従業員の心身を守るEAPとは?導入メリットや種類、選定方法を解説

従業員の心身を守るEAPとは?導入メリットや種類、選定方法を解説


目次[非表示]

  1. 1.従業員の心身を守るEAPとは?導入メリットや種類、選定方法を解説
  2. 2.EAPとは、メンタルヘルス不調の従業員を支援するプログラムのこと
  3. 3.メンタルヘルス対策を推進する4つのケアとは?
    1. 3.1.セルフケア
    2. 3.2.ラインによるケア
    3. 3.3.事業場内産業保健スタッフ等によるケア
    4. 3.4.事業場外支援によるケア
  4. 4.EAPを導入する目的
  5. 5.EAP導入のメリット
    1. 5.1.生産性が上がる
    2. 5.2.離職率が下がる
    3. 5.3.企業イメージの低下を防げる
    4. 5.4.健康経営に役立つ
  6. 6.EAPの種類
    1. 6.1.内部EAPのメリットと注意点
    2. 6.2.外部EAPのメリットと注意点
  7. 7.メンタルヘルス対策のフェーズ
    1. 7.1.一次予防:メンタルヘルスの不調の未然防止
    2. 7.2.二次予防:早期発見と適切な対応
    3. 7.3.三次予防:職場復帰支援
  8. 8.EAP導入に際して注意すべきこと
    1. 8.1.相談員は有資格者か
    2. 8.2.身体的な健康も相談できるか
    3. 8.3.医師への取り次ぎができるか
  9. 9.健康経営の第一歩に、EAPの体制づくりを

従業員の心身を守るEAPとは?導入メリットや種類、選定方法を解説

経済的に豊かになり、生活の利便性が増しているにもかかわらず、現代人の多くがストレスを抱えて暮らしているといわれています。特に、ビジネスパーソンとストレスの関係は深く、2022年の「労働安全衛生調査」によれば、回答者の半数以上の人が「仕事や職業生活にストレスを感じている」と答えました。

こうした現状を受けて重要性を増しているのが、従業員の心と体の健康を守る企業主体のストレスケアです。

本記事では、従業員のメンタルヘルスケアの手法として注目される「EAP」を取り上げます。EAPの導入目的やメリット、種類、注意点のほか、EAP機関の選定方法について詳しく見ていきましょう。

【参照】厚生労働省「令和3年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」|厚生労働省(2022年7月)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r03-46-50_gaikyo.pdf

EAPとは、メンタルヘルス不調の従業員を支援するプログラムのこと

EAP(Employee Assistance Program)とは、メンタルヘルスに不調を抱える従業員を支援するプログラムのこと。日本語では「従業員支援プログラム」といいます。

元々は、アメリカで犯罪や事故、家庭不和の原因とされていた酒害を撲滅するため、アルコール依存症対策として1940年代に実施されたのが始まりとされています。1946年にはアメリカの保険会社であるケンパーが、自社の従業員のアルコール依存症問題を解決するためにEAPを取り入れました。

ケンパーはアルコール依存症が働き盛りに集中していることから、放置すれば労働災害やモラルの低下を招き、企業の信頼を著しく損なう可能性があること、従業員の休職や離職が企業経営に大きなダメージを与えることなどを鑑みて、EAPによる改善を図ったのです。これを契機として、次第にEAPの対象は拡大していきました。

アルコール依存症にかかわらず、心身に何らかの問題を抱える従業員を適切にケアすることで、従業員と企業の生産性は維持され、企業経営にも良い効果を与えます。アメリカでは、労働者のモチベーションを低下させるあらゆる問題に対処するのがEAPであり、メンタルヘルス不調のケアもそのひとつと位置付けられています。

【参照】同志社政策科学研究「メンタルヘルス対策としてのEAP(Employee Assistance Program) : 日本における現状と課題」|同志社大学大学院総合政策科学会(2009年12月)
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390572174867117952

メンタルヘルス対策を推進する4つのケアとは?

