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出向と派遣の違いとは?出向の仕組みを理解してトラブルを防ごう

出向と派遣は、違いを把握しておかないと、会社が「偽装出向」をしていると疑われ、トラブルにつながることがあります。出向と派遣の違いを詳しく解説します。

目次[非表示]

  1. 1.出向と派遣の違いとは?出向の仕組みを理解してトラブルを防ごう
  2. 2.出向の仕組みとは?
    1. 2.1.在籍型出向の仕組み
    2. 2.2.転籍出向の仕組み
  3. 3.在籍型出向の目的とは?
    1. 3.1.雇用の確保
    2. 3.2.経営指導や技術指導の実施
    3. 3.3.職業能力開発の一環
    4. 3.4.人事交流の一環
  4. 4.派遣と出向の違い
    1. 4.1.契約形態の違い
    2. 4.2.雇用期間の違い
    3. 4.3.労働時間の違い
    4. 4.4.給与の支払いの違い
  5. 5.偽装出向にならないようにするためには?
    1. 5.1.偽装出向とみなされる状態
    2. 5.2.在籍型出向が無許可の労働者供給事業にならない理由
    3. 5.3.偽装出向を見逃さない体制の構築方法
  6. 6.派遣との違いを明確に把握して、在籍型出向を活用しよう

出向と派遣の違いとは?出向の仕組みを理解してトラブルを防ごう

現在の時代に合った働き方として広く浸透しつつある「出向」と、社会にすでに定着している「派遣」、それぞれの違いはどこにあるのでしょうか。どちらも在籍中の企業とは異なる場所で働くので、一見すると同じカテゴリーに入る働き方と思われがちです。

しかし、この2つを混同したまま人材を会社に受け入れていると、出向契約で労働者供給を行う「偽装出向」を疑われ、トラブルにつながる可能性もあります。

ここでは、出向の仕組みと在籍型出向の目的、出向と派遣の違いのほか、偽装出向にならないための注意点について詳しく解説します。出向の仕組みを理解して、トラブルの防止に役立ててください。

出向の仕組みとは?

派遣と出向の仕組みの違いを理解するために、出向の仕組みを確認しておきましょう。派遣も出向も、元々在籍している企業に籍を置いたまま、別の企業で仕事をする働き方であることは共通しています。

まずは、「在籍型出向」と「転籍出向」という、出向の契約形態の仕組みについて解説します。

在籍型出向の仕組み

在籍型出向とは、従業員の籍を自社に置いたまま、出向先となる別企業へと働く場所をシフトし、労働力を提供する働き方です。出向者は、出向元と出向先の双方と労働契約を結び、あらかじめ定めた期間やミッションが終了すると出向元へ戻ります。

出向元と出向先のあいだでは、出向契約が結ばれます。

転籍出向の仕組み

転籍出向は、出向者が出向元となる企業との雇用契約を解消し、新たに出向先の企業と雇用契約を結びます。この場合、出向した時点で出向元との雇用契約は解消されているため、出向者が出向元へ戻ることは基本的にありません。

出向元と出向先のあいだでは出向契約が結ばれていますが、出向者の方は出向元を辞めているので、転職と実質的には変わらない状態といっていいでしょう。

在籍型出向の目的とは?

在籍型出向は、従業員が出向元と出向先の両方と雇用契約関係にあり、企業間が出向契約を結んでいる点がポイントです。また、単なる労働力の供給ではなく、下記のような目的を持って雇用契約を結んでいます。

在籍型出向は派遣と混同されやすいですが、働く目的からも両者の違いが見えてきます。

雇用の確保

在籍型出向は、従業員の雇用確保の目的で採用されることがあります。不況などを背景に、社内に余剰人員が出た際、人材不足に悩む企業などに出向をさせれば、従業員の雇用を守ることができます。

経営指導や技術指導の実施

従業員がこれまで培ってきた知識や技術を活かして、経営指導や技術指導をするために、ほかの企業に在籍型出向をすることもあります。ここで期待されているのは、出向をする従業員の成長です。一方、出向先の従業員も経営指導や技術指導によって成長が促されるため、出向元と出向先双方にメリットがあります。

職業能力開発の一環

出向元の事業や業務についてより理解を深めたり、役立つスキルを身につけてもらったりする目的で、企業グループ内や関連会社内で在籍型出向が行われることもあります。この場合の在籍型出向は、職業能力開発の一環といえます。

人事交流の一環

企業グループ内や関連会社との人事交流を図る手法のひとつとして、従業員を在籍型出向させることもあります。その際、「事業が関係している企業であること」「今後も継続的に人事交流を行うこと」が重要です。

