スキルアップ支援には助成金がある?産業雇用安定助成金の詳細を解説
組織の生産性向上や競争力の強化を実現する上では、従業員のスキルアップは欠かせない要素のひとつです。スキルアップした従業員のモチベーションが上がれば、組織へのロイヤルティ向上も期待できるでしょう。優秀な人材の採用や定着を図るためにも、スキルアップの機会提供は有効な手段であるといえます。
スキルアップ支援にはさまざまな方法があり、自社にない実践経験を通じて新たな知見が得られる「在籍出向」もそのひとつです。
本記事では、在籍出向で従業員のスキルアップを図る際に役立つ、「産業雇用安定助成金」について解説します。
目次[非表示]
- 1.スキルアップ支援で助成金を受給できる、産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)
- 2.3者にメリットのある在籍出向とは?
- 3.スキルアップ支援コースの対象となる在籍出向
- 4.スキルアップ支援コースの支給対象となる事業主および従業員の例
- 4.1.スキルアップ支援コースの支給対象となる出向元事業主
- 4.2.スキルアップ支援コースの支給対象となる出向先事業主
- 4.3.スキルアップ支援コースの支給対象となる従業員
- 4.4.スキルアップ支援コースの支給対象外となる事業主および従業員
- 5.スキルアップ支援コース受給までにやるべきこと
- 5.1.出向実施計画届に記載する出向期間を決める
- 5.2.自社へ復帰後の賃金を決める
- 5.3.スキルアップ支援コースで受給する金額を確認する
- 6.スキルアップ支援コース受給の手続き
- 7.スキルアップ支援コース受給にあたっての注意点
- 7.1.出向に必要な合意・同意をとる
- 7.2.出向実施計画届は、出向前に届け出る
- 7.3.支給申請時に必要な書類や資料は保存する
- 8.在籍出向による従業員のスキルアップ支援は、組織のさらなる成長に寄与します
スキルアップ支援で助成金を受給できる、産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)
産業雇用安定助成金は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で急務とされた雇用維持のため、2021年に施行された助成金です。
現在は、在籍出向で従業員の雇用の維持を図る出向元企業、および出向先企業の双方に助成金を支給するコロナ特例の「雇用維持支援コース」が廃止され、「事業再構築支援コース」「産業連携人材確保等支援コース」「スキルアップ支援コース」が機能しています。
今回ご紹介するスキルアップ支援コースは、在籍出向によって自社にない新たなスキルの習得を支援し、復帰後の賃金を出向前に比べて5%以上アップさせた出向元企業に対して出向中の費用の一部を助成するものです。
【参照】厚生労働省「産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)」|厚生労働省(2023年12月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/sankokinjigyou-saikouchiku.html
【参照】厚生労働省「産業雇用安定助成金(産業連携人材確保等支援コース)」|厚生労働省(2023年12月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/sankokinsangyourenkeijinzaikakuhotou_00001.html
【参照】厚生労働省「産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)」|厚生労働省(2023年12月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082805_00012.html
3者にメリットのある在籍出向とは?
