に説明する場を設けました。最終的には、やはり一対一で向き合って気持ちを伝えることが大事だと思います。そうした意味では、漏れなく従業員に向き合えるよう、できるだけ担当者が現場訪問する機会を増やすことも意識してきました。

――メンタルヘルス関連の取り組みにはどのようなものがありますか。

熊倉:近年はテレワークが一般化しただけに、複数の従業員をリアルの場所に集め、コミュニケーションを促すこともメンタルヘルスのケアに寄与します。ある企業では、就業時間中にUNOなどのカードゲームを用いて交流の機会を増やし、エンゲージメントを高めているそうです。ちょっとした遊びを取り入れてコミュニケーションすることが、従業員の働きがいを高めるきっかけにもなるので、実は大事な取り組みだといえます。

――喫煙に関する具体的な取り組みについて教えてください。

有田:とにかく社長が先頭に立って、禁煙の必要性を伝え続けています。近年は禁煙を徹底しているクライアントが増えていることもあり、当社でも喫煙者は少しずつ減っています。
 
大本:禁煙に対する直接的な働きかけはしていませんが、吸わない人が不快な気持ちにならないよう、分煙対策を徹底しています。

広島県で実施されている健康経営のサポートとは?

協会けんぽ広島支部の取組みとサポートの説明

最後に、尾田慎一氏(全国健康保険協会広島支部 企画総務グループ 2024年3月12日時点)から同支部の施策の紹介がありました。2016年には、健康経営の普及促進に向けた「ひろしま企業健康宣言」という独自の認定制度をスタート。年々、エントリーが増えており、現在は4709社を数えています(2024年2月末時点)。本制度のエントリーから認定までの流れや取得のメリットに加えて、次のステップとしてオリジナルで制作した『健康経営優良法人サポートブック2024(中小規模法人部門)』 による健康経営優良法人取得の申請支援、2020年から実施している「広島県健康経営優良企業表彰」(※2)、生活習慣病予防健診の補助などについても解説があり、健康づくりに向けた熱い思いを参加者に伝えました。

※2 広島県健康経営優良企業表彰:全国健康保険協会広島支部が認定した健康づくり優良事業所の中で、特に他社の模範となるような優れた成果を挙げた企業を推薦し、広島県知事が表彰する制度。
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/shibu/hiroshima/cat070/20170317001/


前編は以下のリンクからご覧ください。

  「健康経営セミナー」開催レポート(前編)優良事例を通して健康経営への理解を深めよう! 2024年3月12日、全国健康保険協会広島支部主催、株式会社マイナビの「マイナビ健康経営」と初コラボによる「健康経営セミナー」がオンラインで開催されました。 マイナビ健康経営


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