派遣と出向の違い

在籍型出向と派遣の働き方は似ていますが、派遣は下記の3つを満たす必要があります。

  • 派遣元と派遣先が労働者派遣契約を結ぶ
  • 労働者と派遣元に雇用関係がある
  • 派遣先と労働者は指揮命令関係にある

この3点を踏まえた上で、派遣と出向の違いを「契約形態」「雇用期間」「労働時間」「給与の支払い」の4つの項目に分けてご紹介します。

【参照】厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」|厚生労働省(令和5年4月1日以降
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/hakenyouryou_00003.html

契約形態の違い

派遣と出向は、契約形態に違いがあります。派遣社員は、派遣元となる人材派遣会社と雇用契約を結び、派遣先の企業の社内で仕事をします。派遣社員に対して指揮命令をするのは派遣先企業ですが、両者間に雇用関係はありません。

一方、在籍型出向をする従業員は、出向元との雇用関係を維持したまま出向先とも雇用関係を結び、出向先の指揮命令を受けて勤務します。雇用契約が2つ存在するため、就業規則の適用や福利厚生、就業条件などについて、どちらの契約に則るかを事前に定めておく必要があります。

在籍型出向と労働派遣の違いの図説です。在籍出向は、出向先と労働者間の関係が「雇用関係」にあるのに対し、労働派遣は派遣先と労働者間の関係が「指揮命令」関係となります。図:契約形態の違い

雇用期間の違い

派遣と出向は、雇用期間にも違いがあります。派遣社員が同一の派遣先、および派遣先の事業所における同一の組織単位で働く場合、最短31日以上、最長3年以内 でなくてはなりません。これは、従来の日雇い派遣と呼ばれる短期雇用システムが労働者の安全・安心・安定の権利を脅かしていたこと、さらには同一労働同一賃金の観点から派遣社員と正社員の格差を是正する必要があったことなどから制定されたものです。

一方、出向には法律で定められた契約期間はありません。出向元と出向先の取り決めによりますが、半年から数年が一般的です。業務内容によっては、より長期の勤務になることも珍しくありません。

ただし、あまりに長期間の出向は、出向者のモチベーションやロイヤルティを低下させる可能性があるほか、企業による権利の濫用として、司法上、無効になることもあるため、あらかじめ復帰の条件などを明らかにしておくことをおすすめします。

【参照】厚生労働省「労働者派遣法が改正されました」|厚生労働省(2012年10月)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/kaisei/01.html

【参照】厚生労働省「平成27年労働者派遣法改正法施行から3年を迎えるにあたっての確認事項【派遣で働く皆様へ】」|厚生労働省(2018年9月)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000196406.pdf

労働時間の違い

派遣社員の場合、派遣元・派遣先の間で交わされる「労働者派遣契約」の内容に沿い、労働時間の変更は状況に応じ、派遣元・派遣先の間で協議の上、「労働者派遣契約」の内容を変更します。
ただし、派遣社員が時間外労働を行うときは、派遣元会社と派遣社員が36協定を締結し、届け出をする必要があります。

一方、在籍出向の場合においては、出向元と出向先が協議して出向者の労働条件を決定しますが、出向先の労働条件を適用するのが一般的です。
出向先の労働条件を適用する場合、出向社員が時間外労働を行うときは、出向先会社と出向社員が36協定を締結し、届け出をする必要があります。出向元と出向先の協議によって出向元の労働条件を適用することも可能ですが、一人だけ周囲と異なる就業時間で働いていると業務に支障が出る可能性があるため、出向先のルールに則って勤務することが多いでしょう。

【参照】厚生労働省「派遣労働者の労働条件・安全衛生の確保のために(派遣先事業者向け)」|厚生労働省(2017年1月)
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/160210-1.html

給与の支払いの違い

派遣社員が雇用契約を結んでいるのは派遣元の派遣会社ですから、給与を支払うのは派遣元です。派遣先が派遣元に支払った金額から、必要経費などを差し引いた金額が派遣社員に支払われます。

また、社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険)や有給休暇で発生するコストなども、派遣元が負担します。

従業員に給与を支払うのは、雇用関係を結んでいる会社です。在籍型出向の場合、出向者は出向元・出向先の双方と雇用契約を結んでいるため、給与を支払うのはどちらの企業でも構いません。出向元と出向先で支払額の割合を設定するなど、双方が納得できる支払方法を事前に決めておきましょう。

偽装出向にならないようにするためには?

