人的資本経営の伊藤レポートとは?情報開示の項目やメリットと来歴を解説
人材を会社の資本と捉える「人的資本経営」に注目が集まっています。人的資本経営の概要や求められる理由、企業におけるメリット、開示すべき情報などについて解説します。
目次[非表示]
- 1.【保存版】人的資本経営を時系列で一気におさらい/基礎編
- 2.人的資本は、人材を資源ではなく「資本」として捉え、企業の価値創出につながるもの
- 2.1.無形資産である人的資本
- 2.1.1.<無形資産の例>
- 2.2.人的資本と人的資源の違い
- 2.3.日本における無形資産への投資状況
- 3.人的資本経営が求められる理由
- 3.1.無形資産の重要性が高まった
- 3.2.ESG投資が投資のトレンドになった
- 4.日本における人的資本の開示の動き
- 4.1.1. 人材版伊藤レポートの公表
- 4.1.1.<第1章 持続的な企業価値の向上と人的資本>
- 4.1.2.■人材戦略の現状(Not This)と、変革の方向性としてあるべき姿(But This)
- 4.1.3.<第2章 経営陣、取締役会、投資家が果たすべき役割>
- 4.1.4.■人材戦略に関するステークホルダーの役割
- 4.1.5.<第3章 人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素>
- 4.1.6.■人材戦略に求められる3つの視点
- 4.1.7.■人材戦略に求められる5つの共通要素
- 4.2.2. 東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを改訂
- 4.3.3. 新しい資本主義の中で人的資本への積極投資が明言される
- 5.人材版伊藤レポート2.0の公表
- 5.1.経営戦略と人材戦略を連動させるための取り組み
- 5.2.As is/To beギャップの定量把握のための取り組み
- 5.3.企業文化への定着のための取り組み
- 5.3.1.<企業文化を定着させる取り組み例>
- 6.人的資本可視化指針の公表
- 7.人的資本を推進、開示することで得られる企業のメリット
- 7.1.企業イメージが向上する
- 7.2.企業の成長力が向上する
- 7.3.生産性や従業員エンゲージメントが向上する
- 7.4.投資対象になる可能性が高まる
- 8.人的資本経営は、健康経営への投資とウェルビーイング追求への視点が不可欠
- 9.健康経営への取り組みを人的資本経営に活かそう
【保存版】人的資本経営を時系列で一気におさらい/基礎編
企業を取り巻く環境が大きく変わる中、持続的に企業の価値を高めていくために、人材を会社の資本と捉える「人的資本経営」に注目が集まっています。投資判断の指標としても、有形資産以上に無形資産を評価する傾向が強まっているようです。今や、投資家の多くが人的資本に関する経営者の情報開示を求めています。
政府が経済政策の一環として強化に乗り出したことでいっそうの加速が予想される人的資本経営について、その概要から人的資本経営が今求められている理由、企業におけるメリット、開示すべき情報までを解説します。
人的資本は、人材を資源ではなく「資本」として捉え、企業の価値創出につながるもの
ビジネス環境の急激な変化や、将来の不確実性の高まりを受けて、人材一人ひとりが持っている能力や資質が企業の価値を高める要素のひとつとして重視されるようになりました。
このように、企業は人という資源を資本化していくべきであると捉えることを、「人的資本」といいます。まずは、人的資本の概要を確認していきましょう。
無形資産である人的資本
一般的に企業の価値は、「有形資産」と「無形資産」に大きく分けられます。有形資産とはその名のとおり、何らかの形を備えている資本のことです。
無形資産とは、有形資産の対になる言葉で、特許権やブランド、ステークホルダーとの関係性といった形のない資本のことです。人的資本は無形資産のひとつで、個人が持つ技能やアイディア、資質、能力を含めて、人材を投資の対象となりうる資本と捉えられます。無形資産はどのようなものが該当するのか、具体的に見ていきましょう。
<無形資産の例>
- 情報化資産:
受注ソフトウェア、パッケージ・ソフトウェア、自社開発ソフトウェア、データベース - 革新的資産:
自然科学分野の研究開発、資源開発権、著作権・ライセンス、他の製品開発、デザイン、自然科学分野以外の研究開発 - 経済的競争能力:
ブランド資産、企業固有の人的資本、組織構造
【参照】内閣府「年次経済財政報告」|内閣府(2011年7月)
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je11/pdf/p02033.pdf
人的資本と人的資源の違い
人的資本とよく似た言葉に、「人的資源(Human Resource)」があります。人的資源は、その人が持っている資質や能力を含めて、人材を経営資源のひとつとして捉える考え方です。企業経営における経営資源にはヒト、モノ、カネ、情報の4つがあり、これらを包括して「4大経営資源」と呼びます。
人材を人的資源と呼ぶ場合、人材は消費の対象であり、人材にかかる費用はコストと認識されます。
