ワークシェアリングとは?多様な働き方の導入と助成金について解説
働き方改革を促進するとしてワークシェアリングが注目です。ワークシェアリングの概要から勤務形態、メリット・デメリット、導入のステップ、助成金まで詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.ワークシェアリングとは?従業員の負担を減らし雇用を生む制度を解説
- 2.一人あたりの労働時間を削減し、新たな雇用を生み出すワークシェアリング
- 3.企業間での人員の共有をサポートする出向支援
- 4.ワークシェアリングが注目される理由
- 5.大きく4つのタイプに分類できるワークシェアリング
- 5.1.雇用維持型(緊急避難型)
- 5.1.1.・従業員との信頼関係を維持できる
- 5.1.2.・状況が改善した場合、すぐに対応できる
- 5.2.雇用維持型(中高年対策型)
- 5.3.雇用創出型
- 5.4.多様就業促進型
- 6.ワークシェアリングのメリット
- 6.1.企業側のメリット
- 6.1.1.・労働環境が改善され、生産性が向上する
- 6.1.2.・従業員満足度が向上する
- 6.1.3.・企業イメージが向上する
- 6.1.4.・生産性が向上する
- 6.1.5.・多様な人材を確保できる
- 6.2.従業員側のメリット
- 6.2.1.・雇用が維持される
- 6.2.2.・ワークライフバランスが保てる
- 6.2.3.・モチベーションがアップする
- 7.ワークシェアリングのデメリット
- 7.1.企業側のデメリット
- 7.1.1.・制度の実施までに時間がかかる
- 7.1.2.・給与計算に手間がかかる
- 7.1.3.・一部のコストがかさむ
- 7.2.従業員側のデメリット
- 7.2.1.・収入が減る
- 7.2.2.・職種間の格差が生まれる
- 8.ワークシェアリング導入のステップ
- 8.1.1.現状を把握する
- 8.1.1.<現状把握のポイント>
- 8.2.2.ワークシェアリングできる業務を洗い出す
- 8.3.3.運用方法と運用体制を決定する
- 8.3.1.<運用方法と運用体制における検討事項>
- 8.4.4.従業員に説明する
- 8.5.5.達成度を見極め、PDCAを回す
- 9.ワークシェアリングで利用できる助成金
- 9.1.雇用調整助成金
- 9.2.労働移動支援助成金
- 9.3.人材開発支援助成金(旧キャリア形成促進助成金)
- 9.4.働き方改革推進支援助成金
- 9.4.1.<時間外労働等改善助成金の対象となる取り組み>
- 10.ワークシェアリングの仕組みを活用して、従業員を守ろう
ワークシェアリングとは?従業員の負担を減らし雇用を生む制度を解説
働く意欲のあるすべての人にとって働きやすい社会を作る「働き方改革」の実現に向けて、前例や慣習にとらわれない多様な働き方の導入を模索する企業が増えています。今回ご紹介する「ワークシェアリング」も、そのひとつです。
複数人で業務をシェアするワークシェアリングは、働き方改革を促進するアイディアとして注目されています。ワークシェアリングとはどのような働き方なのか。ワークシェアリングの概要から勤務形態の種類、メリット・デメリット、導入のステップ、活用できる助成金まで詳しく解説します。
一人あたりの労働時間を削減し、新たな雇用を生み出すワークシェアリング
ワークシェアリングとは、これまで一人が担当していたタスクを複数人で分担し、一人あたりの労働時間を削減するとともに、新たな雇用を生み出す仕組みです。日本語では、「仕事の分かち合い」と訳されることもあります。
現場の管轄者は、一人ひとりの能力や抱えている業務量を推測して仕事を割り振りますが、完全に平等な分担を実現するのは容易ではありません。優秀で仕事のできる人、理解が早く作業が迅速な人、マルチタスクをこなせる能力のある人、頼まれると断れない人にはどうしても仕事が集中し、判断の遅い人やミスの多い人の仕事量は減る傾向があります。
こうした状態を放置していると、仕事を多く任された人は業務時間内に業務を完遂することができなくなり、時間外労働を余儀なくされます。結果として、業務効率の低下やミスを誘発する可能性が生まれ、肉体的・精神的な不調をきたすリスクも高まります。
ワークシェアリングは、このように一部の人に負担が集中することがないよう、仕事のある人と仕事のない人とのバランスをとり、労働者の心身の健康維持と雇用の創出、生産性の向上を実現しようとする考え方です。同じような考え方にもとづく働き方としては、「在籍型出向」も挙げられます。
企業間での人員の共有をサポートする出向支援
ワークシェアリングが一人のタスクを複数人で共有する仕組みであるのに対して、出向支援は「在籍型出向」と呼ばれる仕組みで、企業間での人員の共有をサポートするサービスです。
雇用過剰の状態にある企業から人手不足に悩む企業に人員を出向させることによって、従業員の雇用を守りつつ人件費を抑えることができます。在籍型出向は、出向中も出向元との雇用関係が維持されるため、優秀な従業員を手放さずに済むのも大きなメリットです。
また、出向の対象となるのは、出向元が「何としても雇用を守りたい」「自社の状況が改善されたら、また戻ってきてほしい」と考えている優秀な従業員です。そのため、出向先企業は、即戦力として活躍ができる頼もしい人材を、コストを抑えながら採用することができます。