出向と派遣は、実際に勤務をする企業に指揮命令権がある点は共通していますが、雇用契約の在り方や雇用期間、労働時間、給与の支払いなどに違いがあります。この違いを正確に認識していなかったり、混同してしまったりすると、違法な「偽装出向」とみなされて、派遣法にもとづく処分が下される可能性があるため、注意が必要です。

偽装出向にならないように、偽装出向とみなされる状態や偽装出向を見逃さない体制の構築方法について知っておきましょう。

偽装出向とみなされる状態

偽偽装出向とは、実態は社員を労働力として供給して対価をもらう派遣であるにもかかわらず、出向契約を装ったり、派遣社員を出向者として扱ったりするものです。

出向であれば、派遣元は労働者派遣法の規制を免れます。また、派遣先も、3年以上にわたって直接雇用に切り替えることなく労働力を確保できる上、業務に関する指揮命令権を持つことができるなどのメリットがあるため、出向を拡大解釈して、結果的に偽装出向の状態になってしまうケースは少なくありません。

しかし、自社で雇用する従業員を他社に供給することは、労働者派遣事業としてあらかじめ許可をとっている場合以外は禁止されています。そのため、表向きは出向でありながら、実際には派遣先が派遣元に対して受け入れた人の対価を支払っている偽装出向は、職業安定法第4条 で禁止されている無許可の労働者供給事業にあたります。

【参照】厚生労働省「在籍型出向『基本がわかる』ハンドブック(第2版)」|厚生労働省(2021年11月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000739527.pdf

在籍型出向が無許可の労働者供給事業にならない理由

偽装出向とみなされると、派遣法にもとづく処分が下される可能性があります。では、在籍型出向は、なぜ無許可の労働者供給事業にならないのでしょうか。職業安定法で禁じられているのは、労働者供給を「業として」行う、つまりビジネスとして行うことです。

下記の目的で行われる在籍型出向は、業として行われていないと判断されます。

  • 一時的な不況に伴う余剰人員の雇用を守るために、関係会社で雇用機会を確保する
  • 経営や技術について労働者に指導を行う
  • 労働者の職業能力の開発を行う
  • 企業グループ内の人事交流の一環である

【参照】厚生労働省「在籍型出向『基本がわかる』ハンドブック(第2版)」|厚生労働省(2021年11月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000739527.pdf

偽装出向を見逃さない体制の構築方法

無許可の労働者供給事業は、労働者の権利を侵害し、労働力や賃金の搾取につながる可能性があります。一人ひとりが安心して働ける職場づくりのために、偽装出向を見逃さない体制を構築しましょう。

具体的には、下記の3点を徹底することが大切です。

  • 出向の目的を社内に周知し、偽装出向が起こるのを防ぐ
    出向元も出向先も、「出向の目的」を事前に社内で共有し、労働者供給にあたらないことを確認する。
  • 出向元が不当な利益を得ていないか確認する
    出向元と出向先のあいだに、出向者に対する給与以外の金銭のやりとりがある場合、偽装出向が疑われやすくなります。特に、グループ企業や関連会社以外の企業間では、出向による利益が出ていないことと、在籍型出向の目的のいずれかを満たしていることを証明できるようにしておきましょう。
  • 現場の状況を定期的に確認する
    出向元も出向先も、現場の勤務の実態を定期的に確認しておきましょう。派遣社員や出向者が混在している場合は、特に注意して勤務実態を見るようにしてください。

派遣との違いを明確に把握して、在籍型出向を活用しよう

在籍型出向は、コロナ禍での余剰人員の活用事例などで注目を集めている働き方です。

労働者の雇用を守りたい出向元、採用コストをかけずに優秀な労働者を雇用できる出向先、元の会社との雇用契約を維持しながら新しい経験を積むことができる出向者、3者それぞれにメリットがあります。在籍型出向の特徴をしっかり理解して、上手に活用していきましょう。

特に、派遣との違いを把握しておくことは、出向者の権利を守る上でとても重要です。本記事を参考に、偽装出向となることを防止し、健全な在籍型出向を推進してください。

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<監修者>
丁海煌(ちょん・へふぁん)/1988年4月3日生まれ。弁護士/弁護士法人オルビス所属/弁護士登録後、一般民事事件、家事事件、刑事事件等の多種多様な訴訟業務に携わる。2020年からは韓国ソウルの大手ローファームにて、日韓企業間のМ&Aや契約書諮問、人事労務に携わり、2022年2月に日本帰国。現在、韓国での知見を活かし、日本企業の韓国進出や韓国企業の日本進出のリーガルサポートや、企業の人事労務問題などを手掛けている。

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