これに対して、人材は企業経営に欠かせない軸であり、磨くべきものと考えるのが人的資本の概念です。そのため、人的資本にかかる費用はコストではなく投資に分類されます。
日本における無形資産への投資状況
知識経済化が進む現代においては、人的資本を含めた無形資産こそ企業の競争力の源泉であり、ひいては日本の国際的な競争力向上の原動力であるともいえます。
しかし、機器を購入して効率化を図るといったわかりやすい有形資産への投資と違って、無形資産への投資対効果は時間をかけて顕在化していくものです。そのため、積極的な投資につながりにくく、特に日本では今なお有形資産への投資が大きなウェイトを占めています。
現場の肌感覚や帳簿上で投資の重要性が把握しやすい有無形資産に対して、無形資産は現状を計測しにくいことも、無形資産への投資行動が進まない原因のひとつと考えられます。
【参照】内閣府知的財産戦略推進事務局「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン(略称:知財・無形資産ガバナンスガイドライン)Ver.1.0(概要)」|内閣府(2022年1月)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/governance_guideline/pdf/shiryo2.pdf
人的資本経営が求められる理由
人材を資本として捉える人的資本の考え方にもとづき、その価値を最大限に引き出すための戦略的な投資を行って中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方を、経済産業省は人的資本経営と定義して推進しています。
人的資本経営が推進される理由は、大きく2つあります。それぞれどのような理由なのか見てきましょう。
無形資産の重要性が高まった
世界の動向を見ると、企業価値における無形資産の重要性は高まる一方です。日本では、今も有形資産への投資が多くを占めていることは前述したとおりですが、アメリカの代表的な株価指数「S&P500」の市場価値の構成要素を見ると、2015年から企業価値に占める無形資産の割合が8割を超えています。
実際、欧州やアメリカではすでに人的資本経営への転換が進みつつあり、欧州では2014年から従業員500人以上の上場企業に対して人的資本情報の開示を義務づけました。2020年8月には、米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して人的資本の情報開示を義務づけています。
また、2018年に国際標準化機構(ISO)が発表した「ISO30414」に準拠する形で、人的資本情報の開示に取り組む企業も増えました。ISO30414とは、人的資本の情報開示のためのガイドラインで、企業の人的資本の状況を定量化することを目的のひとつとしています。ISO30414により、企業は自社の状況をデータ化して把握できるようになり、人的資本をより活用するための効果的な施策を検討しやすくなったのです。
ESG投資が投資のトレンドになった
環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を考慮したESG投資への注目度が上がっていることも、人的資本経営の取り組みが加速している要因のひとつです。人的資源は使用することによって減りますが、人的資本は人の持つ可能性に投資することで大きなリターンが見込めます。
人的資本は、ESG投資の中でも社会貢献や環境保護、女性活躍などが該当する「社会」の部分に貢献するものであり、投資評価項目のひとつとなっています。
【参照】経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」|経済産業省(2022年9月)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html
【参照】経済産業省「人的資本経営に関する調査について」|経済産業省(2021年10月)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/seminar02.pdf
日本における人的資本の開示の動き
人的資本経営へのシフトは、世界的な潮流になりつつあります。しかし、日本企業の多くは人的資本の重要性の理解にとどまり、「人的資本の価値を高める施策の具体的な着手はこれから」という状況であることが多いようです。
こうした現状を受けて、日本では2020年以降、官公庁主導で人的資本開示に向けた取り組みが強化されるようになりました。その具体的な取り組みを、時系列に沿ってご紹介します。
1. 人材版伊藤レポートの公表
2020年1月から、経済産業省は「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」を実施し、その報告書を通称「人材版伊藤レポート」として2020年9月に公表しました。報告書の名称は、研究会の座長である伊藤邦雄一橋大学名誉教授にちなんだものです。