日本でも、メンタルヘルス対策は1980年代から少しずつ浸透し始め、2006年に厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を策定したことで一気に注目度が高まりました。この指針で、厚生労働省はメンタルヘルス対策を推進するための「4つのケア」を掲げ、EAPはそのうちの1つにあたるとしています。

ここからは、厚生労働省がメンタルヘルス対策の推進として掲げている4つのケアについて見ていきましょう。4つのケアは、「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」を指しています。

【参照】厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~|独立行政法人労働者健康安全機構(2017年3月)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000153859.pdf

セルフケア

セルフケアは、従業員自身が取り組むケアのことです。ストレスチェックやヘルスケア研修の結果などを参考に、自身のストレスに気づいてもらい自身で対処します。

ラインによるケア

ラインによるケアは、管理職が部下の職場環境やストレスの状態を把握し、相談対応などを行うことです。1on1ミーティングの様子や、従業員満足度調査などを参考にすることが多いでしょう。

事業場内産業保健スタッフ等によるケア

事業場内産業保健スタッフとは、自社と契約している産業医や衛生管理者、保健師、人事労務課などのスタッフを指します。社内相談窓口を作るなどして、従業員および管理職をサポートし、セルフケアやラインによるケアを牽引します。ラインによるケアとは、職場の管理監督者が主体的に役割を果たす事業所内のケアのことです。

事業場外支援によるケア

事業場外支援によるケアとは、社外の専門家や機関によるケアのことです。本記事で紹介しているEAPは、このケアに該当します。

EAPを導入する目的

EAPを導入する目的は、従業員のメンタルヘルスの不調に対して早期にアプローチすることで悪化を予防し、さらにはパフォーマンスを向上させることです。
前述のとおり、従業員が抱える諸問題の解決を組織が主導することは、休職・離職の低減やモチベーションの維持につながり、企業経営にも良い影響を与えます。

厚生労働省がまとめた「職場におけるメンタルヘルス対策の状況」によれば、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は、2021年で53.3%に上ります。
また、不安、悩み、ストレスの原因は、上から「仕事の量」(43.2%)、「仕事の失敗、責任の発生等」(33.7%)、「仕事の質」(33.6%)でした。いずれも「相談できる相手」を設けたり、「ケアの仕方」を従業員自身が知ったりすることで解決できる可能性が高いことから、EAPの導入が進んでいます。

【参照】厚生労働省「令和4年版過労死等防止対策白」|厚生労働省(2022年10月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001001667.pdf

EAP導入のメリット

続いては、EAPを導入するメリットを具体的に整理しておきましょう。EAP導入のメリットは、主に下記の4つがあります。

生産性が上がる

「仕事の成果が出せない」「職場の上司と気が合わない」など、仕事や職場の問題で悩んでいる従業員は、仕事中もそのことに気をとられて本来の能力を発揮することができません。ミスや不注意によるトラブルが起きる可能性も高いため、EAPによる早期改善が重要です。

離職率が下がる

独立行政法人労働政策研究・研修機構の2013年の調査によれば、疾病による休職者の復職率の平均値は51.9%で、2人に1人は退職することがわかっています。退職の原因はさまざまですが、「休職から復帰せずに退職」「復帰後しばらくして退職」「休職せずに退職」を合計した数値が最も高かったのは、メンタルヘルスに不調を抱えた人でした。
このことから、EAPでメンタルヘルス不調者に早期介入すれば、離職率が低下すると考えられます。

【参照】独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査結果」|独立行政法人労働政策研究・研修機構(2013年6月)
https://www.jil.go.jp/press/documents/20130624.pdf


企業イメージの低下を防げる

メンタルヘルスに問題を抱える従業員が多く、休職や退職が目立つと、取引先や顧客からの信頼が低下します。そこで、企業として従業員のメンタルヘルス向上に取り組む姿勢を見せることで、従業員を大切にする企業として、企業イメージを回復・向上させることができるでしょう。

健康経営に役立つ

健康経営は、従業員の健康管理を企業の未来への投資と捉え、能動的・戦略的にその増進に取り組むことです。EAPは、身体の健康と精神の健康の両立を支援するプログラムであり、体の健康とともにメンタルヘルスの向上を目指す健康経営の質の向上に役立ちます。


EAPの種類

EAPの導入の仕方には、すべてのEAPプログラムを内製化する「内部EAP」と、EAPサービスを展開する外部機関に委託する「外部EAP」があります。内部EAP、外部EAPそれぞれにメリットがありますが、内部EAPだけで万全の対策をとろうとすると、スタッフの負担が大きくなるでしょう。そのため、必要に応じて外部EAPの利用を検討してみてはいかがでしょうか。ここでは、内部EAPと外部EAP、それぞれのメリットと注意点についてご紹介します。