在籍出向は、出向元企業である自社に籍を置いたまま、出向先企業で一定期間働く仕組みです。出向する従業員は、出向元・出向先の双方と雇用契約を結びます。
従業員が在籍出向をすると、自社での研修や実務では身に付かない新たなスキルや知見の習得が期待でき、企業の事業活動を効果的に促進させることができるでしょう。
また、出向元企業と出向先企業、出向する従業員の3者にメリットがあるのもポイントです。まずは、在籍出向は3者それぞれにどのようなメリットをもたらすのかをご紹介します。
「出向元企業」にとっての在籍出向のメリット
出向元企業にとっての在籍出向の大きなメリットは、優秀な人材が自社に帰ってくることを前提として、一時的に他社で経験を積んでもらえることです。
従業員が他社で働いているあいだも雇用契約が継続される在籍出向は、いわば長期の社外研修のような位置付けともいえます。期間を満了した従業員は出向元に戻り、出向先で得たスキルや知見、人とのつながりを活かして活躍してくれるでしょう。
「出向先企業」にとっての在籍出向のメリット
出向先企業にとっての在籍出向の大きなメリットは、採用活動のコストや労力をかけずに即戦力を獲得できることです。
優れた人材を迎え入れることで、組織の業務効率の向上や、既存の従業員の刺激となって職場が活性化することが期待できます。
「出向する従業員」にとっての在籍出向のメリット
出向する従業員にとってのメリットは、在籍出向の打診に応じて他社で働くことで、自社では得られない知識や技術が身に付くことです。
従業員が自社以外でしか身に付かない経験やスキルの習得を望む場合、通常は転職しか選択肢がありません。しかし、転職活動で必ず希望どおりの職場が見つかるとは限りませんし、入社後の仕事内容が期待していた内容と齟齬がある可能性もあります。現在の組織の雰囲気や賃金に一定の納得をしている場合は特に、転職に踏み切れない人が多いのではないでしょうか。
一方、在籍出向であれば、「戻る場所」がある状態で自社にない業務にチャレンジでき、新たな能力開発に励んだ成果を出向元のビジネスに還元できるはずです。
【おすすめ参考記事】
スキルアップ支援コースの対象となる在籍出向
産業雇用安定助成金のスキルアップ支援コースの助成金には、どのような要件があるのでしょうか。ここでは、スキルアップ支援コースの対象となる在籍出向の要件についてご紹介します。
従業員のスキルアップを目的としている
在籍出向の目的が、当該従業員のスキルアップであることは必須の要件です。事業縮小に伴う雇用調整を目的としている場合や、グループ会社・子会社への技術指導や交流を目的としている場合は支給されません。
出向した従業員は、出向期間終了後に自社へ戻ってくる
出向した従業員が、出向期間満了後に自社に戻って働くこともスキルアップ支援コースの要件のひとつです。また、従業員1人につき、出向期間は1ヵ月以上2年以内でなくてはなりません。
復帰後の賃金が出向前を上回る
出向からの復帰後は、出向前を5%上回る賃金設定で従業員を迎え入れることもスキルアップ支援コースの重要な要件です。
出向した従業員が、自社に復帰して初めての賃金支払い日以降6ヵ月間の各月の賃金については、出向前の5%以上になるよう設定する必要があります。
スキルアップ支援コースの支給対象となる事業主および従業員の例
スキルアップ支援コースの支給は、具体的にどのような事業主や従業員が対象となるのでしょうか。事業主および従業員に求められる要件を一部ご紹介します。
スキルアップ支援コースの支給対象となる出向元事業主
スキルアップ支援コースの支給を受けるにあたり、出向元には主に下記の要件を満たすことが求められます。
<出向元の要件例>
- 雇用保険適用事業所である
- 労働者のスキルアップにより企業活動の促進、雇用機会等の増大を目指している
- 対象労働者が出向復帰後は、6ヵ月以上継続的に雇用する
職業能力開発推進法第12条に規定する職業能力開発推進者を選任している
なお、職業能力開発推進者は、従業員のキャリア形成を支援するため、職業能力開発を計画的に企画・実行する取り組みを推進する責任者です。
【参照】厚生労働省「職業能力開発推進者」|厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/suisinnsya.html
スキルアップ支援コースの支給対象となる出向先事業主
スキルアップ支援コースの支給を受けるにあたっては、出向先事業主にも要件があります。出向先事業主に求められる主な要件は下記のとおりです。
<出向先の要件例>