用語集で見る:在籍型出向 |
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ワークシェアリングが注目される理由
ワークシェアリングの発祥は欧米であり、90年代の不況期にドイツのフォルクスワーゲン社が導入したモデルケースが注目を集めたきっかけだといわれています。経営側が発表した大幅なリストラ案に対して労働組合が提案したもので、一人あたりの労働時間を短縮し、賃金を80%までカットすることで雇用を継続することに成功しました。
ドイツの例よりも前に、ワークシェアリングの推進に成功したのはオランダです。オランダは、1982年に政労使で締結された「ワッセナー合意」にもとづいてワークシェアリングを推進。正社員とほぼ同じ待遇のパートタイマーを増やすことで女性や高齢者の積極的な社会参加を促す取り組みが進み、失業者が激減した実績があります。
日本でも、失業率がアップして雇用情勢が悪化した2002年頃からワークシェアリングが注目されるようになりました。その状況を受けて開催された政労使による検討会議は、ワークシェアリングの取り組みにおける基本的な考え方を策定。「緊急対応型」と「多様就業型」に分けて取り組むべき課題を挙げ、国全体でワークシェアリングを推進する方針を提示しました。
それから20年、ハードワークで心身が疲弊し、生命の危機に瀕する人がいる一方、仕事がないことや貧困に苦しむ人もいる現状を背景として、再びワークシェアリングへの注目が高まっています。
【参照】厚生労働省政策統括官付労働政策担当参事官室「ワークシェアリング導入促進に関する秘訣集」|厚生労働省(2004年6月)
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/06/h0630-2a.html
大きく4つのタイプに分類できるワークシェアリング
ワークシェアリングは、適用されるシーンや目的によって、大きく4つのタイプに分類できます。
ここからは、基本的なワークシェアリングのタイプである「雇用維持型(緊急避難型)」「雇用維持型(中高年対策型)」「雇用創出型」「多様就業促進型」について、それぞれどのような目的にもとづいているのかを解説します。
雇用維持型(緊急避難型)
雇用維持型は、ワークシェアリングが生まれる契機となった欧米の不況時や、国内で最初にワークシェアリングの気運が高まったときのように、緊急避難的な措置として行われるものです。
例えば、コロナ禍などによる思わぬ社会情勢の変化や、急激な景況の悪化などによって、一時的に余剰人員が発生した場合などがこれに該当します。従業員を解雇して人件費を削減するリストラを行わず、従業員一人あたりの労働時間を短縮して雇用を維持することで、下記のような効果が得られます。
・従業員との信頼関係を維持できる
経営が厳しい状態にあっても、なんとか従業員の生活を守ろうと雇用維持型を選択した企業に対して、従業員のエンゲージメントは高まります。従業員は企業にいっそう貢献したいと考えるようになるため、生産性のアップも期待できるでしょう。
・状況が改善した場合、すぐに対応できる
リストラをしてしまうと、急に仕事量が増えたときに企業は人員不足で対応ができません。その際は、ゼロから戦力となる人材を探して採用する必要があり、時間と手間、採用コストがかかります。
その点、緊急避難型ワークシェアリングで雇用を維持しておけば、仕事に慣れた優秀な人材をすぐに復帰させることができます。
雇用維持型(中高年対策型)
仕事に対するモチベーションは高くても、長時間労働への対応が難しくなる中高年層の雇用を維持するため、一人あたりの労働時間を短縮するのが雇用維持型(中高年対策型)のワークシェアリングです。
この場合の中高年とは、主として定年後の層を指し、定年延長や再雇用といった雇用延長の取り組みが行われています。
中高年の雇用延長は、企業と従業員、それぞれにどのような好影響を与えるのでしょうか。
企業側にとっては、人材獲得競争が激化する中、経験と知識が豊富なベテラン人材を失わずに済みます。短い労働時間、少ない勤務日数であっても、後進の指導を含めて業務を一任できる人材がいることは大きな安心材料です。
従業員側にとっては、活躍の場が与えられることによって生きがいを失わずに済むこと、老後の生活の糧となる収入を維持できることが挙げられます。
雇用創出型
雇用創出型は、既存従業員の雇用維持ではなく、新たな雇用の創出にフォーカスしたワークシェアリングのタイプです。既存従業員の労働時間を短縮することで人的リソースが足りなくなった業務に、新たに採用した人材を着任させ、雇用機会を増やします。
休職者の業務を複数人のパートタイマーや短時間労働者で分け合い、休職者の雇用を維持しながら新しい雇用を生み出す方法も雇用創出型に該当します。
多様就業促進型
「介護と両立できない」「一人で育児をしているため、フルタイムの勤務が難しい」といった理由で、働きたい気持ちはありながら仕事を手放す人は少なくありません。多様就業促進型は、子育て中の人、親族の介護が必要な人、高齢で長時間勤務が難しい人などが働き方を選べるよう、勤務形態を多様化することでワークシェアリングを目指すものです。企業は有能な人材の確保や、退職・流出を防止でき、さらには企業のイメージアップも期待できます。
