女性活躍推進法とは?目的や企業がやるべきことを詳しく解説
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- 1.女性活躍推進法とは?目的や企業がやるべきことを詳しく解説
- 2.女性活躍推進法とは、女性の積極的な採用・登用と環境整備を促す法律
- 2.1.女性活躍推進法によって目指す社会
- 2.2.女性活躍推進法の改正ポイント
- 3.女性活躍推進法施行の背景と目的
- 3.1.人口減少に伴う労働力の不足
- 3.2.男女間の不平等の解消
- 4.女性活躍推進法にもとづいて企業がやるべきこと
- 4.1.1 自社の女性活躍について、状況と課題を把握・分析する
- 4.2.2 行動計画を策定し、社内周知・公表する
- 4.3.3 計画の実施
- 4.4.4 女性活躍に関する情報を公表する
- 5.えるぼし認定を受けるメリット
- 5.1.企業のブランドイメージが高まる
- 5.2.採用活動にプラスになる
- 5.3.従業員の満足度が高くなる
- 5.4.公共調達が有利になる
- 5.5.低利融資の優遇措置
- 6.女性活躍推進法を進めるための健康経営施策
- 6.1.特有の健康課題を相談しやすい環境づくり
- 6.2.不妊治療などに対する知識の普及
- 6.3.他社の取り組みを学ぶ
- 7.女性活躍推進法に沿った健康経営施策を実行しよう
女性活躍推進法とは?目的や企業がやるべきことを詳しく解説
昨今のビジネスシーンにおいて、「ダイバーシティ・マネジメント」「ダイバーシティ経営」「ダイバーシティ&インクルージョン」といった言葉がよく聞かれるようになりました。これは、多様な価値観、就業観を受け入れることによって、企業が新たな価値やイノベーションを生み出していく考え方です。
女性活躍推進法は、ダイバーシティ経営の実現に向け、特に女性の雇用の場や、活躍の場の拡大にフォーカスした取り組みを促す法律です。本記事では、女性活躍推進法の概要や施行された背景、改正内容のほか、企業がやるべきことについて詳しく解説します。
女性活躍推進法とは、女性の積極的な採用・登用と環境整備を促す法律
女性活躍推進法は、就業意欲があるすべての女性がいきいきと働き続けられるよう、企業に積極的な採用・登用と、そのための環境整備を促す目的で施行された法律です。
正式な名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」で、2015年に制定され、翌2016年4月より全面施行されました。女性活躍は可及的すみやかに推進すべきであるとの考え方にもとづき、2025年度末までの時限法となっています。
2019年には、女性活躍をより早く、確実に推進するために、改正女性活躍推進法が成立しました。改正法は2020年より順次施行され、対象企業の範囲が拡大しています。
【参照】厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)」|厚生労働省(2022年12月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html
女性活躍推進法によって目指す社会
女性活躍推進法の目的は、就労し、活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現することです。
同法では、この目的に沿って下記の基本原則を決定し、国、地方公共団体、企業のそれぞれに責務の実行を求めています。
<女性活躍推進法の基本原則>
- 女性に対する採用、昇進等の機会の積極的な提供およびその活用と、性別による固定的役割分担等を反映した職場慣行が及ぼす影響への配慮が行われること
- 職業生活と家庭生活との両立を図るために必要な環境の整備により、職業生活と家庭生活との円滑かつ継続的な両立を可能にすること
- 女性の職業生活と家庭生活との両立に関し、本人の意思が尊重されるべきこと
女性活躍推進法の改正ポイント
女性活躍推進法により、対象となる事業主には、「女性活躍推進法にもとづく一般事業主行動計画の策定・届出」および「女性活躍推進に関する情報公表」が義務付けられてきました。2019年の法改正では下記の点が変更となり、2020年、2022年に順次施行されています。
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「一般事業主行動計画の策定・届出」の対象となる企業
当初は、一般事業主行動計画の策定・届出は、常時雇用する労働者数が301名以上の企業が対象でしたが、101名以上の企業へと対象が拡大しています(2022年4月施行)。
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「女性活躍推進に関する情報公表」の対象となる企業
情報公表の義務化の対象が、常時雇用する従業員が101名以上の企業に拡大しました(2022年4月施行)。 - また、301名以上の企業は、公表項目に男女の賃金差異の情報公表が義務化されています。(2022年7月施行)。