- 出向元事業主とは独立した組織である
- 労働者派遣事業の適用除外業務(港湾運送や建設業、警備業、病院などでの医療関係の業務)をさせない
- 一定期間、自社で雇用する従業員に退職勧奨したり、解雇したりしていない
- ほかに同様の助成金を受けていない
スキルアップ支援コースの支給対象となる従業員
スキルアップ支援コースにおいて、従業員に求められるのは主に下記のような要件です。
<従業員の要件例>
- 「出向実施計画」に記載がある
- 出向開始日の前日時点での出向元企業の継続雇用(被保険者)期間が6ヵ月未満でない
- 解雇予告や退職勧奨をされておらず、退職願も出していない
【参照】都道府県労働局 ハローワーク「産業雇用安定助成金ガイドブック スキルアップ支援コース」|厚生労働省(2023年11月)
https://www.mhlw.go.jp/content/001178403.pdf
スキルアップ支援コースの支給対象外となる事業主および従業員
スキルアップ支援コースの支給を目指す上で、支給対象外の要件も必ず確認しておきましょう。スキルアップ支援コースの支給対象外となる事業主および従業員の例は、下記のとおりです。
<スキルアップ支援コースの支給対象外となる事業者の例>
- 過去に雇用関係助成金の不正受給を行ったことがある
- 労働保険料の滞納がある
- 過去1年内に労働関係法令違反による送検処分を受けている
- 風俗営業等関係事業主である
- 事業主都合による解雇や退職勧奨がある
<スキルアップ支援コースの支給対象外となる従業員の例>
- 期間の定めのある労働契約を締結している有期契約労働者
- 高年齢被保険者となった人
- 雇用保険被保険者になれない人
スキルアップ支援コース受給までにやるべきこと
スキルアップ支援コースの申請・受給までには、具体的にどのような準備が必要となるのか気になる方もいるでしょう。特に重要な準備として、下記の3つを押さえておくことをおすすめします。
出向実施計画届に記載する出向期間を決める
出向実施計画届は、出向先がどんな事業所なのか、どれくらいの期間出向するのかを記載する書類です。スキルアップ支援コースは、従業員1人につき1ヵ月以上2年以内の出向期間が対象となるため、この範囲内で期間を決定しましょう。
自社へ復帰後の賃金を決める
スキルアップ支援コースで支援金を受給するには、出向先から自社に復帰したときの賃金が出向前を5%上回る必要があります。将来の賃金についても具体的に決めておきましょう。
スキルアップ支援コースで受給する金額を確認する
スキルアップ支援コースの受給額は、中小企業とそれ以外で助成率が異なります。具体的な助成率の違いは下記のとおりです。
■出向元事業主の受給額の違い
中小企業 |
中小企業以外 |
|
助成率 |
3分の2 |
2分の1 |
助成額 |
下記のいずれか低い額に助成率を掛けた額(最長1年まで)
|
|
上限額 |
1人1日あたり8,490円(※) 1事業所1年度あたり1,000万円まで |
【出典】厚生労働省「産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)」|厚生労働省(2023年12月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082805_00012.html
※雇用保険の基本手当日額の最高額(2023年8月1日時点)。毎年8月に改正。
助成額は、出向労働者の出向中の賃金のうち出向元が負担する額、または出向労働者の出向前の賃金の2分の1の額のいずれか低いほうに助成率を掛けた額です。助成額がいくらになるかは事前に確認しておきましょう。
スキルアップ支援コース受給の手続き
ここからは、スキルアップ支援コース受給の手続きについて、通常の流れに沿って解説します。下記のとおり、受給の手続きには、大きく7つのステップがあります。
■スキルアップ支援コース受給の流れ
1.出向の計画を立てる |
出向元・出向先のあいだで、出向期間、出向中の労働者の処遇、出向中の賃金額、賃金の両者間での負担割合などを決定します。 |
2.出向計画届を作成・提出する |
出向元企業が出向計画届を作成し、出向開始日の前日までに都道府県労働局またはハローワークに提出します。 |
3.出向の実施 |
定めた期間に応じて、出向を実施します。 |
4.出向から復帰 |
出向から復帰した社員を自社の勤務に従事させ、出向前賃金から5%アップした賃金を支払います。 |
5.支給申請 |