勤務形態はフルタイム勤務のほかに、下記のような働き方の導入が考えられます。
・時短勤務
時短勤務は、1日の所定労働時間を短縮できる制度です。通常は9時から18時までの勤務のところ、保育園の送迎に合わせて10時から17時で勤務するなどの働き方ができます。育児・介護休業法によって、企業には時短勤務制度の導入が義務付けられており、3歳未満の子供を育てる従業員で一定の条件を満たしていればこの勤務形態を選ぶことができます。
時短勤務のワークシェアリングを導入すれば、労働時間の短縮を望んでいる従業員の退職・流出を防ぐだけでなく、従業員の疲労が軽減されることによるモチベーション向上や、生産性の向上も期待できます。
・パータタイム
パートタイム労働法では、パートタイマーを「1週間の所定労働時間が、同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」と定義しています。勤務日数や勤務時間に融通がききやすく、プライベートと両立しやすい働き方です。
企業に求められる生産量が急激に変動した際は、ワークシェアリングとしてパートタイマーを複数人雇用し、仕事量を複数の労働者間で分けることができます。
・テレワーク
テレワークは、ICTを活用することによって、オフィス以外の場所で時間や場所にとらわれることなく働ける勤務形態です。コロナ禍により、急速に普及している働き方ですが、上司や同僚とのコミュニケーションが大幅に減ることで孤立感を抱く従業員が増える可能性もあります。その際、ワークシェアリングによって業務を個人専任ではなく、チーム制で遂行するようにすれば、安心感や働く楽しさを従業員に与えることができます。
・フレックスタイム
あらかじめ定めた一定期間内の総労働時間の中で、労働者自身が始業・終業の時刻を決定できるのがフレックスタイム制です。フレックスタイム制のような多様性のある働き方を推進すれば、育児や介護などでフルタイム勤務が難しい人なども含めて、さまざまな人材を確保することができます。また、多様性のある働き方がある企業として、企業のイメージアップも期待できるでしょう。
上記のような働き方の導入は、有能な人材の離職防止につながることが期待されており、産後の女性や育児休暇を取得した男性が昇進・昇格のコースから外れてしまう「マミートラック」「パピートラック」の対策としても有効です。
【参照】厚生労働省「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」|厚生労働省(2001年4月)
https://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0426-4.html
【参照】厚生労働省「パートタイム労働者とは」|厚生労働省(2007年6月)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2007/06/tp0605-1e.html
ワークシェアリングのメリット
ワークシェアリングを導入すると、企業側にも、従業員側にもメリットがあります。それぞれ具体的にどのようなメリットが生まれるのか見ていきましょう。
企業側のメリット
ワークシェアリングで得られる企業側のメリットは、下記の5つです。いずれも企業に有益な状況をもたらします。
・労働環境が改善され、生産性が向上する
ワークシェアリングを導入すると、従業員数が増えて一人あたりの業務量が減り、長時間労働や許容範囲を超えたマルチタスクなどが改善されます。ハードワークに翻弄されていた従業員の負担が減り、心身の健康を守ることができるでしょう。
・従業員満足度が向上する
ワークシェアリングの導入は、たとえ経営状況が悪化しても従業員の雇用は守るという企業の決意の表れでもあります。
景気が不安定な状態で推移する中、従業員の中には「経営が危うくなったらリストラされるのではないか」「いつ辞めさせられてもおかしくない」といった不安にさいなまれている人もいるはずです。企業に従業員を守る意思があることが伝われば、従業員は安心して働くことができ、エンゲージメントがアップして離職率の低下、貢献度の向上などにつながります。
・企業イメージが向上する
グローバル化が進む中で競争力を高めるため、多様な人材を雇用してその能力を最大限に活かすダイバーシティが企業に求められています。ワークシェアリングを取り入れ、多様な働き方を認めることで、「ダイバーシティに積極的に取り組んでいる企業」として対外的な評価が高まることもあるでしょう。
また、「景気が悪くなっても従業員を守る意思がある企業」というプラスのイメージがつき、企業価値の向上も見込めます。
・生産性が向上する
ワークシェアリングでタスクのムラがなくなると、これまで一人で多様な業務を担っていた従業員が、「本来やるべき仕事」「得意な仕事」に集中できるようになります。これにより、全体の生産性の向上、業務の質の向上が図れます。
・多様な人材を確保できる
多様な働き方を導入することで、就業日数や就業時間がネックで働けずにいた優秀な人材を獲得することもできます。フレキシブルに働ける従業員が増え、繁忙期や閑散期への対応がしやすくなることもメリットのひとつ。ただし、雇用人数によっては、人件費の総額がワークシェアリング導入以前よりも高くなる可能性がある点には注意が必要です。
