【2023年版】健康経営優良法人とは?認定申請開始!去年からの変更事項、要件・効果・経済産業省レポートから6社の最新成功事例を解説
文/横山 晴美 ファイナンシャルプランナー ライフプラン応援事務所代表
従業員の健康維持、増進を経営戦略に組み込む「健康経営」は大手企業で定着しつつあり全国に広がっています。経済産業省が推進する「健康経営優良法人認定制度」の認定企業も年々数が増えており、今後のさらなる注目が期待されます。今記事では、健康経営優良法人制度について、2023年申請の際の変更点や、今年の認定企業の紹介など、2023年度版の情報を解説します。
目次[非表示]
- 1.健康経営優良法人とは
- 1.1.健康経営とは
- 1.2.健康経営優良法人とは? ホワイト500とブライト500
- 2.2023年度の変更点は? 健康経営優良法人の認定要件
- 3.2023年度 健康経営優良法人の申請フロー
- 3.1.2023年 大規模法人部門・ホワイト500の申請フロー
- 3.2.【健康経営優良法人 大規模法人部門 認定フロー】
- 3.3.2023年 中小規模法人部門・ブライト500の認定フロー
- 3.4.【健康経営優良法人 中小規模法人部門 認定フロー】
- 4.健康経営の効果
- 5.健康経営優良法人 2022年選定企業の成功事例
- 5.1.中小規模法人部門の事例紹介
- 5.1.1.1:メンタルヘルス改善、高ストレス者予備軍を発見し予防/株式会社新井精密
- 5.1.2.2:就業中にフィットネスタイムを設けて不調改善、テレワークによる不調増加を察知し早急な対策を講じた/株式会社エイジェントヴィレッジ
- 5.1.3.3:会社負担で腫瘍マーカー検査、顕在化しにくい女性の健康問題に着目して健診・健康セミナーを実施/株式会社エヌ・ケーエンジニアリング
- 5.2.大規模法人部門の事例紹介
- 6.まとめ:健康経営の効果を知って自社の経営戦略に取り込もう
- 7.追記:健康経営優良法人と転職市場での優位性
健康経営優良法人とは
まず、健康経営優良法人の概要について確認しておきましょう。理解の前提となる健康経営についても改めて解説します。
健康経営とは
「健康経営」とは、経営理念に基づき、従業員の健康維持・増進を経営戦略に組み込み、実践することをさします。具体的には、従業員への保健指導や生活習慣病への対策、メンタルヘルス対策など幅広い施策が該当し、取り組みは「健康投資」とも呼ばれます。
健康経営を実践することで、従業員エンゲージメント向上や生産性の向上、同時に組織活性化につながり、投資家や求職者へのイメージ向上、業績向上や株価向上の効果が得られると期待されています。
少子化高齢化が進むなか、人材獲得競争は厳しさを増しています。限られた人材のパフォーマンス向上や組織の活性化は企業にとって重要なテーマであり、多くの企業が健康経営に注目し、実践しています。
健康経営優良法人とは? ホワイト500とブライト500
健康経営に取り組む優良な法人を広く「見える化」するための顕彰制度のひとつが、「健康経営優良法人制度」です。2016年度に制度創設され、健康経営優良法人と認定された企業は、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「健康経営に積極的に取り組んでいる法人」として認知されます。つまり、良質な健康経営を実践する法人として、社会的な評価を受けられる制度となっています。
なお、健康経営優良法人には、規模と評価による区分があります。
大きく、大企業が対象の「大規模法人部門」と中小企業が対象の「中小規模法人部門」に分かれ、さらに「大規模法人部門」の上位500社は「ホワイト500」、「中小規模法人部門」の上位500社は「ブライト500」の名称の冠が付加されます。大規模法人部門と中小規模法人部門の区分は、従業員規模や資本金などにより決まります。ただし、業態により基準が異なるので申請時に経済産業省の申請区分をご確認ください。
図:健康経営銘柄と健康経営優良法人(ホワイト500、ブライト500)の位置づけ
出展:経済産業省「健康経営の推進について」より加工
2023年度の変更点は? 健康経営優良法人の認定要件
健康経営優良法人の認定要件を、大規模法人部門(大企業向け)と中小規模法人部門(中小企業向け)に分けて見ていきます。
大規模法人部門の認定要件
大規模法人部門において、認定の評価項目は大項目5つに分かれており、その下に複数の小項目が存在します
1:経営理念
2:組織体制
3:制度・施策実行
4:評価・改善
5:法令順守・リスクマネジメント(自主申告)
中小規模法人部門の認定要件
中小法人の認定要件も、基本の5項目は、上記に挙げた大規模法人と同一です。しかし細かい評価項目の内容に若干の違いがあります。また認定のために満たすべき項目の数も、大規模法人より少ないのが特徴です。
2022年度からの変更点 健康経営優良法人認定申請料金はいくら?