人材版伊藤レポートは、「第1章 持続的な企業価値の向上と人的資本」「第2章 経営陣、取締役会、投資家が果たすべき役割」「第3章 人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素」から成り、各章の概略は下記のようになっています。
<第1章 持続的な企業価値の向上と人的資本>
企業経営における人材戦略の現状(Not This)と、変革の方向性としてあるべき姿(But This)を比較した上で、人材を資源として捉えて相互依存・囲い込み型にあった従来の経営から、人材を資本として投資し、選び選ばれる関係へと移行していくことの重要性を述べています。この章で紹介されている変革すべき項目は、下記のとおりです。
■人材戦略の現状(Not This)と、変革の方向性としてあるべき姿(But This)
変革すべき項目 |
Not This |
But This |
---|---|---|
人材マネジメントの目的 |
人的資源・管理(投資ではなくコスト) |
人的資本・価値創造(投資であり、効果を見える化) |
アクション |
人事(人事諸制度の運用・改善にとどまり、経営戦略と連動しない) |
人材戦略(経営戦略から落とし込み、持続的な企業の価値創造につなげる) |
イニシアチブ |
人事部(人材関係は人事部の仕事であり、経営戦略に紐づかない) |
経営陣/取締役会(経営陣のイニシアティブで経営戦略と紐づけ、取締役会がモニタリング) |
ベクトル・方向性 |
内向き(雇用コミュニティの同質性が高い。人事は囲い込み型) |
積極的対話(人材戦略を価値創造のストーリーと位置づけ、投資家・従業員に対して積極的に発信し対話する) |
個と組織の関係性 |
相互依存(企業は囲い込み、個人もそれに依存する。硬直的でイノベーションが生まれにくい) |
個の自律・活性化(互いに選び合い、共に成長する。多様な経験を取り込んでイノベーションが生まれやすい) |
雇用コミュニティ |
囲い込み型(終身雇用や年功序列) |
選び、選ばれる関係(専門性を土台にした多様でオープンなコミュニティ) |
<第2章 経営陣、取締役会、投資家が果たすべき役割>
人材戦略を変革する上で欠かせない、経営陣を監督・モニタリングする取締役会、経営陣と対話する投資家、経営を支える従業員について、それぞれに期待される役割やアクションを整理しています。具体的な役割は下記のとおりです。
■人材戦略に関するステークホルダーの役割
経営陣 |
人材戦略の策定や実行、社内外への発信・対話を担い、経営戦略と連動させて取り組みを推進する |
---|---|
取締役会 |
戦略の承認や実行のモニタリングを担い、人材戦略に関する監督・モニタリングを行う |
投資家 |
企業が公表した中長期的な人材戦略を踏まえて投資先を選定・対話する |
従業員・労働市場 |
企業の中長期的な人材戦略にもとづいて、自律的にキャリアを選択する |
レポートでは、4者がそれぞれの役割を果たし、個人の自律的な成長・活躍と変化に対応する経営を両立することが、持続的な企業価値の向上につながるとしています。なお、従業員・労働市場が人材戦略に関するステークホルダーに加わったことは画期的ともいえ、これからの時代、従業員との対話はますます重要となっていくことを予見させます。
<第3章 人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素>
企業が策定・実行する人材戦略には、企業ごとに異なる課題や文化が色濃く反映されますが、すべてに共通する3つの視点(Perspectives)と5つの共通要素(CommonFactors)が存在します。企業が自社にとって有効な経営戦略を立案するには、下記にあるような3つの視点からの俯瞰と、5つの共通要素、いわゆる3P5Fモデルによる分類が役立ちます。
■人材戦略に求められる3つの視点
(1)経営戦略と人材戦略の連動 |
(2)As is/To be(ギャップの定量把握) |
(3)人材戦略の実行プロセスを通じた企業文化への定着 |
■人材戦略に求められる5つの共通要素
(1)動的な人材ポートフォリオ |
(2)知・経験のダイバーシティ&インクルージョン(個を尊重し合い、良いところを活かすこと) |
(3)リスキル・学び直し |
(4)従業員エンゲージメント |
(5)時間や場所にとらわれない働き方 |
【出典】経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~(概要)」|経済産業省(2020年9月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_4.pdf
2. 東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを改訂
コーポレートガバナンスについて、東京証券取引所は「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義しています。したがって、コーポレートガバナンス・コードとは、上場企業の実効的な企業統治におけるガイドラインだといえるでしょう。