従業員側のメリット
ワークシェアリングは、従業員側にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、3つのメリットをご紹介します。
・雇用が維持される
企業の経営が危うくなった際、たとえ労働時間が短くなっても働く場所を失わずに済むことは、従業員にとって最大のメリットです。
・ワークライフバランスが保てる
従来、育児や介護の問題に直面した人は、「仕事か、プライベートか」の二者択一を迫られるのが一般的でした。しかし、ワークシェアリングを導入している企業であれば、空いた時間をプライベートにあて、ワークライバランスを維持することができます。
・モチベーションがアップする
ワークシェアリングで負担が減ると、気持ちに余裕ができて前向きな気持ちで仕事に取り組めるようになります。プライベートな事情で好きな仕事をあきらめていた人なども、働く喜びを享受でき、モチベーションが向上します。
ワークシェアリングのデメリット
ワークシェアリングには、多様なメリットの一方でデメリットも存在します。デメリットもしっかり理解した上で導入することが、仕組みを定着させるコツです。
ここでは、ワークシェアリングのデメリットについて、企業側と従業員側に分けて見ていきましょう。
企業側のデメリット
企業側のデメリットは、大きく下記の3つです。ワークシェアリングの導入は、タスクやコストの増大が起こる可能性があります。
・制度の実施までに時間がかかる
ワークシェアリングの導入は、単に労働時間を短くし、雇用を増やせば良いわけではありません。短時間勤務制度など、すでに導入されている制度がある場合、その適用対象や適用条件が平等になるように制度そのものの枠組みを見直す必要があります。また、新たに業務を担当する従業員に対して、業務の引き継ぎや研修なども行わなくてはなりません。
「ワークシェアリングをやろう!」と思い立ってから実行できるまでには時間がかかることを踏まえて、計画的に導入を進めていくことが重要です。
・給与計算に手間がかかる
ワークシェアリング導入後は、従業員全員が一律の働き方ではなくなるため、給与計算に手間がかかります。単純に従業員数が増えることも、経理担当者にとっては大きな負担になるでしょう。
・一部のコストがかさむ
雇用する従業員が増えるということは、社会保険料や福利厚生費といった企業の負担が増えるということです。また、社員教育にかかる費用もかさむでしょう。
こうしたコストの増大は、従業員が増えることの大きなデメリットだといえます。
従業員側のデメリット
続いて、従業員側のデメリットを紹介します。ワークシェアリングの導入は、収入減や職種間格差が発生する可能性があります。
・収入が減る
ワークシェアリングで労働時間が減れば、労働時間に応じて支払われる給与額も必然的に削られます。これは、より多く稼ぎたい人にとっては大きなデメリットになるでしょう。収入が減少した分、研修を実施したり、副業を許可したりすることで、従業員の不満解消に努める企業もあります。
・職種間の格差が生まれる
ワークシェアリングは、その仕組み上、適用できない職種も存在します。社内に「適用できる職種」と「適用できない職種」が混在している場合、適用できる職種のみを対象とすることで賃金や待遇に格差が生まれる可能性があります。
ワークシェアリング導入のステップ
メリット・デメリットを把握したところで、ワークシェアリングの具体的な導入ステップをチェックしましょう。ワークシェアリング導入のステップは、下記の5つに分けられます。
1.現状を把握する
ワークシェアリングの取り組みを進める前に、まずは自社の業務の状況を把握しましょう。下記のような点を確認しておくことをおすすめします。
<現状把握のポイント>
- どんな業務があるのか
- 1つの業務に何人が関わっているか
- 1つの業務にかかる時間とコストはどれくらいか
- 業務が一人に集中している部署はないか、またその理由は何か
- 一人に集中している業務を切り分けることができるか
2.ワークシェアリングできる業務を洗い出す
確認した業務のうち、ワークシェアリングできる業務を洗い出します。併せて、慣習的に継続しているけれども実質的に不要な業務や、コストを削減できそうな業務、効率化できそうな業務など、ムダも見つけておくと業務改善に役立ちます。
3.運用方法と運用体制を決定する
続いては、ワークシェアリングを運用する方法と、運用体制を決定します。具体的には、下記のような事項を取り決めていきます。
<運用方法と運用体制における検討事項>
- 責任者を誰にするか
- どの仕事を、何人で、どのように分担するか
- 福利厚生や教育制度など、変更になる点
運用方法と運用体制の決定については、経営者、従業員同士でよく話し合った上で制度化し、マニュアルを作りましょう。
4.従業員に説明する
制度の定着には、実際にワークシェアリングを行う従業員の理解が不可欠です。ワークシェアリングを導入する理由や、導入後に得られるメリット、考えられるデメリットと対策、従業員にやってほしいことなどを丁寧に説明し、納得してもらいましょう。
5.達成度を見極め、PDCAを回す
ワークシェアリングを導入したら、しっかりと効果も見極めましょう。見るべきポイントは、導入の目的を達成できているかどうかと、ワークシェアリングによって企業の業績が向上しているかどうかです。
