人材マネジメントとは?意味や目的と取り組む方法、企業事例を紹介
文/横山 晴美
人材は企業において重要な資産です。効果的に活用できるよう、企業は適切に育成・配置・評価等をマネジメントしていくことが求められます。また、マネジメントにおいては、企業の経営戦略と連動させていくことが重要とされています。競争力強化につながる人材マネジメントとはどのようなものなのでしょう。その効果を解説するとともに、具体的な企業事例を紹介します。
目次[非表示]
- 1.人材マネジメントとは
- 1.1.人材マネジメントが注目される理由
- 2.人材マネジメントの効果
- 2.1.人材不足に対応できる
- 2.2.従業員のモチベーションアップ
- 2.3.生産性の向上
- 2.4.人材マネジメントシステムとは
- 3.人材マネジメントの基本
- 4.人材マネジメントにおける企業事例
- 4.1.オムロン株式会社
- 4.2.東京海上ホールディングス株式会社
- 4.3.三井化学株式会社
- 5.まとめ :企業の経営戦略にとっても不可欠な人材マネジメント
人材マネジメントとは
人材マネジメントとは一般的に、人材情報を収集・一元管理する手法やフレームワークのことを指します。具体的な手法やフレームワークに定義はありませんが、それによって組織力の強化を実現したり、各人材のスキルを最大化したりすることが目的です。
例えば、人材情報を活用した意欲やスキルに応じた人材配置の実現や組織が成長するための効果的な育成などが挙げられます。また、経営戦略と人材マネジメントを連動させることで、より積極的で的を射た戦略が実現できるとされています。
人材マネジメントが注目される理由
以前から、人材情報の収集や管理といったマネジメントは、人事の面で重視されていましたが、人件費管理の側面が強い傾向にありました。しかし、近年では、人材をコスト(人件費)ではなく「資本」としてみなす人的資本経営が注目されており、人材の能力を最大限引き出そうとする手法に変化してきています。また、業務のデジタル化やコロナ禍により働き方が変化したことも、従来とは違った手法で人材をマネジメントしていくことも求められる理由のひとつです。
社会の変化に伴い、従来型の人材マネジメントから脱却して新しい人材マネジメント体制を構築することが、企業の持続的な発展のために必要となっているといえるでしょう。
人材マネジメントの効果
少子高齢化や人材の流動化が進む現代において、人材マネジメントには次のような効果があります。
人材不足に対応できる
人材のスキルに合わせた育成や適性配置の実現につながります。人材不足は個々の従業員の負担増加だけでなく、欠けた穴を埋めるために必要なスキルと配置した人材のミスマッチを引き起こすことがあります。育成や適正配置による個々のスキル最大化を図れれば、限られた人材で最大限効果を発揮することが可能です。またミスマッチを防止することで、希望と異なる部署に配置されることによる離職の低減が期待できます。
従業員のモチベーションアップ
個々のキャリアプランや希望する働き方に配慮することによるモチベーションアップが期待できます。意欲的に仕事に取り組み、適正に評価されることで、従業員エンゲージメントの向上につながり、結果的に人材の定着率向上も見込めます。
生産性の向上
人材の個々の強みを生かしていくことは、生産性の向上にもつながります。また、経営戦略とリンクさせることによる企業競争力の強化も実現すると考えられます。ただし、そのためには、人事部だけでなく経営層も含めた全社横断的な視点で人材マネジメント体制を構築する必要があるでしょう。
人材マネジメントシステムとは
多くのメリットがあるとわかっていても、人材情報を一元的に管理し、人事施策に生かしていくのは簡単ではありません。そうした人材マネジメントをサポートするツールとして登場したのが「タレントマネジメントシステム」です。一般的な機能として、スキルやプロフィールのほか、資質、適性、考え方など多くの人材情報を登録できます。例えば異動シミュレーションの比較・分析など、状況に応じて活用できます。また、育成計画や目標管理などの機能も有しているものも多く、幅広く活用できます。
人材管理・育成などに関するプラットフォームシステムであり、人事部のマネジメント業務を大きくサポートするツールとして注目されています。
人材マネジメントの基本
人材マネジメントを効果的に行うために、人材の重要性を理解し、かつ企業経営と人材マネジメントの方向性をリンクさせたうえで、以下の施策を見直してみましょう。
採用
目指すべきビジネスモデルや経営戦略にもとづき、自社に必要な人物像・人材ポートフォリオを明確にします。新規採用・中途採用・アルムナイ採用・ジョブ型採用・メンバーシップ型採用など……多種の採用手法のなかで、欲しい人物像が獲得できる方法を選択します。