【参照】内閣官房すべての女性が輝く社会づくり推進室「女性活躍推進法 参考資料」|内閣府男女共同参画局(2016年1月)
https://www.gender.go.jp/policy/suishin_law/horitsu_kihon/pdf/jichitai_sanko.pdf
【参照】厚生労働省岩手労働局「女性活躍推進法の省令・告示が改正されました」|厚生労働省(2022年5月)https://jsite.mhlw.go.jp/iwate-roudoukyoku/content/contents/050221iwatekokinzyokatsu.pdf
女性活躍推進法施行の背景と目的
女性活躍推進法が施行された背景と目的には、どのようなものがあるのでしょうか。女性活躍推進法が必要とされた日本社会の課題には、下記のようなものがあります。
人口減少に伴う労働力の不足
少子高齢化が進む日本の総人口は、2008年をピークとして、2011年以降は減少の一途をたどっています。特に、生産活動の中心である15~64歳の人口減少は顕著で、将来的な労働力の不足、経済規模の縮小などが懸念されています。
そこで、未来を担う新たな労働力として期待されているのが、「就労や昇格を希望している女性」です。女性活躍推進法の成立以降、女性の社会進出は進み、女性就業者の割合は2021年時点で44.7%となり、諸外国と比べても大差ない数まで増加しました。
しかし、非正規雇用の半数以上を女性が占め、管理職や上場企業の女性役員の割合は非常に低いことから、女性の多くはパートやアルバイトなどの雇用形態で就業していると考えられます。
環境や慣習によって能力を活かしきれずにいる女性の不利益を解消することは、優秀な女性がみずからの望む生き方を選択できる環境を実現するとともに、日本社会の労働生産性を高めることにもつながるのです。
【参照】内閣府「人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題」|内閣府(2015年10月)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s3_1_1.html
【参照】内閣府男⼥共同参画局「⼥性活躍に関する基礎データ」|内閣府(2022年7月)
https://www.kantei.go.jp/jp/content/000116409.pdf
男女間の不平等の解消
前述のとおり、日本の労働市場では女性の正規雇用が伸び悩み、男女格差が大きい状態が続いています。世界経済フォーラムが発表した2022年の「ジェンダー・ギャップ指数」では、日本は146ヵ国中116位でした。これは、教育や就労の機会が、男性に比べて制限されていることを表しています。
表向きは女性活躍が推進されていても、結婚や出産といったライフイベントによって離職、未就労になる女性が少なくないのが現状です。根底には、「男は仕事、女は家庭」のように、性別によって役割や能力を割り振る古い価値観があるといえるでしょう。
出産前と同様に働きたいと希望しているにもかかわらず、育休からの復帰時に時短勤務を選ばざるをえなかったり、昇進や昇格が見送られたりする女性にとって不平等な社会的風潮を改善し、世界レベルのジェンダー・ギャップ指数に近づけていくことも、女性活躍推進法の狙いです。
【参照】男女共同参画局「共同参画 令和4年8月号」|内閣府(2022年8月)
https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2022/202208/202208_07.html
女性活躍推進法にもとづいて企業がやるべきこと
ここからは、女性活躍推進法で企業が果たすべき義務について確認します。企業に必要な行動を4つに分けて紹介しますので、順を追って見ていきましょう。
1 自社の女性活躍について、状況と課題を把握・分析する
まずは、自社の女性活躍の状況を、下記の4つの「基礎項目」について数値を算出して把握します。
-
採用者のうち、女性が占める割合
総合職、事務職、技術職などの職種や、正社員、契約社員、パートタイム労働者などの雇用形態ごとに、採用者のうち女性が占める割合を把握する必要があります。なお、それらの把握が難しい場合は、「労働者に占める⼥性労働者の割合」で代替可能です。
<計算式>
直近事業年度の女性の採用者数÷直近事業年度の全採用者数×100(%)
【参照】厚生労働省都道府県労働局雇用環境・均等部(室)「女性活躍推進法に基づく
一般事業主行動計画を策定しましょう!」|厚生労働省(2022年12月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000614010.pdf
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平均勤続年数の男女差
平均勤続年数の男女差も、上記の「採用者のうち、女性が占める割合」と同様に、職種や雇用形態ごとに区分して計算する必要があります。計算の対象となるのは、労働契約の契約期間の通算期間が5年を超える従業員です。
