早期退職を進める上で再就職支援はなぜ重要?メリットや活用法を解説
早期退職は、提案の仕方によってはトラブルになる可能性もあります。円滑な早期退職のため、再就職支援が重要となる背景やメリットのほか、再就職支援の活用法を解説します。
目次[非表示]
- 1.早期退職を進める上で再就職支援はなぜ重要?理由や活用法を解説
- 2.早期退職が増加している背景
- 2.1.業績悪化
- 2.2.年齢構成の偏りの改善
- 2.3.経営効率化のため
- 3.早期退職には2つの制度がある
- 4.早期退職を募る企業のメリット
- 4.1.人件費を削減できる
- 4.2.社内の若返りが図れる
- 4.3.第二のキャリアを後押しできる
- 5.早期退職の注意点
- 6.退職者のケアとなる再就職支援
- 6.1.退職者のその後をケアするため
- 6.2.既存社員の反発を回避するため
- 6.2.1.<再就職支援の導入で生まれるメリット>
- 7.再就職支援とは異なる転籍出向の活用も検討する
- 8.早期退職は、再就職支援も検討した上での実施をおすすめします
早期退職を進める上で再就職支援はなぜ重要?理由や活用法を解説
コロナ禍による業績悪化や、組織の若返りなどを目的として、早期退職や希望退職を募集する企業が増加しています。早期退職は、企業にさまざまなメリットをもたらしますが、40代、50代になってキャリアの再構築を求められる中高年層にとっては大きな試練です。提案の仕方によってはトラブルになる可能性もあるため、再就職支援などで退職後のキャリアをサポートすることが大切です。
ここでは、円滑な早期退職のため、再就職支援が重要となる背景やメリットのほか、再就職支援の活用法を解説します。
早期退職が増加している背景
早期退職は、退職・退官の期限である定年(60歳、または65歳が一般的。2025年からは定年制を採用しているすべての企業で65歳定年制が適用)を迎える前に、会社や組織を退職することです。
東京商工リサーチの調べによれば、2021年に早期・希望退職者を募集した上場企業は、84社に上りました。リーマンショック以降、2年連続で80社を超えたのは初めてであり、今や高止まりの様相を呈しています。
なぜ、早期退職を募る企業が増加しているのでしょうか。まずは、企業が早期退職を実施している背景を3つご紹介します。
【参照】東京商工リサーチ『2021年上場企業「早期・希望退職」募集状況』|東京商工リサーチ(2022年1月)
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20220120_01.html
業績悪化
企業が早期退職を実施する背景として、まず挙げられるのは業績悪化です。経営状況がかんばしくなく、事業を縮小せざるをえないことから、余剰となる人員から退職者を募るケースです。悪化した経営を人員削減によってカバーするこうした方法は、従業員の意思を聞くとはいえ、経営層にとっても苦渋の決断となります。
コロナ禍では、外出自粛の影響によって鉄道、航空、観光関連、アパレル業界などで早期退職を募るケースが目立ちました。
年齢構成の偏りの改善
現在、企業における年齢別就業者数のボリュームゾーンとなっているのは、バブル期の大量採用組と団塊ジュニア世代にあたる40代から50代です。働き手の中心となるこの世代は、企業のさらなる成長を牽引する存在として期待される一方、ポスト不足で昇進が遅れていることなどから、仕事に対するモチベーションが低い人も多い世代として問題視する向きもあります。
昔は必死に働いていた人が、いつの間にか職場のボトルネックとなっている事態は、そのまま放置すれば企業の競争力を著しく低下させかねません。また、真面目に業務にあたっているものの、環境変化に対する順応力が低かったり、自発的にキャリアを切り拓く習慣が根づいていなかったりするミドル・シニア世代も、早期退職者の対象となっているようです。新時代を勝ち抜く革新的な経営戦略の担い手となる従業員を増やすために、早期退職を募る企業が増えています。
経営効率化のため
前出の東京商工リサーチの調査では、早期退職を募集した企業の約4割以上は、通期決算の最終損益が黒字でした。業績が良いうちに、将来的なリスクを見据えた人員削減で、経営効率化を図る企業が増えているからです。
世界的に推進される二酸化炭素削減の取り組み「カーボンニュートラル」によって、脱炭素を迫られている自動車産業はその典型例です。2021年3月、日本自動車工業会の豊田章男会長は、業界の未来について「やがて来るカーボンニュートラル社会に順応できなければ、業界の先行きは相当厳しい」と警鐘を鳴らしました。
