法定福利費とは?対象項目や計算方法、建設業における注意点を解説
法定福利費は、従業員・労働者を雇用している事業主に負担の義務がある費用です。特に建設業界では、見積書に法定福利費の内訳を記載する必要があります。
本記事では、法定福利費の概要や福利厚生費との違い、具体的な計算方法をわかりやすく解説。建設業界における法定福利費を含めた見積書の作成方法などについても併せて紹介します。
目次[非表示]
- 1.法定福利費は事業者に義務付けられている保険料
- 2.企業にとって法定福利費と法定外福利厚生費が重要な理由
- 3.法定福利費の対象
- 3.1.健康保険料
- 3.2.厚生年金保険料
- 3.3.介護保険料
- 3.4.雇用保険料
- 3.5.労働者災害補償保険料
- 3.6.子ども・子育て拠出金
- 4.法定福利費を支払わないと法律違反となる
- 5.法定福利費の計算方法
- 5.1.厚生年金保険料の計算方法
- 5.2.健康保険料の計算方法
- 5.3.介護保険料の計算方法
- 5.4.労災保険料の計算方法
- 5.5.子ども・子育て拠出金の計算方法
- 6.建設業における法定福利費の注意点
- 7.建設業界で見積書に記載する福利厚生費
- 7.1.1. 労務費を算出
- 7.2.2. 法定福利費を算出
- 7.3.3. 法定福利費を見積書へ記載
- 8.従業員を雇用し続けている企業は、法定福利費の納付を行おう
法定福利費は事業者に義務付けられている保険料
まずは福利厚生費について整理します。福利厚生費は、事業主が従業員のために支出する給与以外の費用です。この福利厚生費は、法律で支出が義務となっている「法定福利費」と、企業が任意で支出する「法定外福利費」に分けられます。
法定福利費は、法定外福利費とは異なり、事業者が必ず負担するものとして労働基準法・健康保険法などの法律で定められている点が特徴です。
法定外福利費は、事業主が従業員のために支出する給与以外のお金を指します。例えば、健康診断の費用や社宅の提供などのほか、通勤手当なども法定外福利費に該当します。
なお、法定福利費は消費税が非課税である一方、法定外福利費の多くは消費税がかかります。
企業にとって法定福利費と法定外福利厚生費が重要な理由
日本社会の高齢化の進展とともに、保険料率の引き上げは増加傾向にあります。一方、法定外の福利厚生費については、法定福利費の増加による圧迫などを背景に、減少傾向にあります。
法定福利費は支払わなければならない「経費」と捉えるかもしれませんが、企業は法定福利費を、健康経営実現に向けた人材育成や、働き方改革といった企業の成長戦略に直結する「投資」であると捉える必要もあるでしょう。法定福利費をしっかりと押さえた上で、法定外の福利厚生費の質も向上させていけば、企業全体の競争力向上に期待が持てます。
【参照】経済産業省 商務・サービスグループヘルスケア産業課「第1回健康投資の見える化検討委員会事務局説明資料②(健康投資の定義(案))|経済産業省(2019年9月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jisedai_health/kenko_toshi/mieruka/pdf/001_04_00.pdf
法定福利費の対象
法定福利費は、全額を事業主が負担する労働者災害補償保険(労災保険)を除き、事業主負担と従業員負担分があります。従業員負担分は、給料支払い時などで天引きされるのが一般的です。なお、事業主負担分は、法定福利費として経費に計上することが可能です。
ここでは、法律で定められている法定福利費の対象ついて、詳しく見ていきましょう。
健康保険料
健康保険は、従業員の病気やケガに備えるための保険です。
健康保険の加入対象となる労働者とは、常時100人以上を超える事業所で働いており、1週間の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数がフルタイム従業員の4分の3以上となっていること、さらに、1週間あたりの所定労働時間が20時間以上で、2ヵ月を超えて雇用される見込みがあり、月々の給与が8万8,000円以上ある人が該当します。なお、上記の要件を全て満たしていれば学生であっても健康保険に加入可能です。
健康保険料は、従業員が病院に支払う医療費の負担軽減に役立つほか、病気やケガで働けなくなった際の傷病手当金や、医療費が高額になった際の高額療養費制度などにも使われます。健康保険料は、事業主と従業員が半分ずつ負担することが一般的です。
【参照】厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト 厚生労働省から法律改正のお知らせ」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/index.html
厚生年金保険料
厚生年金保険は、従業員の老後に備えるための公的年金の保険であり、こちらも社会保険に該当する保険です。フルタイムで働く会社員はもちろん、短時間労働者も加入できます。
なお、学生は原則として厚生年金保険には加入できません。厚生年金保険料は、事業主と従業員が半分ずつ負担します。
【参照】厚生労働省「いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来 第04話」|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/manga/04.html
介護保険料
介護保険は、従業員が高齢になった際の治療費や介護費を支援する社会保険です。健康保険に加入している40歳以上の従業員が主に加入する保険であり、介護保険料の額が決まる保険料率は加入先や地域によって異なります。