2021年6月、東京証券取引所は、このコーポレートガバナンス・コードを改訂しました。改訂では、「自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識した人的資本投資等についての開示」「中核人材における多様性確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標の開示」などが補充原則として追加され、人的資本についても下記のとおり情報開示が求められています。
<コーポレートガバナンス・コード補充原則 3-1(3)>
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。
コーポレートガバナンス・コードは、企業が行うべき行動を細かく規定する「ルールベース・アプローチ」ではなく、コーポレートガバナンスの実現に向けた原則を提示する「プリンシプルベース・アプローチ」です。まだ、法的拘束力はないものの、上場企業においては事実上人的資本の情報開示が迫られることになったといえます。
【出典】東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」|東京証券取引所(2021年6月)
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf
3. 新しい資本主義の中で人的資本への積極投資が明言される
2022年6月、岸田総理大臣が掲げる経済政策「新しい資本主義」の全体の構想と実行計画・フォローアップが閣議決定されました。
新しい資本主義は、成長によって企業収益や歳入を増やし、増えた分を投資に回すことでさらなる成長を生み出す「成長と分配の好循環」を基本としています。この中で、人的資本は創意工夫やアイディアを生み出す付加価値の源泉であるとされ、人への投資の抜本的強化が分配戦略のひとつとして位置づけられました。
具体的な取り組みの中には、「企業の人的投資を促進するための情報開示ルールの見直し」が挙げられ、パブリックコメントを踏まえた検討を経て2022年8月に「人的資本可視化指針」(後述)としてまとめられています。
【参照】首相官邸「未来を切り拓く「新しい資本主義」」|首相官邸(2022年6月)
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/seisaku_kishida/bunpaisenryaku.html#2-2
人材版伊藤レポート2.0の公表
「人材版伊藤レポート」の公表以降、人的資本に対する注目度が高まり、我が事として課題を認識する企業が増加しました。
これを受け、2021年7月から経済産業省において「人的資本経営の実現に向けた検討会」を設置。非財務情報の中心である人的資本の重要性がますます増していくであろうことを鑑み、人的資本への取り組みをさらに活性化させるべく検討を開始しました。
その報告書は、「人材版伊藤レポート2.0」として2022年5月に公表されました。人材版伊藤レポート2.0は、人的資本の重要性をあらためて説くとともに、先に紹介した人材版伊藤レポートの「3つの視点・5つの共通要素」の枠組みにもとづいて人的資本経営を実践する際に実行すべき取り組みと、取り組みのポイントや有効な工夫を8つの項目で提示しています。それらの概要は下記のとおりです。
経営戦略と人材戦略を連動させるための取り組み
当レポートは、急速に変化する経営環境の中で持続的に企業価値を高めるには、経営戦略とともに人材戦略を策定・実行することが重要であるとしています。また、CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)の設置、全社的経営課題の抽出、KPIの設定、背景・理由の説明、人事と事業の両部門の役割分担の検証と人事部門のケイパビリティ向上を推奨。さらには、後継者育成計画であるサクセッションプランの具体化や、社長など経営陣の選解任を議論する指名委員会委員長への社外取締役の登用、役員報酬への人材に関するKPIの反映などの実行も推奨しています。
As is/To beギャップの定量把握のための取り組み
当レポートでは、会社の現在の姿(As is)と、KPIを用いて目指すべき姿(To be)とのギャップを定量的に把握していくこともすすめています。
併せて、人事情報基盤の整備のほか、動的な人材ポートフォリオ計画を踏まえた目標や達成までの期間の設定、定量把握する項目を一覧化するといった行動が提示されています。
企業文化への定着のための取り組み
当レポートは、企業価値の向上につながる企業文化を醸成するため、人材戦略を策定する段階で理念、存在意義、企業文化を定義する必要性を強調しています。具体的には、下記のような取り組みが求められています。
<企業文化を定着させる取り組み例>
-
動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用
必要な人材の質と量を中長期的に維持するため、人材の採用・配置・育成の戦略的な実施を行う。 -
知・経験のダイバーシティ&インクルージョンのための取り組み
イノベーションを生み出し続けることが企業価値の継続的な向上につながるため、ダイバーシティを導入する。 -