認定要件の項目においては、大規模法人部門、小規模法人部門いずれも、前年度との大きな変更は見られません。ただし、2022年度からの変更点として注目したいのが、運営体制と料金の変更です。2023年度からは顕彰制度の運営が委託事業から補助事業へ移行します。顕彰制度事務局の運営等を担う補助事業者は、公募により株式会社日本経済新聞社に決定しました。経済産業省はこの変化を、健康経営における民間事業者の創意工夫をより活かすためのものであるとしています。
また、申請における大きな変更点は、2023年度から新たに申請料が発生することになった点です。具体的な申請料は、以下のとおりです。
<健康経営優良法人認定 申請料>
・大規模法人 認定申請料 80,000円(税込88,000円)/件
・中小規模法人 認定申請料 15,000円(税込16,500円)/件
大規模法人がグループ会社との合算で申請する場合、申請主体となる法人80,000円(税込88,000円)に加え、同時認定の対象となる合算1法人あたり15,000円(税込16,500円)が加算されます。ただし、大企業が健康経営度調査への回答のみを行う場合は、申請料は不要です。
また、申請方法がWebを通じたものになりました。
2023年度 健康経営優良法人の申請フロー
続けて、健康経営優良法人の申請フローを見てみましょう。引き続き、大規模法人部門と中小規模法人部門に分けて解説します。
2023年 大規模法人部門・ホワイト500の申請フロー
申請を行うためには、まず、上記の条件を満たすとともに、健康経営度調査に参加する必要があります。申請の流れは以下のとおりです。
1:「ACTION!健康経営」ポータルサイトの申請申込ページを閲覧
2:「健康経営調査票」をダウンロード
3:「健康経営度調査」に回答の上アップロード
4:審査・審議
5:日本健康会議が「健康経営優良法人」を認定
健康経営度調査 回答期間 |
2022年8月22日(月)〜2022年10月14日(金)17時 締切 |
---|---|
選定・認定時期 |
2023年2~3月頃(予定) |
【健康経営優良法人 大規模法人部門 認定フロー】
大規模法人部門 認定フロー
出典:「ACTION!健康経営」を参考に作成
2023年 中小規模法人部門・ブライト500の認定フロー
中規模法人部門では「健康宣言事業」に参加することが前提となります。具体的な健康経営優良法人中小規模法人部門認定申請の流れは以下のとおりです。
1:加入している保険者(※)が実施している健康宣言事業に参加
2:「ACTION!健康経営」ポータルサイトの申請申込ページを閲覧
3:「健康経営優良法人認定申請書」をダウンロード
4:「健康経営優良法人認定申請書」に回答の上アップロード
5:審査・審議
6:日本健康会議が「健康経営優良法人」を認定
※保険者=協会けんぽ・健康保険組合連合会・国保組合等
健康経営度調査 回答期間 |
2022年8月22日(月)〜2022年10月21日(金)17時 締切 |
---|---|
選定・認定時期 |
2023年2~3月頃(予定) |
【健康経営優良法人 中小規模法人部門 認定フロー】
中小規模法人部門 認定フロー
出典:「ACTION!健康経営」を参考に作成
健康経営の効果
健康経営の施策には健康診断の受診を促すことや禁煙率を高めことなど、さまざまな施策があります。企業は次のような効果を得ることが期待できます。
アブセンティーズム・プレゼンティーズムといった損失の軽減
従業員が会社を病欠・病気休業している状態をさす「アブセンティーズム」や、出勤はしているものの、何らかの健康問題によって業務能率が落ちている状態をさす「プレゼンティーズム」などは、業務効率生産性を低下させる損失(コスト)と捉えることができます。健康経営によって、従業員の健康状態の改善、もしくは、より健康が促進されることにより、損失の軽減が期待できます。
ワークエンゲージメントの向上
健康に配慮した働き方や働く場を提供することによるワークエンゲージメントの向上も見込めます。すでに働いている従業員だけでなく、求職者へのアピールにもなることでしょう。
こうした生産性や業務の質を高める効果は、結果的に企業業績や企業価値向上にもつながると考えられています。
健康経営優良法人 2022年選定企業の成功事例
2022年度に健康経営優良法人に選定された企業の成功事例を、中小規模法人部門と大規模法人部門に分けて紹介しましょう。
中小規模法人部門の事例紹介
まずは、中小規模法人部門として、中小企業の成功事例を3つ紹介します。
1:メンタルヘルス改善、高ストレス者予備軍を発見し予防/株式会社新井精密
ストレスチェックを健康経営により役立てる施策を実行しました。具体的には、高ストレス者だけでなく高ストレス者になる可能性がある従業員(準高ストレス者)に対しても面談などの措置を行うなど、発生予防・早期発見の取り組みを実施。面談を行った高ストレス者・準高ストレス者のうち、67%がフォローアップ後の面談で良化したそうです。