<計算式>
女性の平均継続勤務年数÷男性の平均継続勤務年数×100(%)
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各⽉の平均残業時間数で算出する労働時間の状況
⽉ごとの平均残業時間数といった労働時間の状況を知るために、非正規雇用労働者も含めた全労働者の労働時間を把握する必要があります。
なお、事業場外みなし労働時間制の適用を受ける労働者や、管理監督者等は対象外です。また、パートタイム労働者や、専門業務型裁量労働時間制の適用を受ける労働者、企画業務型裁量労働時間制の適用を受ける労働者は、それ以外の労働者とは区別して把握していきます。
<計算式>
対象労働者の各月の法定時間外労働+対象労働者の各月の法定休日労働÷対象労働者数
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管理職に占める女性の割合
基礎項目における管理職とは、「課⻑級」と「課⻑級より上位の役職(役員を除く)」にある労働者の合計を指します。課長級とは、事業所で通常「課長」と呼ばれている人や、2係以上の組織、もしくは課長を含む構成員が10人以上の組織の長が該当します。また、呼称や構成員に関係なく、その職務の内容と責任の程度が「課長級」に相当する人も管理職の対象です。
<計算式>
女性の管理職数÷管理職数×100(%)
数値が低い基礎項目については、その理由を分析していきましょう。
2 行動計画を策定し、社内周知・公表する
「1」で顕在化した課題について、分析の結果を加味して、解決のための「一般事業主行動計画」を策定します。行動計画には自社の課題に沿って、下記の4つを盛り込みます。
<一般事業主行動計画>
- 計画期間
- 数値目標
- 取り組み内容
- 取り組みの実施期間
策定した行動計画は、社内のすべての従業員に周知し、同時に外部にも公表します。都道府県労働局にも郵送、電子申請、もしくは直接の手渡しで届け出をしましょう。
3 計画の実施
行動計画に沿って、取り組みを順次実施します。
このとき、定期的に取り組みの進捗状況を計画と照らし合わせ、PDCAを回していくことが大切です。思うような効果が出ていない場合や、計画に遅がある場合は、計画の改善や調整を行いましょう。
4 女性活躍に関する情報を公表する
年に1度のペースを目安に、自社の女性活躍に関する取り組み状況を公表します。
公表先は、自社のウェブサイトのほか、全国の企業が女性の活躍状況に関する情報・行動計画を公表する厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」などがいいでしょう。
【参照】埼玉労働局雇用環境均等室「女性活躍推進法について」|厚生労働省(2022年)
https://jsite.mhlw.go.jp/saitama-roudoukyoku/content/contents/000945078.pdf
【参照】厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」|厚生労働省(2023年1月)
https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/
えるぼし認定を受けるメリット
「女性活躍推進に対する取り組みが積極的である」として一定の基準を満たすと、厚生労働大臣が定める「えるぼし認定」を受けることができます。認定の評価項目は「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」の5つあり、そのうち何項目達成しているかによって1~3の認定段階が決まります。
また、えるぼし認定企業のうち、目標の達成度合いや女性の活躍推進に関する取り組みの状況が特に優良であると評価されると、「プラチナえるぼし認定」を受けることができます。
認定を受けた企業は、厚生労働省のウェブサイトに企業名が掲載されるほか、認定マーク「えるぼし」「プラチナえるぼし」を採用活動や自社製品、広告などに使うことができます。これにより、下記のようなメリットが期待できます。
【参照】非営利一般社団法人 安全衛生優良企業マーク推進機構(非営利型)「プラチナえるぼし認定~女性が活躍できる企業の証~」SHEM(2022年)
https://shem.or.jp/p_eruboshi-system
企業のブランドイメージが高まる
えるぼし認定を受けると、女性の活躍を支援している会社、女性が活躍している会社として世間に広く認知され、企業のブランドイメージがアップします。製品やサービスを好意的に捉えてくれるクライアントが増え、長期的な利益の拡大につながるでしょう。
採用活動にプラスになる
求職者は、えるぼし認定を受けている企業に対して、肯定的な印象を抱きます。採用活動における認知度や求職者の評価も高まり、優秀な人材を獲得しやすくなるでしょう。
従業員の満足度が高くなる