リスキル・学び直しのための取り組み
経営環境の変化に対応するため、社員のリスキルを促すことが肝要であるため、社員のリスキルを支援するための具体的なプロセスを支援する。 -
従業員エンゲージメントを高めるための取り組み
経営戦略の実現に向け、従業員が十分に能力を発揮するには環境の整備が欠かせないため、従業員のエンゲージメントレベルを把握し、エンゲージメントが低い従業員には適切な仕事の割り当てを行う。 -
時間や場所にとらわれない働き方を進めるための取り組み
事業継続の観点からも必要性が高まる「いつでも、どこでも働ける」環境整備について、リモートワークの円滑化など具体的な対応を行う。
【参照】経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」|経済産業省(2022年5月)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf
人的資本可視化指針の公表
2022年8月には、企業の人的資本の開示に関する指針が正式に公表されました。これは、人的資本に関する資本市場への情報開示の在り方について、既存の基準や指針を含めて包括的に整理したものです。併せて、日本企業として開示が望ましい項目案も示されました。
企業は、資本市場や労働市場のステークホルダーが腹落ちするストーリーを、人的資本の定量的なデータをもとに語れるよう準備する必要があります。
開示が望ましいとされる項目は、育成、エンゲージメント、流動性、ダイバーシティ、健康・安全、労働慣行、コンプライアンス・倫理に大別され、全部で19項目あります。
図:【出典】非財務情報可視化研究会「非財務情報可視化研究会(第6回)人的資本可視化指針(案)」P27をもとに作成|内閣官房(2022年6月)
人的資本を推進、開示することで得られる企業のメリット
人的資本を推進し、開示することは企業にもメリットがあります。その際は、戦略的に開示項目を選定することが重要です。続いては、人的資本を推進し、戦略的に開示項目を選定することで得られる4つのメリットについて見ていきましょう。
企業イメージが向上する
人的資本の情報開示は世界的なトレンドであり、投資家からの要請も活発化しています。情報を開示すれば、無形資産である従業員の能力を伸ばすことや勤務環境を充実させることに積極的に取り組んでいることがステークホルダーに伝わり、優良な企業として社会的イメージの向上につながるでしょう。
企業の成長力が向上する
人的資本を推進し、経営戦略と人材戦略を一本化すると、企業の課題や将来的なリスクに対する対応力が向上します。結果として、企業の成長力を高めることができるでしょう。
生産性や従業員エンゲージメントが向上する
人的資本に積極的に投資すれば、従業員の成長は促進され、生産性が向上します。また、環境面の充実により、エンゲージメントの向上も見込めるでしょう。離職率の低下や優秀な人材の採用など、副次的な効果も期待できます。
投資対象になる可能性が高まる
人的資本は、ESG観点や、無形資産に着目したリターンに注目する投資家に評価される項目です。そのため、開示した人的資本の情報が充実していれば、そうした投資家の投資対象になる可能性が高まります。
人的資本経営は、健康経営への投資とウェルビーイング追求への視点が不可欠
人的資本経営には、従業員の健康・安全管理、学び直しのための環境整備、従業員エンゲージメントを高めるための取り組みなど、ウェルビーイングに関連する項目が数多く含まれています。すなわち、従業員の健康保持・増進を行う健康経営は、そのまま人的資本への投資となり、着実な健康経営の実践とウェルビーイング追求への視点こそが人的資本経営の促進につながるといえます。
健康経営に積極的に取り組んできた企業が人的資本経営の観点へと拡張していけば、これまでの取り組みを活かしてさらに企業価値が高まり、中長期的な競争力を強化することができるでしょう。人的資本開示の流れや人的資本経営の浸透は、健康経営をすでに実践している企業にとって大きなチャンスになる可能性があります。
健康経営への取り組みを人的資本経営に活かそう
マイナビ健康経営は、2020年のサービスリリース時より「人材を資本」と捉え、大切な資本に十分な投資をすることが企業を成長させるという考えのもとでサービスを展開してきました。そして、今後も人的資本関連のサービスを牽引していきます。
人的資本への投資には、従業員の健康・安全管理が含まれます。これまで実践してきた従業員の健康保持・増進など、健康経営の取り組みは人的資本経営に直結するものであるといえるでしょう。なお、人的資本における開示項目については、最初からすべてを選ぶのではなく、自社に適した項目を少しずつ選んでいくことをおすすめします。
人的資本経営には、健康経営への投資の視点も含まれています。これまで健康経営に取り組んできた企業もそうでない企業も、まずは健康経営を一から見直し、人的資本経営への対応に取り組んでみてはいかがでしょうか。
健康経営を推進する上での困り事があれば、「マイナビ健康経営」にご相談ください。
健康経営の推進をさまざまなサービスを活用してサポートいたしますので、お気軽にお声がけください。
<監修者> |