育成
育成によってスキルアップを目指しつつ、本人のキャリア形成も支援します。研修でのスキルアップだけでなく目標と現状のギャップを埋める育成を行うことも大切です。そのためには、本人の学び直し(リスキル)や出向、企業間留学など幅広い育成を提供できるとよいでしょう。特に企業間留学は、社内で体験できない業務経験を確実に積むことができる機会となり、不足している専門性やスキルを効果的に深めることが可能です。
評価・報酬
従業員の業務内容・能力を適切に評価し、評価に応じた報酬が支払われる仕組みを構築します。公平な評価基準・賃金基準は、頑張った先の結果が見える化されるため、モチベーション向上につながります。また、頑張りが正当に評価されればエンゲージメント向上につながるでしょう。
ただし、従業員の主観と、企業側の評価・報酬にズレがあると不満につながる可能性があります。普段から、密なコミュニケーションにより理解を深めておく必要があります。なお、報酬は賃金だけとは限りません。従業員にとって価値のある福利厚生制度を用意することもモチベーション向上につながります。
配置
適所適材は、個々のスキルアップとモチベーション向上の両方に効果的です。「本人のスキルが生かせる、もしくは磨けるか」、「本人のキャリアプランとズレがないか」などギャップが生じないように定期的に見直しましょう。また、辞令の際に、異動目的や意義を従業員に伝えることも重要です。
退職
退職に伴う引継ぎや欠員は、周囲の従業員にとってストレスになりがちです。特定の従業員に負担が偏らないようフォローを行いましょう。また、退職以外に「休暇」「休職・復職」などの選択肢も用意し、退職を防止するような制度を整備しておくことも重要です。
病気による退職の予防策として、平素から従業員の健康に投資していく健康経営を取り入れることも有効です。
【人材マネジメントの基本的施策】
人材マネジメントの基本的施策と目的・効果
出典:筆者作成
人材マネジメントにおける企業事例
では、人材マネジメントとして、企業はどのような取り組みを行っているのでしょうか。経済産業省の「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集」から人材マネジメントの事例を紹介します。
オムロン株式会社
国内外に拠点を持つオムロン株式会社は、最重要執行ポジションとして「グローバルコアポジション」を約200設定。そのポジションを担うことができる「人財」を適切に配置することはもちろん、常に発掘・育成する姿勢も重視しています。
組織と人材の可視化にも力を入れ、社員の能力、経験、志向を見える化した人事情報システムを整備。また、従業員エンゲージメントサーベイを実施し、従業員の生の声を的確に吸い上げ、現場の状況を把握するなど、企業理念の実践に取り組むチームをつくり上げています。
東京海上ホールディングス株式会社
東京海上ホールディングス株式会社は、多様な人材の採用や計画的な育成、それらを支える仕組みの整備に特に力を入れて取り組み、多経営陣レベルで人材要件を明確化し、役員間で共有しています。
トップタレントの獲得やグローバル経営人材の育成を目的とした人事制度を導入し、スピード感のある人材育成を実現。また、「シニアリーダー層」「国内中堅リーダークラス」「国内若手リーダークラス」「海外ミドル層」など、段階に応じた研修を提供しています。
三井化学株式会社
三井化学株式会社は、グループ・グローバル共通で、職務や経営戦略上のミッションを定義し、職務・ミッションに適した人材を社内外から登用しています。統合的な人材プラットフォームもグループ・グローバル共通の仕組みとして整備を進めています。
経営者候補等の特定人材に対して、個別育成計画を策定。その一方で、グループ全従業員一人ひとりが自律的なキャリア形成を行うための、包摂的タレントマネジメントを目指しています。
まとめ :企業の経営戦略にとっても不可欠な人材マネジメント
人材マネジメントの実施により、人材情報を活用してより効果的な評価や人材配置を行うことが可能です。従業員個々のモチベーションアップや、スキル最大化が叶いますが、企業の経営戦略と連携させることで、組織の活性化や企業競争力の強化も実現できることでしょう。自社の競争力強化のために、人材マネジメントを経営戦略に取り入れることを検討してはいかがでしょう。
【プロフィール】 横山 晴美(よこやま・はるみ) ライフプラン応援事務所代表 AFP FP2級技能士 2013 年に FP として独立。一貫して個人の「家計」と向き合う。お金の不安を抱える人が主体的にライフプランを設計できるよう、住宅や保険などお金の知識を広く伝える情報サイトを立ち上げる。またライフプランの一環として教育制度や働き方関連法など広く知見を持つ。 |