なお、40歳から64歳の従業員でも、初老期痴呆や脳血管疾患等の老化による病気が原因で要支援や要介護状態になる可能性もあるでしょう。その際は、介護サービスにかかる費用の一部を受給できます。
【参照】山口県「認知症・「若年性認知症」について|山口県(2023年3月)
https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/49/18531.html
雇用保険料
雇用保険は、従業員の失業などに備える保険です。雇用保険は労働者災害補償保険と併せて、労働保険と総称されます。
労働保険は、1人でも従業員を雇用している場合に加入の義務があります。正社員だけでなく、パートやアルバイトも対象です。詳しくは、厚生労働省が公表している「人を雇うときのルール」もご確認ください。
雇用保険は、一般的に失業手当と呼ばれる基本手当のほか、再就職手当や教育訓練給付といった給付も受けられます。加入対象者は、1週間に20時間以上働き、31日以上継続して雇用される見込みのある従業員です。雇用保険はすべての従業員が対象となっている保険です。
雇用保険料の額が決まる保険料率は、事業の業種ごとに異なります。
【参照】厚生労働省「人を雇うときのルール」|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/koyou_rule.html
労働者災害補償保険料
労働者災害補償保険(労災保険)は、業務中や通勤中のときに従業員が病気やケガをした際に支給される保険です。労働者災害補償保険も労働保険に該当します。労災保険料は、事業主が全額を負担します。
子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金は、国や自治体による子育て支援事業のための拠出金です。従業員が加入したり、保険料を負担したりする必要はなく、厚生年金保険の被保険者である従業員を雇用している事業主が全額を負担します。
法定福利費を支払わないと法律違反となる
法定福利費を支払う義務があるにもかかわらず、従業員が未加入の場合は法律違反となり、懲役や罰金といった罰則が科されます。例えば、健康保険法第208条では、被保険者の届出をしなかった場合において、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が規定されています。
法的措置や社会的信用の失墜を避けるためにも、自社は保険の適用対象となっているか、また従業員が未加入な状態になっていないかは必ず確認しましょう。
【参照】衆議院「健康保険法等の一部を改正する法律」|衆議院
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/15420020802102.htm
法定福利費の計算方法
法定福利費は、種類によって計算方法が異なります。ここでは、主に中小企業が加入する全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)の料率を例に、法定福利費の計算方法をご紹介します。
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料は、賃金額の平均から算出する「標準報酬月額」の18.3%のうち、従業員と事業主が9.15%ずつ負担します。なお、月額報酬額によって決定される等級ごとの標準報酬に掛けた金額が、厚生年金の金額となり、標準報酬月額は1等級から32等級までに分けられています。
例えば、厚生年金基金に加入しておらず、報酬月額が25万円の被保険者の等級は17等級です。17等級の標準報酬である26万円に18.3%の保険料率を掛けると、4万7,580円です。
【参照】日本年金機構「令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表」|日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/ryogaku/ryogakuhyo/20200825.files/01.pdf
健康保険料の計算方法
健康保険料は、標準報酬月額に健康保険組合が定めた料率を掛けて求めます。協会けんぽでは、保険料率が会社所在地の都道府県によって異なります。
協会けんぽに加入している東京都の企業の従業員の場合、2022年4月納付分からの保険料率は、介護保険第2号被保険者に該当しない場合9.81%、介護保険第2号被保険者に該当する場合は11.45%です。これを、従業員と事業主が半額ずつ支払います。
なお、事業所の所在地が常に保険料率に関係するとは限りません。そのため、加入している健康保険組合の規定を確認し、保険料の徴収と法定福利費の納付を行う必要があります。東京都の等級については下記のリンクより確認ができます。
【参照】全国健康保険協会「令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」|全国健康保険協会
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r4/ippan/r40213tokyo.pdf
介護保険料の計算方法
介護保険料は、40~64歳までの介護保険第2号被保険者が支払い義務を負い、標準報酬月額に健康保険組合が定めた料率を掛けて算出します。こちらも、従業員と事業主の折半です。
協会けんぽに加入している場合は、介護保険料は全国一律で1.64%です。報酬月額が25万円の場合は20等級となり、20等級の標準報酬である26万円に1.64%の保険料率を掛けると4,264円です。
労災保険料の計算方法