もし期待する成果が得られていなければ、ボトルネックを見つけてすみやかに改善を図ってください。一定の成果が出ている場合は成功要因を明らかにし、さらなるブラッシュアップを図ります。
ワークシェアリングで利用できる助成金
ワークシェアリングを導入する場合、雇用の維持・創出や教育訓練等を促進するための公的な助成金や給付金等の活用が可能です。
ワークシェアリングに興味はあっても、新たに人材を雇用するコストや教育にかかるコストが不安でなかなか手が出せない…という企業は、助成金についても確認してみてはいかがでしょうか。
雇用調整助成金
雇用調整助成金は、景気の変動などによる経済上の理由で事業活動を縮小せざるをえない事業者が、休業や出向で雇用の維持を図る場合に支給される助成金です。教育訓練を実施した場合、教育訓練費が加算されます。
なお、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を鑑み、雇用保険被保険者以外の労働者にも対象を拡大するなどしていた特例措置は2023年3月31日をもって終了し、通常の雇用調整助成金制度が継続されています。
【参照】厚生労働省「雇用調整助成金」|厚生労働省(2024年1月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_20200515.html
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労働移動支援助成金
労働移動支援助成金は、事業規模の縮小などが原因で離職する従業員に対して、再就職支援をする企業と、受け入れを行う企業の双方に支給される助成金です。労働移動支援助成金には2つの助成内容があるため、それぞれの内容を確認しましょう。
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再就職支援コース
再就職支援のための計画を作成し、従業員の再就職を専門とする職業紹介事業者(都道府県労務局に「雇用関係助成金の取扱いに係る同意書」を提出している企業)に委託した場合と、求職活動のための休暇を従業員に与えた場合に支給されます。
【参照】厚生労働省「労働移動支援助成金(再就職支援コース)」|厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21924.html
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早期雇入れ支援コース
再就職支援計画の対象者が離職してから、3ヵ月以内に自社に雇用した場合、支給されるのが受入れ人材育成支援奨励金です。再就職支援計画対象者、移籍者、在籍型出向からの移籍者を受け入れて訓練した場合にも支給されます。
【参照】厚生労働省「労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)」|厚生労働https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082805.html
人材開発支援助成金(旧キャリア形成促進助成金)
人材開発支援助成金は、雇用する従業員に対して計画に沿って職業訓練などを行った場合に、かかった経費や訓練中の賃金の一部が助成される制度です。この助成金は、7つのコースに分かれています。
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人材育成支援コース
人材育成支援コースは、従来の特定訓練コース・一般訓練コース・特別育成訓練コースを統合したコースです。職務に関連した知識や技能の習得を目的としたOFF-JTを10時間以上行った場合や、中核人材の育成や有期契約労働者等の正社員転換に向けてOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練を行った場合に支給されます。
【参照】厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内」|厚生労働省(2023年6月)https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001174260.pdf
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教育訓練休暇付与コース
教育訓練休暇付与コースは、従業員が社外で行われているセミナーや勉強会などに参加できるよう、休暇を与えた場合に助成金が支給されます。また、教育訓練等を受けるために従業員の所定労働時間の短縮や、所定外労働時間の免除などを行った場合も支給の対象となります。
人への投資促進コース
人への投資促進コースは、ITやデジタル分野での人材育成を目的として発生する経費や賃金などに対して助成金が支給されるコースです。
【参照】厚生労働省「人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇等付与コース、特別育成訓練コース、人への投資促進コース)」|厚生労働省(2022年5月)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