2:就業中にフィットネスタイムを設けて不調改善、テレワークによる不調増加を察知し早急な対策を講じた/株式会社エイジェントヴィレッジ
自社を「長く安心して働ける会社にしたい」との思いからはじまった健康経営。テレワークの推進と比例して、肩こり・頭痛・眼精疲労に悩む社員が増加したことが課題として挙がっていました。そのため朝礼時のストレッチタイムや、ウェルネスタイムとして15時から15分間テレワーク中のフィットネスを実施するなど日々の業務のなかで改善を図りました。また運動習慣の定着のために、ウォーキングイベントも開催。症状が改善したと答える従業員が増えました。
3:会社負担で腫瘍マーカー検査、顕在化しにくい女性の健康問題に着目して健診・健康セミナーを実施/株式会社エヌ・ケーエンジニアリング
社員の健康づくりを推進していた同社は、社内で婦人科検診や健康関連セミナーなどの提供や実施、参加補助を行って欲しいという声が上がっていることを知りました。そのため会社負担で、卵巣がん・子宮がんの腫瘍マーカー検査を実施、また婦人科検診の受診を希望する従業員は勤務時間内に受診できるようにするなど対応しました。
社内での評判も良く、会社への今後の要望、職場環境改善への意見も多く集まったため、今後も取り組みを継続していくこととしました。
大規模法人部門の事例紹介
続いて、大規模法人部門より、大企業の事例を見てみましょう。
1:経営哲学である「人間尊重の経営」に基づいた取り組みの実践/東洋インキグループ
2017年の初認定以降6年連続で認定されています。「人間尊重の経営」の経営哲学に基づいた考えから、社員一人ひとりが最大限に活躍できる環境を整備していくことを重要視しています。産学連携で実施した「睡眠改善プログラム」では、参加者一人ひとりが抱える睡眠課題を可視化するプログラムを実施。睡眠習慣改善で社員のエンゲージメント・生産性向上を目指したのです。
2:各部署との連携や事業所間の共有を強化/株式会社ファミリーマート
健康リスクの高い層に対して、「治療」や「(治療等との)両立支援」を手厚く行っています。また健康リスクが高くない層に対しても、毎月の健康ニュース発行、毎日のトレーニング動画配信など、健康促進のために有益な情報を多数提供しています。
また、産業医・保健師、人事部、労働組合、健康保険組合による密な情報連携を実現。さらに、各事業所別に毎月安全衛生委員会を開催することによる情報や課題の共有も確実に行っています。強固な管理体制を敷くことにより、健康経営の効果が全社員に及ぶようにしています。
3:活き活きと働くことのできる職場環境と健康風土づくりを目指す/日本碍子株式会社(日本ガイシ)
長時間労働を削減するために「残業時間の社内上限引き下げ」、「連続7日勤務や週2回のリフレッシュデーにおける残業を原則禁止」、「深夜勤務を行う場合は10時間以上のインターバル時間を設ける」など、具体的な取り組みを実践しています。また長時間労働者には産業医による面談と健康診断を継続的に実施するなどのフォローを行っています。
その他にも、「全従業員を対象とした従業員のストレスチェックの実施と分析」、「必要に応じた研修プログラム」、「若手や基幹職など階層別のメンタルケア教育」などを実施。良質な職場環境を維持・改善するための取り組みを積極的に行っています。
まとめ:健康経営の効果を知って自社の経営戦略に取り込もう
健康経営に取り組むことは、職場環境の改善につながるため、従業員満足度や従業員エンゲージメントの向上が見込まれます。さらに、アブセンティーズムやプレゼンティーズム軽減によって、従業員一人ひとりのパフォーマンス向上も実現できるでしょう。投資家や求職者など対外的な信用の向上の効果も見逃せません。直ぐに効果が出るとはかぎりませんが、長期的な視野でメリットを享受していきましょう。
追記:健康経営優良法人と転職市場での優位性
健康経営優良法人については、従業員の健康を考える企業である可能性が高いため、特徴のひとつとして転職サイトなどでもまとめて検索できるようになっているところがあります。
一例としてマイナビ転職では、100社を超える健康経営優良法人の求人中の企業に目印(フラグ)がつけられ、働く環境が良い企業を探している求職者に見つけやすくなっています。
【参考転職サイト】 |
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【プロフィール】 横山 晴美(よこやま・はるみ) ライフプラン応援事務所代表 AFP FP2級技能士 2013 年に FP として独立。一貫して個人の「家計」と向き合う。 お金の不安を抱える人が主体的にライフプランを設計できるよう、住宅や保険などお金の知識を広く伝える情報サイトを立ち上げる。またライフプランの一環として教育制度や働き方関連法など広く知見を持つ。 |