未来人材ビジョンとは?これから求められる人材と雇用の在り方
未来人材ビジョンとは?企業はどのように人材採用や育成を進めるべきか?経済産業省公表レポート「未来人材ビジョン」をもとに、これからの雇用の在り方を解説します。
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「未来人材ビジョン」から考える、これからの雇用の在り方
現代社会では、デジタル化の進展や企業が取り組むべき課題の多様化などを受けて、従来とは異なる能力や特性を持った人材が求められるようになるといわれています。将来の労働需要の変化に備えて、企業はどのように人材採用や育成を進めていけばいいのでしょうか。
本記事は2022年5月、経済産業省が今後の人材政策などを検討するために公表したレポート「未来人材ビジョン」に沿って、これから求められる雇用の在り方を解説します。人材を「資本」として捉えた、これからの雇用の在り方を共に考えていきましょう。
未来を支える人材の確保・育成に関する大方針をまとめた未来人材ビジョン
未来人材ビジョンは、2022年5月に経済産業省が発表したレポートです。
中学、高校、大学の教員、ベンチャー企業経営者などが、国の人材施策を検討する「未来人材会議」が中心となって調査・議論した結果をまとめたもので、未来を支える人材の確保・育成に関する大方針と、取り組むべき課題、具体的な施策を示しています。
未来人材ビジョンが策定された背景
少子高齢化、キャリアの多様化など、企業と働く人を取り巻く社会環境は大きく変わりました。今後、カーボンニュートラルや社会のDX化が進めば、産業構造や労働需要も変化していくでしょう。日本企業がこれまで重視してきたスキルや知見、特性が通用しない世の中になることも考えられます。
しかし、現在の日本企業は、人材需要や事業環境の変化を予測し、時代が求める人材採用、人材育成を実践できているとはいえません。未来人材ビジョンの中でも、その点は危機感を以て指摘されています。同レポートによると、2030年には高度な技術で日本の労働を支える外国人労働者はあらゆるシーンで不足し、日本の生産年齢人口は2050年に3分の2まで減少すると予測されているのです。
そうした背景の中、未来人材会議は、限られた人口で社会を回すことと、再び世界に認められる国になるための雇用・人材育成システム、教育システムを検討するために設置され、未来人材ビジョンが公表されるに至りました。
未来人材ビジョンは、これからの社会で必要となる能力やスキルを企業が示し、雇用システムと人材システムを一体化することによって、学生から社会人まであらゆる世代で一体的に議論することを求めています。
【参照】経済産業省「2030年、2050年の未来を見据え、「旧来の日本型雇用システムからの転換」と「好きなことに夢中になれる教育への転換」を!」|経済産業省(2022年5月)
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001.html
未来人材ビジョンが示す日本企業の現状
未来人材ビジョンは、日本の現状をさまざまな切り口で示しています。今、日本ではどのような問題点が浮き彫りになっているのか確認していきましょう。
1.従業員エンゲージメントは世界でも最低水準
未来人材ビジョンによると、日本企業の従業員エンゲージメントを世界と比較した際に驚きの結果が見られました。従業員エンゲージメントは、アメリカ・カナダが34%、ラテンアメリカと南アジアが24%、東南アジアと国家連合のCISが23%であるのに対し、日本はなんと5%。現在の勤務先で働き続けたいと考える人も世界で比較すると突出して少なく、52%という結果です。
それでは、転職の意思を持つ人が多いのかといえば、転職意向のある人の割合は25%、独立・起業志向のある人の割合は16%にとどまっており、能動的な意識を持つ従業員が少ないのが現状です。
【参照】経済産業省「未来人材ビジョン P33-35」|経済産業省(2022年5月)
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf
2.昇進が遅く年収が低い
日本企業における昇進年齢を見ると、課長への昇進は38.6歳、部長への昇進は44歳となっています。部長の年収を海外諸国と比較した場合、シンガポール、アメリカ、タイよりも低く、転職して賃金が増加するケースもわずかです。
3.従業員のスキルが将来的に通用しなくなることを認識している
現在の業務における従業員のスキルと、デジタル化や脱炭素化などの潮流を受けて、これから求められるスキルとのあいだにギャップがあることを、4割以上の日本企業が認識しています。しかし、OJT以外の人的投資を行っている企業の割合はごくわずかで、社外学習や自己啓発を行っていない人の割合は46%と、こちらも海外諸国と比較すると群を抜いて多いのが現状です。現代の日本は企業が人材を育てず、人材も自ら学ばない状態にあることがわかります。