【参照】厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース)のご案内(詳細版)」厚生労働省|(2023年6月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001174262.pdf
【参照】厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「人材開発支援助成金人への投資促進コースのご案内(詳細版)」|厚生労働省(2023年6月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001174264.pdf-
事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースは、新たな事業展開に伴う人材育成、デジタル・グリーン化に適した人材育成のいずれかに取り組む事業主に対して、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を支援します。
【参照】厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」|厚生労働省(2023年6月)https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001174266.pdf
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建設労働者認定訓練コース
建設労働者認定訓練コースは、雇用する建設労働者に対し、職業能力開発促進法による認定訓練を有給で受講させた場合に支給されます。
建設労働者技能実習コース
建設労働者技能実習コースは、雇用する建設労働者に対し、技能の向上のための実習を有給で受講させた建設事業主または建設事業主団体に支給されます。中小企業か否かで助成額は異なります。
【参照】愛知労働局「人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース、建設労働者技能実習コース)について」|厚生労働省
https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/_121796/_120129/_120163/_120175.html-
障害者職業能力開発コース
障害者の業務に必要な能力を継続的に開発・向上させるために、教育訓練施設を設置・運営する事業主や事業団体に対する助成金です。
【参照】厚生労働省「人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)」|厚生労働省(2023年6月)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/shougai_trial_00002.html
働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金は、中小企業に対する時間外労働の規制強化に伴い、生産性の向上、時間外労働の削減、年次有給休暇や特別休暇の取得促進に取り組んだり、必要な設備を導入したりした企業に支給されます。
支給対象は中小企業事業主で、成果目標として提示されている取り組みから1つ以上選択して実践します。例えば、下記のような取り組みが対象です。
<時間外労働等改善助成金の対象となる取り組み>
- 年次有給休暇の計画的付与の規定を導入
- 時間単位の年次有給休暇の規定を導入
- 特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇)の規定を1つ以上導入
【参照】厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」|厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html
ワークシェアリングの仕組みを活用して、従業員を守ろう
1つの業務を複数人でシェアすることで労働環境を改善し、雇用を生み出すワークシェアリングは、健康経営の観点からも積極的に検討したい仕組みです。一部の人に業務が集中しているなら仕事をシェアする「ワークシェアリング」を、大切な従業員のを守るなら人員をシェアする「在籍型出向」を用いてみてはいかがでしょうか。
健康経営とは、「人という資源を資本化し、企業が成長することで、社会の発展に寄与する」ことです。ぜひ、ワークシェアリングや在籍型出向を活用して、大切な従業員の心身の健康を守っていってください。在籍型出向について興味のある場合は、お気軽にお問い合わせください。
ワークシェアリングの実践にマイナビ出向支援
ご相談は1名さまからでも可能です。出向実施に向けたご相談から、出向トレンドに関する情報収集、今後の⼈事施策に向けたご相談も歓迎です。個別にヒアリングをした上で、貴社の⼈事戦略に基づいた最適なマッチングをご提案させていただきます。
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