労災保険の保険料は、企業が全額負担します。労災保険率は、労災保険料の保険料率は事業内容に応じて細かく定められており、例えば林業だと6%、食料品製造業は0.6%、卸売業・小売業、飲食店、宿泊業が0.3%というように、業種によって保険料率が変わります。
事業主は、賃金総額に対して業種ごとに決められた保険料率を掛けた金額を納めなくてはなりません。例えば年間の総賃金が社員、アルバイト合わせて2,000万円となっているレストランの場合、労災保険料は2,000万円に0.3%を掛けて6万円となります。
【参照】厚生労働省「労災保険率表」|厚生労働省(2018年4月)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhokenpoint/dl/rousaihokenritu_h30.pdf
子ども・子育て拠出金の計算方法
子ども・子育て拠出金は、従業員に負担義務はなく、全額を事業主が負担します。2020年4月に拠出金率の改定が行われ、現在は、各従業員の標準報酬月額または標準賞与額の0.36%の金額です。
【参照】日本年金機構「子ども・子育て拠出金率が改定されました」|日本年金機構(2020年5月)
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2020/202005/20200514.html
建設業における法定福利費の注意点
法定福利費は、従業員に安心して長く働いてもらうために必要な費用です。しかし、建設業では、下請け業者を中心に年金や医療、雇用保険に入っていない建設労働者が多数存在していることから、国土交通省が法定福利費の明示の徹底を周知しています。
国土交通省は工事の発注元に対して、法定福利費を含んだ見積金額で業務の契約をするよう通知しています。
建設業の仕事は、時に危険な現場で行われるものです。そのため、ケガや障害を負うリスクもはらんでいます。そのため、雇用主は社会保険と労働保険に加入し、労働者の社会保障を確保する義務があるのですが、前述のとおり下請け企業を中心に年金、医療、雇用保険に入っていない未加入状態の企業が問題視されていました。
この未加入状態の問題を解消する上でも、法定福利費の確保が必要です。そこで、2013年から国は法定福利費の内訳を明示した見積書の提出を求めるようになりました。見積書に法定福利費の明示がなく、社会保険加入の事実が把握できない場合、その事業者は仕事ができなくなる可能性があるため注意してください。
【参照】国土交通省「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」|国土交通省(2012年11月)
https://www.mlit.go.jp/common/000216921.pdf
建設業界で見積書に記載する福利厚生費
建設業界においては法定福利費を見積書に記載する必要があります。建設業界における見積書に記載する福利厚生費は、厚生年金保険と、健康保険、介護保険、雇用保険、子ども・子育て拠出金の事業主負担分です。従業員負担分は計上しません。
国土交通省が公表している見積書の具体的な作成手順を参考に、建設業界における法定福利費と見積書の作り方を見ていきましょう。
1. 労務費を算出
労務費とは人件費に含まれるものであり、製造に関わる人への給与や賞与を指します。
例えば、1人の作業員が1日(8時間)でこなせる作業量を1人工(にんく)とし、0.5人工かかる作業を100ヵ所で行う場合、人工は0.5×100=50人工となります。1人の平均日額が1万5,000円だと仮定した場合、労務費は1万5,000円×50人工=75万円です。
2. 法定福利費を算出
法定福利費は、労務費を賃金とみなして算出することが一般的です。健康保険料や厚生年金保険料といった法定福利費は、標準報酬月額に健康保険組合が定めた料率を掛けて算出します。
3. 法定福利費を見積書へ記載
計算した法定福利費と計算根拠は、見積書に記載します。法定福利費は、見積書の別途に明示しておきましょう。なお、通常の労務費には法定福利費が含まれないため、「労務費(法定福利費を除く)」と記載しておくことをおすすめします。
法定福利費の表には「法定福利費事業主負担額」といった項目名で、該当の法定福利費が事業主負担分であることを明記してください。その上で、各保険料の対象となる労務費の金額や事業主負担割合、法定福利費の金額を記載して合計額を明記します。
その後、工事代金と法定福利費の合計額を「小計」に記入し、全額に消費税を掛けます。法定福利費に対しても消費税がかかる点には注意してください。
【参照】国土交通省「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/common/001090440.pdf
従業員を雇用し続けている企業は、法定福利費の納付を行おう
法定福利費を適正な範囲内でどのように活用するかは、企業の裁量に任されています。従業員・労働者の福祉を考慮していくことが、どの企業にとっても大切な任務となっています。
従業員を雇用し続けている企業は、法定福利費の納付を必ず行いましょう。
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従業員の心身の健康向上をお考えの際には、お気軽にお悩みをお聞かせください。また、従業員の健康促進や生産性向上、健康経営推進を検討している際は、健康経営の講演・研修・イベント出演といったコンテンツの提供や、健康経営における講師の紹介・斡旋サービスをご提供している「Bring.」をご活用ください。
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