これらの結果、日本の人材の競争力は下降の一途をたどり、国際競争力はこの30年で1位から31位へと大きく転落しました。
【参照】経済産業省「未来人材ビジョン P49」|経済産業省(2022年5月)
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf
未来人材ビジョンから考える、今後の企業のあるべき姿
未来人材ビジョンは、先進国であるはずの日本の厳しい現状をデータで指摘するとともに、社会システムの見直しや人材に対する考え方の転換を企業に求めています。
今後、企業はどのような姿勢で雇用や人材育成に向き合えば良いのでしょうか。必要とされる具体的な取り組みを見ていきます。
人材を資本と捉えて投資する
中長期的な投資・財務戦略において投資家は「人材投資」を重視しますが、企業側は設備投資や研究開発投資を重視しており、そこには大きなギャップがあります。
今後、多様化・複雑化する経営環境において企業の価値を持続的に高めるには、未来人材ビジョンが提唱しているように、経営戦略と人材戦略を連動させ、「人材を資本」と捉えて積極的に投資する「人的資本経営」の考え方が必要とされてくるでしょう。
つまり、終身雇用、年功序列、企業別労働組合といった旧来の日本の雇用システムから脱却し、人材の採用、育成、賃金アップなどをコストではなく資産として捉えて積極的に推進をすることが求められるのです。
投資家が、中長期的な投資・財務戦略において「人材投資」を最重要視しているにもかかわらず、設備投資などを最重要視している企業は、その認識のギャップを見直す必要があるといえます。企業には、個人が持つ多様な才能やアイディアを引き出していくことが当たり前に求められる。そんな時代が迫ってきています。
働き手と組織の関係を変える
人的資本経営を実践し、働き手と組織の関係を「閉鎖的」から「選び、選ばれる関係」へと変化させることが望ましいと未来人材ビジョンは指摘しています。
グローバルに戦える企業を作るには、企業と個人が互いに選び選ばれる対等な関係を築く必要があります。人的資源を最小化して成果を得る方法ではなく、リスキルや学び直し、フレキシブルな働き方の導入などによって人材の潜在能力を最大化し、成果も最大化させる考え方へとシフトしていくことが大切です。
【おすすめ参考記事】
雇用・人材育成と教育システムを一体として議論する
これまで、雇用・人材育成と教育システムは別々に議論されてきました。しかし、生産年齢人口が減少する中、限られた人数で企業価値を向上させるには、こうした社会システムそのものを見直さなくてはなりません。
企業は、これからの時代に社会で活躍するために求められるスキルや能力を具体的に提示し、学びの方向性を示すことが求められます。学生が早期に社会を知ることができるよう、インターンシップを実施することも重要です。
企業はこれまで以上に教育に対して主体的に参画し、それぞれの従業員と共に「あるべき姿」へと変革していく必要性があるでしょう。
従業員エンゲージメントを高める取り組みを実施する
現在の勤務先に愛着を持ち、みずからのスキルや知見を活かして企業に貢献したいと考える人を増やすためには、従業員エンゲージメントを高める取り組みも実施する必要があります。
企業は現時点でのエンゲージメントレベルを具体的に把握し、達成困難な仕事をあえて任せたり、幅広いポジションに挑戦できる公募制を取り入れたりして、従業員の成長を促していくことが求められていきます。
また、健康経営に投資し、従業員が心身ともにすこやかに働ける環境を作ることも、生産性の向上につながるでしょう。Well-beingの視点を持ち、人材が定着する環境を作ることは企業が避けては通れない道なのです。
人的資本に投資し、企業と人材にとってより良い未来を創ろう
未来人材ビジョンは、現在の日本企業の在り方に警鐘を鳴らし、各企業における雇用制度や人材育成の見直しにつながることを期待して策定されています。あくまでも未来人材ビジョンは、最初の出発点として提示されたものであり、経済産業省も「それぞれの産業や職種において、組織内の人事制度や業界の人材育成の在り方の議論に一石を投じること」を目的として未来人材ビジョンを公表しました。これからの時代に必要なこととして最初に求められているのは、企業の意識変革といえます。
まずは、日本企業が置かれている現状を真摯に受け止め、従業員の能力やスキルの更新をサポートしましょう。
今後は、人材への積極的な投資によって、自社を愛し貢献したいと願う働き手を増やせるか否かが企業の命運を分ける可能性もあります。
従業員が働くことで得られる経験やスキルが、自身の価値向上につながることを実感できてこそ、従業員は持続的な働きがいを持ちながら、その能力を発揮することができるようになります。
産業構造の転換に対応し、社会に求められる価値ある企業として成長し続け、「企業と従業員による価値共創」を実現させるためにも、人的資本経営への移行を進めてはいかがでしょうか。
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