出向から復帰後、6ヵ月後の賃金支払い日の翌日から2ヵ月以内に、支給申請書を作成・提出します。作成は出向元事業主が担当します。 |
6.労働局における審査・支給決定 |
労働局での審査を経て、出向元事業主に助成金が支給されます。 |
7.支給額の振り込み |
最長1年分の支給額が振り込まれます。 |
【参照】都道府県労働局 ハローワーク「産業雇用安定助成金ガイドブック スキルアップ支援コース」|厚生労働省(2023年11月)
https://www.mhlw.go.jp/content/001178403.pdf
スキルアップ支援コース受給にあたっての注意点
スキルアップ支援コースでの助成金申請・受給をする際には注意点もあります。下記に挙げる3点には注意しましょう。
出向に必要な合意・同意をとる
雇用契約にもとづいて企業間で行われる出向は、「使用者は、労働者の承諾がなければ、その権利を第三者に譲渡することはできない」とする民法625条が適用されます。過去の判例では、労働協約や就業規則に出向規定があり、労働者に配慮した労働条件や出向期間、出向中の賃金、復帰の仕方などが定められていれば対象者の同意を得ずに在籍出向を命ずることができるとしています。
しかし、いくら対象者のスキルアップにつながる出向であっても、対象者の同意のない在籍出向は組織への不信感を増大させ、出向後の休職・離職につながってしまう可能性もあります。
そのため、下記の点を十分検討した上で対象者を選定し、選定後は対象者に必ず出向内容の詳細を説明して同意を得るようにしましょう。
<出向対象者の同意を得る上でのポイント>
- 従業員のキャリアの志向性や能力と、出向先でのスキルアップに妥当性があるか
- 出向先で習得できるスキルが、自社に戻ったときに活かせるか
また、出向先事業主とも出向の必要性や労働条件についてはよく話し合い、出向契約を締結する必要があります。自社に労働組合がある場合は、組合の代表と協議をして出向協定を結んでおくことも重要です。
【参照】福島県「個別Q&A9-(2)出向・転籍とその要件」|福島県(2019年12月)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/65015a/kobetuqa9-2.html
出向実施計画届は、出向前に届け出る
産業雇用安定助成金の支給対象となる出向を実施する場合には、事前出向実施計画届を労働局に提出しなければなりません。出向先企業に準備してもらう書類も含めて、出向元企業の事業主が提出の手続きを行う必要があるため、出向を開始する前日までに済ませることを忘れないようにしましょう。
なお、計画届の審査は、すべての書類が受理された後で行われるため、できれば出向開始の2週間前には提出を済ませておいたほうが安心です。
支給申請時に必要な書類や資料は保存する
不正受給を防ぐため、雇用調整助成金等の申請をした、あるいは支給決定を受けている事業主の事業所には立ち入り調査が行われる可能性もあります。調査時には、出勤簿や賃金台帳等のほか、受給時の書類の提出を求められる場合があるため、申請書類は必ず写しをとって保存しておきましょう。
なお、書類の写し等の保存期間の目安は、支給が決定された時点から5年間とされています。
【参照】厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「雇用調整助成金等の不正受給への対応を強化します」|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000864771.pdf
在籍出向による従業員のスキルアップ支援は、組織のさらなる成長に寄与します
本記事では、在籍出向によるスキルアップ支援で受給できる助成金制度について解説しました。助成金を受給することで、企業は経済的な負担を減らして従業員のスキルアップ支援に取り組むことができます。組織のさらなる成長に向け、在籍出向の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
各社に合った在籍出向の活用の仕方については、ぜひ「マイナビ出向支援」にご相談ください。
在籍出向ならマイナビ出向支援
ご相談は1名様からでも可能です。出向実施に向けたご相談から、出向トレンドに関する情報収集、今後の⼈事施策に向けたご相談も歓迎です。具体的なご提案とサポートをさせていただきますのでお気軽にお声がけください。
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