國貞克則先生に聞く「決算書の読み方 初心者向け」全6回(2) 損益計算書(PL)とは
文/國貞克則 |
会計の初心者でも決算書を読み解けるようになる
連載の第1回で、会計の全体像を理解していただきました。第2回から第4回は、財務3表の構造をそれぞれ簡単に説明していきます。
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まずは損益計算書(PL)からです。英語ではProfit and Loss Statementと言います。企業のProfit(利益)とLoss(損失)を計算するStatement(計算書)という意味です。日本語では「損益計算書」と言いますが、これは英語のPLを日本語に直しただけですね。企業の損失と利益を計算する計算書なのです。
PLにはいろんな文字や数字が並んでいますが、会計の初心者の人は、「PLには5つの種類の利益がある」ということだけわかればいいと思います。
私は39歳のときにサラリーマンを辞めて独立しました。独立して最初に始めた商売は、「竹とんぼ屋」という屋号で子供向けに竹とんぼ商材を販売するという小売業でした。今回は、会計的には一番シンプルな小売業(竹とんぼ屋)を例にとってPLを説明していきましょう。図表2-1を使って上から順番に説明していきます。
図2-1 PLの構造
PL(損益計算書)の構造について小売業を例に解説
売上総利益
売上原価の下にあるのが、5つの種類の利益の一番目の利益である「売上総利益」です。これは、売上高から売上原価を引いたものです。現場では、この売上総利益のことを「粗利(あらり)」と呼んでいると思います。「粗利」と言われたら、会計の5つの利益の中の1番目にくる「売上総利益」のことだと覚えておいてください。
売上総利益の下には「販売費及び一般管理費」がきます。現場では「販管費」と縮めて呼んでいる場合が多いと思います。これは、この小売業(竹とんぼ屋)の本業の営業活動に関わるすべての費用がここに入ります。営業マンの人件費、交通費、通信費、また会社が大きくなって、総務や経理といった本社部門ができれば、そこで働く人たちの人件費などもすべてこの販売費及び一般管理費に入ります(ただし、製造業の場合、工場で働く工員さんの給料などは売上原価に入れるという会計の決まりになっています)。
営業利益
販売費及び一般管理費の下にくるのが、2番目の利益である「営業利益」です。これは売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いて計算します。
日頃からPLを見ていない人がわからなくなるのは、この営業利益より下のところです。ただ、会計はロジックが一貫していますので、上から下へと順番に論理的に考えていけばスッキリと整理できます。
営業利益とは、読んで字のごとく、本業の営業活動によってもたらされる利益のことです。では、営業利益の下には何がくるでしょうか。営業利益の下には「営業外収益」「営業外費用」がきます。営業外とは本業の営業活動の外という意味です。
例えば、この小売業(竹とんぼ屋)が金融機関に預貯金していたとします。そうすると会社は金融機関から利息を受け取ります。この受取利息は営業活動による収益ではなく、会計的には預貯金という財務活動による収益となり、営業外収益に入れられるのです。逆に借金をしていれば、この会社は借金の利息を金融機関に支払う必要があります。これは営業活動に伴う費用ではなく、借金という財務活動に伴う費用なので、「支払利息」として会計的には営業外費用に入れられます。
経常利益
営業利益に営業外収益と営業外費用を足し引きしたものが、3番目の利益である「経常利益」です。これも読んで字のごとく、本業及び本業以外のすべての事業活動によって常日頃、経常的にもたらされる利益が経常利益です。
では、経常利益の下には何がくるのでしょうか。常日頃、経常ではない「特別利益」「特別損失」です。「特別」とは、その事業年度だけに特別に出てくるという意味です。例えば、この会社が土地を持っており、それが高値で売れて利益が出たとすれば、それが特別利益になります。また、会社の経営状況が不振で人員削減を行い、リストラ費用として割増退職金が計上されれば、これが特別損失になります。
税引前当期純利益
経常利益に特別利益と特別損失を足し引きすると、4番目の利益である「税引前当期純利益」になります。読んで字のごとく、税金を計上する前の当期の利益です。
当期純利益(当期利益・純利益・最終利益)
この税引前当期純利益から法人税などの税金を差し引いたものが、最後の5番目の利益である「当期純利益」です。決算ニュースなどで、「当期利益」「純利益」「最終利益」などと呼ばれているのがこの当期純利益です。
「PLには5つの種類の利益がある」と覚えてください。
PLの作成目的
これでPLの表の構造の説明は終了です。では、PLはそもそも何のために作るのでしょうか。PLの作成目的は何かということです。PLは、その期の「正しい利益」を計算するために作ります。それは、計算間違いをしなければ、正しくなるというような意味ではありません。
PLは1事業年度(通常1年)という人為的に区切られた期間の「正しい利益」を計算するために作られます。例えば、商品を販売する際に、販売する商品の代金はしばらく経ってから支払ってもらうという約束で商品を販売したとしましょう。それも、ある事業年度内に商品を販売したけれど、その代金はその事業年度内には支払われないような場合、その販売した商品は売上高に計上しておくべきでしょうか、それとも代金を支払ってもらってないのだから売上高には計上すべきではないのでしょうか。
PLはその事業年度の正しい営業活動を反映するために、お金を支払ってもらっていようがいまいが、その事業年度内に販売したらその事業年度内に売上として計上するのです。つまり、PLの売上や利益というものは、必ずしも現金の動きを表しているものではないのです。ここは会計の初心者がよく勘違いしやすいところなのでよく理解しておいてください。
PLは、売上から費用を引くと利益になるので、このPLのことを、収入から支出を引くと残高になる収支計算書と同じように思っている人がいます。しかし、これは大きな間違いです。PLは現金の動きを計算する表ではなく、ある事業年度(通常1年)の「正しい利益」を計算するための表なのです。
國貞克則(くにさだ・かつのり) ボナ・ヴィータ コーポレーション代表取締役 1961年岡山県生まれ。東北大学機械工学科卒業後、神戸製鋼所入社。海外プラント建設事業部、人事部、企画部、海外事業部を経て、1996年米国クレアモント大学ピーター・ドラッカー経営大学院でMBA取得。2001年ボナ・ヴィータ コーポレーションを設立。ドラッカー経営学の導入支援や会計研修が得意分野。著書は『財務3表一体理解法』(朝日新書)、『ドラッカーが教えてくれる「マネジメントの本質」』(日本経済新聞出版)など多数。訳書に『財務マネジメントの基本と原則』(東洋経済新報社)がある。 |