内部EAPのメリットと注意点

内部EAPは、指導者やカウンセラーを社内に常駐させます。相談員は社内の文化や状況を理解しているため、問題発生から相談までの流れがスムーズで、自社に合ったプランを実施することができるでしょう。ただし、スタッフを常駐させる分、コストはかさみます。予算を踏まえて十分に導入を検討する必要があります。

外部EAPのメリットと注意点

外部EAPは、外部のスタッフが相談員を務めるため、社内の人間関係や評価などを気にせず相談できるのがメリットです。24時間365日サービスを提供していることが多く、いつでも相談できる安心感もあります。スタッフが常駐しない分、内部EAPに比べてコストも抑えられるでしょう。
ただし、このサービスを展開する事業者は多いため、自社が抱える課題のレベルに合ったサービスを選んでください。

メンタルヘルス対策のフェーズ

職場におけるメンタルへルス対策は大きく3つに分けることができます。ここでは、一次予防から三次予防まで、フェーズごとに必要な対応を確認していきましょう。

一次予防:メンタルヘルスの不調の未然防止

メンタルヘルスの一次予防は、メンタルヘルス不調者を出さないために、予防策を講じるフェーズです。研修などで必要な知識を提供したり、パワハラや長時間労働といった労働環境に潜む不調の原因を見つけて改善したりします。また、相談窓口の周知と利用しやすい環境づくりも有効です。
なお、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止を目的とした「ストレスチェック制度」は、一次予防のために必要な取り組みです。

二次予防:早期発見と適切な対応

二次予防のフェーズでは、不調を抱える従業員を見つけ出すことになります。ラインケアや医師のカウンセリングなどで、適切な対応を行いましょう。

三次予防:職場復帰支援

三次予防は、不調で休職した人の復帰支援です。復帰支援は、主治医とも連携しながら再発防止に取り組むことが大切です。職場復帰プログラムを策定し、無理のないよう、復職をサポートしましょう。

■メンタルヘルス対策の体系

【出典】厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策について」|厚生労働省(2017年12月)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000188314.pdf

EAP導入に際して注意すべきこと

EAPを導入する前には、注意点もあります。特に、下記の点はしっかり確認をしておきましょう。

相談員は有資格者か

従業員の相談は多岐にわたるため、さまざまな分野の資格を持った専門家がいることが望ましいです。心療内科医や精神科医などの心を診る専門家のほか、特別民間法人中央労働災害防止協会が認定する心理相談員などが専門家としては望ましいでしょう。

身体的な健康も相談できるか

従業員の心の安定には、体の健康も欠かせません。メンタルヘルスだけでなく身体的な健康についても相談できる専門家や、インストラクターなどがいるEAP機関を選んでください。
また、対面以外にメール、電話などでの相談に応じているかもチェックしておきましょう。

医師への取り次ぎができるか

利用するEAP機関によっては、相談の内容に応じて医師に取り次ぐなど、フレキシブルなサービスを展開しています。すみやかな問題解決のためには、こうした付加的なサービスがあることもポイントです。外部EAP機関を調べる際には、ウェブサイトなどで各EAP機関のネットワークを確認することをおすすめします。

健康経営の第一歩に、EAPの体制づくりを

コロナ禍で働き方や社会の在り方が変わり、メンタルに支障をきたす人が増えている今、EAPはすべての企業が取り組むべき喫緊の課題です。

「マイナビ健康経営」では、従業員の健康促進、生産性向上、人材定着などを目指す企業に向けて、従業員の心身の健康づくりをサポートする「ウェルネスサポート」サービスを提供しています。また、「マイナビプロフェッショナル」では、健康経営の課題に対して、産業医・保健師などの有資格者、および健康課題解決を得意とする顧問・社外取締役などを紹介しています。

健康経営には、EAPの体制づくりも欠かせません。外部EAPも含めて、早急に体制づくりを進めましょう。


<監修者>
丁海煌(ちょん・へふぁん)/1988年4月3日生まれ。弁護士/弁護士法人オルビス所属/弁護士登録後、一般民事事件、家事事件、刑事事件等の多種多様な訴訟業務に携わる。2020年からは韓国ソウルの大手ローファームにて、日韓企業間のM&Aや契約書諮問、人事労務に携わり、2022年2月に日本帰国。現在、韓国での知見を活かし、日本企業の韓国進出や韓国企業の日本進出のリーガルサポートや、企業の人事労務問題などを手掛けている。

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