社会の動きを無視して従来の技術にこだわれば、社会のニーズとのミスマッチが生まれて車が売れなくなり、やがて雇用が失われることになります。この危機を回避するには、炭素への依存度を軽減できる革新的な技術を取り入れていかなくてはなりません。
そこで、時代に即した新しい技術や、既成概念にとらわれない発想力のある人材と、既存の技術者との入れ替わりを促す目的で、自動車業界も早期退職を募っているのです。
【参照】日経クロステック『「炭素中立に対応しないと100万人の雇用を失う」、自工会会長』|日経BP(2021年3月)
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/09848/
早期退職には2つの制度がある
希望退職制度
希望退職制度とは、業績悪化や年齢層の入れ替えといった会社側の都合で、定年前の従業員に対して自発的な退職を募る制度です。企業が人員整理を行う際に募ることの多い制度で、退職金の割り増しや再就職先の紹介・斡旋といった有利な条件が提示されることがあります。
選択定年制度
選択定年制度は、従業員が自分の意思で定年の年齢を選択する制度で、人事制度として恒常的に存在しています。具体的な設定年齢は企業によって異なりますが、45歳、50歳など、一般的な定年の年齢である60歳、または65歳より前に設定される傾向があります。
選択定年制度を採用している企業の中には、定年退職と同額の退職金を支払ったり、退職年金を優遇したりといった措置を設けることがあり、選択定年制度で得た資金をもとに新たなチャレンジをする人も少なくありません。
【参照】厚生労働省「第1回 解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」|厚生労働省(2018年6月)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000211230.pdf
【参照】厚生労働省「平成29年賃金事情等総合調査」|厚生労働省(2017年9月)
https://www.mhlw.go.jp/churoi/chousei/chingin/17/dl/index3-07.pdf
早期退職を募る企業のメリット
早期退職には、企業において人件費削減をはじめとするさまざまなメリットがあります。具体的にどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。
人件費を削減できる
人件費は、経営上必要な固定費であり、企業活動にかかる経費の多くを占めています。中でも、ボリュームゾーンである中高年層の給与は、経験年数やポストによって比較的高めに設定されているため、早期退職を募ることで大幅に人件費をカットできます。
特に、業績悪化による事業縮小などで経営に負担がかかっている場合、人員を整理して人件費を適正化することが経営状態改善の近道になる可能性は高いでしょう。
社内の若返りが図れる
年齢別の就業者数のうち、大きな割合を占める中高年層が早期退職をすると、人員構成の偏りがなくなって社内の若返りを図ることができます。
マネジメント層が退職すれば管理職のポストが空くため、優秀な若手を登用するきっかけにもなるでしょう。長く続いてきた年功序列の仕組みを撤廃し、実力主義への転換を図りたい場合にも有効です。
第二のキャリアを後押しできる
マイナビキャリアリサーチLabのレポート「中高年世代の働く意識」(2020年)によると、「自分のキャリアの市場価値」について、価値が高いと思うか否かの質問を設けたところ、45~54歳は他の世代に比べて「どちらともいえない」という回答割合が特に高い傾向がありました。
中高年層の自己評価の低下は、企業経営にとってはもちろん、その人自身にとってもマイナスでしかありません。
「自分を変えたいけど、どうしていいかわからない」「新しいことにチャレンジしたいが自信や資金がない」といった従業員にとって、早期退職の募集はひとつのきっかけになるかもしれません。再就職で新たな業界にチャレンジしたり、退職金を資金にして起業したりといった、第二のキャリアへの扉を開く目的としても早期退職は有効です。
【出典】マイナビキャリアリサーチLab「中高年世代の働く意識」|株式会社マイナビ(2021年5月)
https://career-research.mynavi.jp/report/20210511_9208/#i-5
早期退職の注意点
ここまで、早期退職のメリットについて解説しました。当然ながら、早期退職にはデメリットもあります。続いて、早期退職を行う上で注意すべき点について見ていきましょう。
手放したくない、優秀な人材まで流出しないようにする
早期退職の募集に際して、ある程度の年齢層や対象を絞って提示することはできますが、企業側が「生産性を下げている」「仕事に対する意欲が高くない」と見ていた人が応募してくるとは限りません。予想に反して、将来性のある、優秀な人材が応募して来る場合もあるでしょう。