えるぼし認定の評価項目には、過剰な残業、休日出勤を減らすことなども含まれています。えるぼし認定を目指す過程で勤務環境が改善されれば、従業員の満足度が高まります。また、えるぼし認定によって自社に対する社外の評価が高まることも、従業員のモチベーションをアップさせるでしょう。
公共調達が有利になる
えるぼし認定企業になると、総合評価落札方式または企画競争による調達によって公共調達を実施する場合に、加点評価が受けられます。
【参照】厚生労働省・都道府県労働局「女性活躍推進法に基づく認定企業(えるぼし認定企業)が公共調達で有利になります!」|厚生労働省(2018年)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000134501.pdf
低利融資の優遇措置
日本政策金融公庫の中小企業事業本部と、国民生活事業本部による「企業活力強化貸付」を利用する場合、基準利率よりも低金利で融資を受けることができます。
【参照】厚生労働省・宮崎労働局 雇用環境均等室「女性活躍推進法が平成28年4月1日から施行されました! えるぼし認定企業になりませんか?」|厚生労働省(2018年)
https://jsite.mhlw.go.jp/miyazaki-roudoukyoku/library/miyazaki-roudoukyoku/koyoukannkyou-kintoushitsu/leaflet/leaf_eruboshinintei.pdf
このように、女性活躍推進の取り組みを進めることは、企業経営に良い効果をもたらします。えるぼし認定を受けるために、女性活躍推進法に則って環境の整備を進めていってはいかがでしょうか。
女性活躍推進法を進めるための健康経営施策
女性活躍推進法によって、女性の社会進出、およびワークライフバランスの取り組みは著しく進化しています。しかし、女性特有の健康課題に視点を移すと、その解決につながる制度整備や環境整備は、道半ばと言わざるをえません。
そこで、下記に挙げるような女性の健康課題解決につながる健康経営施策を実践することで、女性活躍推進法に沿った環境整備を進めることが可能です。
特有の健康課題を相談しやすい環境づくり
経済産業省の「健康経営における女性の健康の取り組みについて」によれば、月経痛や月経前症候群といった健康課題によって、半数以上の女性が職場で困った経験があることがわかっています。
月経や更年期といった問題を気軽に相談できる産業医や婦人科医、カウンセラーなどへの相談窓口を設置するほか、柔軟な休暇の許可、人員配置による調整などが求められます。
【参照】経済産業省ヘルスケア産業課「健康経営における女性の健康の取り組みについて」経済産業省(2019年3月)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/josei-kenkou.pdf
不妊治療などに対する知識の普及
厚生労働省の調査では、不妊治療を経験した人のうち、16%が治療と仕事を両立できずに離職しています。
不妊治療に保険が適用されるようになり、金銭的な面では取り組みやすくなりました。しかし、通院回数の多さ、精神面での負担の大きさなどは変わりません。通院日と仕事の日程を調整する必要もあり、依然として両立には大きな壁があるといえるでしょう。
今後は、治療に伴うこうした事実を管理者が知り、適切な人員配置や休暇の取得につなげていくことが求められていくのではないでしょうか。
【参照】厚生労働省「不妊治療と仕事との両立のために」|厚生労働省(2022年9月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14408.html
他社の取り組みを学ぶ
他社の取り組みを学ぶことも、女性の健康課題解決につながる可能性があります。例えば、前述の不妊治療について、女性社員が多くを占める日本航空株式会社では、体外受精や顕微授精といった高度な不妊治療に取り組む際、一定期間休職できる制度を設けています。
最初からすべての取り組みを自社に導入することは難しいですが、まずは自社と男女比率や社風が似ている企業の取り組み事例を参考にして、実現できる取り組みを検討しましょう。なお、その際には、企業間で研修契約を結び、従業員を一定期間留学させる「企業間留学」の活用も有効です。
女性活躍推進法に沿った健康経営施策を実行しよう
不足する労働力をバランス良く補うため、優れた能力を持つ人を性差なく登用するには、健康経営施策の実施が欠かせないでしょう。女性活躍推進法で定められた義務を果たすことはもちろん、女性特有の健康課題に注目した施策を積極的に実施してみてはいかがでしょうか。
「マイナビ健康経営」では、従業員の健康増進、生産性向上、人材定着などを目指す企業に向けて、従業員の心身の健康づくりをサポートする「ウェルネスサポート」サービスを提供しています。専門トレーナーによる「ビジネスストレッチ」、健康データの可視化・改善を測るソリューションなど、多彩なプログラムの中には、自社の女性活躍につながる施策があるはずです。この機会に、「マイナビ健康経営」までお気軽にご相談ください。
<監修者> |