期待していた人材の早期退職は、企業にとって大きなダメージです。人件費は削減できても、収益に影響を及ぼしたり、かえって生産性を低下させたりすることが起きないよう、募集内容は慎重を期してください。
組織全体のモチベーションを低下させない
早期退職に対して、マイナスイメージを持つ人は少なくありません。従業員の中にも、「会社が早期退職を募集し始めた」という事実から経営状態を不安視し、「自分も退職したほうがいいのでは?」といった動揺が広がるおそれはあります。
こうした状態が続けば、組織全体のモチベーションが低下し、生産性にも影響が出るでしょう。企業側は、早期退職を募る理由を全社に向けて丁寧に説明し、理解を得ることが大切です。
退職者の精神的ダメージをフォローする
早期退職制度を利用して退職する人は、会社都合の指名解雇と違って、みずからの意思で退職を選んでいます。しかし、人の気持ちは移ろうものです。漠然と転職を考えていたところに早期退職の募集があったため応募したものの、即時に退職を受け入れられたことで、長年尽くしてきた会社に見放されたような気持ちになる人もいると考えられます。
従業員の精神的ダメージは、企業に対するネガティブな感情を生みがちです。早期退職を募る際には、従業員の不満や不安を聞き取り、退職理由をしっかり共有した上で離職につなげることが大切です。
退職者のケアとなる再就職支援
早期退職者のケアの一環として昨今、注目されているのが、再就職支援です。再就職支援の目的は、大きく2つあります。
退職者のその後をケアするため
従業員がキャリアの方向性を確立しないまま退職すると、早々に生活基盤が崩れ、不安定な経済状態に陥りやすくなります。「辞めるといっても引き止められなかった」といった背景から自分に自信をなくし、転職活動が難航することもあるかもしれません。
自社に貢献してくれた従業員が安心して再就職の活動ができるように、ケアやサポートのある再就職支援の活用を促していくことは有効だと考えられます。
既存社員の反発を回避するため
人員削減の目的が経営的に前向きな理由であっても、既存社員にメリットがなければ心理的な反発は起こります。そこで、再就職支援サービスの導入などを実施し、退職者に対してこれまでの感謝の気持ちを示せば、既存社員との不和を未然に防ぐことができるでしょう。
再就職支援の導入は、退職者、企業、そして退職者の受け入れ先となる企業の3者にメリットがあります。それらのメリットは、下記のとおりです。
<再就職支援の導入で生まれるメリット>
- 退職者:キャリアの道筋をつけて退職できる可能性があり、不安が軽減する
- 企業:企業としての社会的責任を果たすことで、社内のモチベーション維持が期待できる
- 受け入れ先:経験とスキルのある人材を採用できる可能性がある
退職者、企業、受け入れ先の新たなスタートをより良いものにするためにも、再就職支援は上手に活用していきましょう。
再就職支援とは異なる転籍出向の活用も検討する
「転籍出向」は、働いている企業(出向元企業)との雇用関係を解消し、新しい企業(出向先企業)の雇用関係を結び直す出向の形です。出向元企業との雇用関係を維持したまま、出向先企業とも雇用関係を結ぶ「在籍出向」と違い、原則的に出向元企業に復帰することはありません。いわば、現職を退職して転職したのと同じ状態です。
転籍出向は、業績悪化でやむなく人員削減を図る際にも、従業員を解雇することなく新たな就労先が確保されるのが最大のメリットです。経営が苦しくなっても最後まで雇用を守ろうとしてくれたか、すぐに解雇したかで、従業員が企業に抱く印象は大きく異なります。「雇用関係がなくなれば、あとは他人」という考え方は、退職した従業員や既存社員にマイナスの印象を植えつけ、やがて顧客との関係性や採用にも影響を及ぶおそれもあるでしょう。
しかし、転籍出向であれば、上記のような経営に対する未来のリスクを軽減する上でも、検討の意義があるといえます。
早期退職の期間や状況に応じて、再就職支援だけでなく、転籍出向も選択肢のひとつとして活用してみてはいかがでしょうか。
【転籍出向について更に詳しく知る】
早期退職は、再就職支援も検討した上での実施をおすすめします
人件費の削減や年齢層の偏りの改善など、早期退職制度にはさまざまなメリットがあります。しかし、取り組み方によっては、退職者にショックを与え、トラブルに発展しかねません。
早期退職の遂行にあたっては、退職者への十分な配慮とケアが重要となります。再就職支援を行うことはもちろん、転籍出向も検討し、円満となる退職を目指してください。
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